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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第40話 副部長


 昼食が終わって少しすると、松田先輩が席を立った。


「じゃあ、昨日できなかった話やるか」


「登山の話ですよね」


「ああ。ちょっと待っててくれ」


 そう言って、一度グレートホールを出ていく。


 少しして戻ってきた松田先輩の手には、タブレットがあった。


「それ、何ですか?」


「候補とか出たら、その場で調べようと思って」


「準備いいですね」


「昨日は何も決まらなかったからな」


 松田先輩はテーブルの上にタブレットを置いた。


 それから全員を見回す。


「じゃあ始めるか。まず――」


「ちょっと待って」


 藤崎先輩がすぐに口を挟んだ。


「ん?」


「なんで松田君が仕切ってるの?」


「……何でって?」


 松田先輩が眉をひそめる。


「今から登山の予定を決めるんだろ?」


「うん」


「だから俺が進めようとしてるんだけど」


「それは分かるよ」


「じゃあ何だよ」


「なんで松田君なの?」


「……?」


 俺には、藤崎先輩が何を言いたいのか分からなかった。


 高志も同じだったらしい。


「弘」


「何?」


「松田先輩、副部長だって言ってたよな?」


「うん。俺もそう聞いてる」


「だよな。なら、おかしくないよな」


「そのはず」


 高志が松田先輩を見る。


「松田先輩、先輩が副部長なんですよね?」


「ああ」


 松田先輩は当然のように頷いた。


「だから俺が進めてるだろ」


「……でも」


 高志が藤崎先輩を見る。


 藤崎先輩は、少し不満そうな顔をしていた。


 ただ、そう思った直後。


「副部長、私だよ?」


 藤崎先輩が言った。


「……は?」


 松田先輩が固まった。


 俺も藤崎先輩を見る。


「藤崎先輩が?」


「うん」


「副部長?」


「そう」


「いや、待て待て」


 松田先輩が手を上げた。


「何でお前が副部長なんだよ」


「だって、今回のこと私が頼まれてるから」


「今回のこと?」


「うん。サークルのこと、あとよろしくって言われてるし」


「……」


 松田先輩が数秒黙った。


 それから。


「それなら俺も頼まれてるぞ」


「え?」


「今回のことも頼まれてるし、俺も『あとよろしく』って言われてる」


「……」


 今度は藤崎先輩が黙った。


「でも」


 そこで千夏が口を挟んだ。


「私は彩香先輩が副部長だと思ってましたけど」


「え?」


 松田先輩が千夏を見る。


「千夏ちゃんも?」


「はい」


「何で?」


「彩香先輩から、そう聞いてたので」


「本人からじゃねえか!」


 高志が思わず突っ込んだ。


 千夏が吹き出す。


「確かに」


「確かにじゃないだろ」


 俺は松田先輩と藤崎先輩を見比べた。


 ますます分からなくなってきた。


「じゃあ……」


 高志が言う。


「どっちが副部長なんですか?」


「俺だろ」


 松田先輩が即答する。


「いや、私でしょ」


 藤崎先輩もすぐに返した。


「何でだよ!」


「私も頼まれてるんだから」


「俺もだって!」


「でも松田君、副部長って直接言われたの?」


「……」


「言われた?」


「いや……」


 松田先輩が少し言葉に詰まる。


「でも、今回のこと頼むって言われてるんだぞ。それに、あとよろしくって」


「私も同じだよ」


「だったら俺だろ」


「何で?」


「俺の方が向いてるからだよ!」


「それ自分で言う?」


 藤崎先輩が笑った。


 そのとき。


「いや、ちょっと待て」


 大野先輩が口を挟んだ。


「何だよ、修平」


「副部長なら俺じゃない?」


「…………」


 松田先輩の顔が止まった。


 俺も大野先輩を見る。


「大野先輩ですか?」


「うん」


「何でお前なんだよ!」


 松田先輩が叫ぶ。


「何でって」


 大野先輩は少し考えてから言った。


「俺、責任感あるし」


「責任感?」


「副部長なら責任感、大事だろ?」


「お前が?」


「何だよ、その言い方」


「今日のお前、朝からいなかっただろ!」


「……」


「昼まで俺がずっと探してたんだぞ!」


「あれはちょっと用事があったんだよ」


「電話にも出ない。メッセージも見ない。それで責任感?」


「俺だって、やる時はやるんだよ」


「いつだよ!」


「やらなきゃいけない時」


 一瞬の沈黙。


 それから、周りから笑い声が上がった。


「何で笑うんだよ」


 大野先輩はあまり気にした様子もない。


「修平」


 松田先輩が呆れたように言う。


「今日だろ!」


「今日はちょっと違う」


「何が違うんだよ!」


 さらに笑いが広がる。


 神谷先輩まで吹き出した。


「圭介、必死すぎ」


「笑い事じゃない!」


「まあ、でも」


 神谷先輩はまだ笑いながら続けた。


「修平よりは俺の方が向いてると思うけどな」


「……は?」


 松田先輩がゆっくり神谷先輩を見る。


「何?」


「今、何て言った?」


「俺の方が副部長に向いてるって」


「お前もかよ!」


「何でだよ」


「何でお前まで副部長になるんだ!」


「俺、コミュニケーション能力あるし」


「は?」


「他のサークルと何かやる時、向こうと話すの大体俺だろ?」


「まあ……」


「他のサークルにも知り合い多いし。連絡取ったり、人数まとめたりするのも俺だし」


 神谷先輩が松田先輩を見る。


「だったら圭介がやるより、俺がやった方が向いてるだろ」


「何でそうなるんだよ」


「実績あるじゃん」


「何の実績だよ」


「飲み会の店取ったりするのも大体俺だろ?」


「待て」


 松田先輩が遮った。


「最後のは、ただの飲み会の幹事だろ」


「それもコミュニケーション能力だって」


「飲み会を開く能力だ!」


「人まとめてるだろ」


「登山サークルだぞ!」


「登山したあと飲むじゃん」


「そこを基準にするな!」


 神谷先輩が笑う。


 大野先輩も笑っていた。


 藤崎先輩も。


 そのとき。


 三人が、一瞬だけ目を合わせたように見えた。


 藤崎先輩。


 大野先輩。


 神谷先輩。


 ほんの一瞬だった。


 ……今、何か合図した?


 いや。


 気のせいか。


「とにかく!」


 松田先輩が声を上げた。


「副部長は俺だ!」


「私だよ」


 藤崎先輩が言う。


「俺だって」


 大野先輩も譲らない。


「俺が一番向いてると思うけどな」


 神谷先輩まで続く。


「お前らなあ!」


 松田先輩だけが本気で怒っている。


 俺は四人を順番に見た。


 松田先輩。


 藤崎先輩。


 大野先輩。


 神谷先輩。


「……高志」


「何?」


「副部長って」


「ああ」


「四人いるの?」


「……俺にも分からん」


 副部長が四人。


 一体、どういうサークルなんだ。


 というか。


 このままじゃ、肝心の登山計画がまったく進まない。


 そんな俺の心配をよそに、四人の副部長争いはまだ続いていた。


 俺たち一年生四人は、ただそれを見ていることしかできなかった。



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