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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第39話 全員集合


「そういえば」


 少しして、神谷先輩が大野先輩を見る。


「俺、朝言ったよな」


「何を?」


「どうせメイドさんにちょっかい出してるんじゃないかって」


「……」


「当たってたじゃん」


「うるさい」


「本当に当たるとは思わなかったけど」


「だから大したことじゃないって」


「朝からずっと?」


「時間は関係ないだろ」


「あるだろ」


 松田先輩が呆れたように言う。


「こっちはずっと探してたんだぞ」


「悪かったって」


「で、結局何してたんだよ」


「それ言う必要ある?」


「ないな」


 神谷先輩が笑う。


「言わなくていい」


「何で亮介が決めるんだよ」


「聞かなくても何となく分かるから」


「分かってないって」


「はいはい」


「お前な」


 またみんなが笑う。


 どうやら本当に、大野先輩は何か危ない目に遭っていたわけではなかったらしい。


 朝から見つからなかったのも。


 電話に出なかったのも。


 メッセージを見なかったのも。


 全部、大野先輩らしい理由だった。


 心配して損した。


「で、その人の部屋にずっといたんですか?」


 俺が聞く。


「まあな」


「朝から?」


「……まあ」


「修平」


 松田先輩が呆れた声を出す。


「お前なあ……」


「もういいだろ。ほっといてくれよ」


「よくないから探してたんだろ」


「見つかったんだからもういいじゃん」


「そういう問題じゃない」


「圭介、細かいな」


「朝から屋敷中探し回った俺に言うか、それ?」


「悪かったって」


 大野先輩は面倒そうに答えた。


 その前には、まだほとんど手をつけられていない昼食が置かれている。


 松田先輩がそれを見る。


「で、いいから食えよ」


「だから、いらないって言ってるだろ」


「腹減ってないわけないだろ」


「減ってないんだよ」


「朝も食ってないんだぞ?」


「一食や二食抜いたって平気だって」


「平気かどうかじゃなくて食えって言ってんの」


「何でそんなに食わせたいんだよ」


「昨日の夜からまともに食ってないだろ」


「別にいいじゃん」


「よくない」


「圭介、さっきからそればっかりだな」


 神谷先輩が笑う。


「修平もずっと同じこと言ってるけどな」


「だっていらないもんはいらないんだから仕方ないだろ」


「子供かよ」


「腹減ってないだけだって」


 どうやら大野先輩が戻ってきてから、ずっとこんな調子らしい。


 松田先輩が食べろと言って。


 大野先輩がいらないと言う。


 どちらもまったく譲っていない。


「一日二日くらい食わなくても平気だって」


「だから何で二日まで伸びるんだよ」


「例えばの話だよ」


「その例えがもうおかしいだろ」


「食いたくないときに無理して食う方が身体に悪いって」


「絶対適当に言ってるだろ」


「本当かもしれないだろ」


「かもしれないって言ったな、今」


「細かいなあ」


 大野先輩が面倒そうに息を吐く。


 松田先輩も、さすがに疲れてきたらしい。


「もういいから、一口でも食え」


「嫌だって」


「修平」


「圭介」


 二人が睨み合う。


 そのやり取りを少し離れたところから見ていた久世さんが、静かにこちらへ近づいてきた。


「大野様」


「ん?」


「差し出がましいようではございますが、お食事はきちんとお召し上がりいただくことをお勧めいたします」


「久世さんまでですか?」


 大野先輩が苦笑する。


「俺、本当に腹減ってないんですよ」


「左様でございますか」


「はい。だから一食くらいなら」


「もちろん、一度お食事を抜かれたからといって、すぐにどうにかなるものではございません」


「ですよね」


 大野先輩が松田先輩を見る。


「ほら」


「まだ話の途中だろ」


 松田先輩が言った。


 久世さんは穏やかな表情のまま続ける。


「ですが、お食事と睡眠を十分に取り、規則正しくお過ごしいただくことは、お身体のためにも大切でございます」


「いや、それは分かりますけど」


「お口に合わないようでしたら、別のものをご用意することもできます」


「そういうわけじゃないんですよ」


「でしたら、少量でも構いません」


「……」


 大野先輩が料理を見る。


 久世さんは急かすこともなく、そのまま待っていた。


「皆様には、できる限り健やかにお過ごしいただきたいと考えております」


「……そこまで言われたらなあ」


 大野先輩が困ったように笑う。


「じゃあ、少しだけ食べます」


「ありがとうございます」


 久世さんは満足そうに一礼した。


「何で久世さんには素直に言うこと聞くんだよ」


 松田先輩が言った。


「圭介がしつこいからだろ」


「俺も同じこと言ってただろ!」


「言い方の問題じゃない?」


「何が違うんだよ!」


 神谷先輩が笑う。


「圭介の負けだな」


「何の勝負だよ」


「修平を飯食わせる勝負」


「そんな勝負してねえよ!」


「でも負けてるじゃん」


「うるさい!」


 また笑いが起きる。


 大野先輩は諦めたように席へ座った。


 その横では、高志が空になった皿を見ていた。


「すみませーん」


「何だよ」


 俺が見ると、高志が近くにいた使用人へ声をかける。


「これ、おかわりってできます?」


「もちろんでございます」


「じゃあお願いします」


「お前、まだ食うの?」


 神谷先輩が驚いたように高志を見る。


「腹減ってるんですよ」


「朝あんなに死んでたのに?」


「だから朝ほとんど食ってないんですって」


「お粥食ってただろ」


「あんなの食べたうちに入らないですよ」


「途中で気持ち悪くなってたもんな」


 俺が言うと、高志がこっちを見る。


「それ言うなよ」


「事実だろ」


「でも今はもう完全に治ったから」


「便利な身体してんな」


「薬がよかったんですよ」


 少しして、追加の料理が運ばれてくる。


「ありがとうございます」


 高志は嬉しそうに食べ始めた。


「うまい」


「さっきからそれしか言ってないな」


「うまいもんはうまいんだからいいだろ」


「朝のお前にも見せてやりたいよ」


「もう忘れろ」


 隣を見る。


 大野先輩も、久世さんに言われた通り料理に手をつけていた。


 一口。


 二口。


 そして。


 普通に三口目も食べている。


 松田先輩がそれを見逃さなかった。


「お前、普通に食ってるじゃねえか」


「……」


「腹減ってなかったんじゃないのか?」


「食えって言うから食ってるだけ」


「結構いい勢いだけど」


「うるさいな」


「一日二日食わなくても平気なんじゃなかったのか?」


「圭介、本当に細かいぞ」


「朝から探し回らされたうえに、飯まであれだけ拒否されたからな。今日は言わせてもらう」


「根に持ってんなあ」


「当たり前だろ」


 大野先輩は文句を言いながらも、結局また料理を口に運んだ。


 その様子を見て、俺は思わず笑った。


 大野先輩も見つかった。


 高志もすっかり元気になった。


 松田先輩も戻ってきた。


 改めてグレートホールを見回す。


 俺。


 高志。


 奈緒。


 千夏。


 大野先輩。


 神谷先輩。


 藤崎先輩。


 松田先輩。


 八人。


 ようやく全員揃った。


 朝からいろいろあったけど、これでもう大丈夫だろう。


 食事が終わったら、予定通り登山の話を始めればいい。


 今日こそは、次に登る山を決める。


 それさえ終われば、ようやく帰れる。


 みんなも協力すると言ってくれている。


 それに、松田先輩も副部長として話をまとめてくれるはずだ。


 これでようやく。


 普通に話し合いができる。


 俺はそう思いながら、残っていた昼食を口に運んだ。


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