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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第41話 登山の話が一歩も進まない

「……副部長って、何人いるんですか?」


 俺がそう聞いてから。


 約三十分が経った。


「だから俺だって」


「違う。私」


「いや、普通に考えたら俺だろ」


「何でお前らそんなに往生際悪いんだよ」


 何も進んでいなかった。


 松田先輩。


 藤崎先輩。


 神谷先輩。


 大野先輩。


 四人がそれぞれ自分こそ副部長だと言い張り続けている。


 最初のうちは少し面白かった。


 高志も笑っていたし、奈緒や千夏も楽しそうに見ていた。


 でも。


 三十分も続けば、さすがに飽きる。


「なあ、弘」


「ん?」


 隣にいた高志が、まだ言い争っている四人を見ながら小声で聞いてきた。


「これ、どうなるんだ?」


「俺に聞くなよ」


「だって、お前は松田先輩が副部長だと思ってたんだろ?」


「思ってたっていうか、本人がそう言ってたからな」


 少なくとも昨日までは、それを疑う理由なんてなかった。


 今でも、四人の中から誰か一人を選べと言われたら、俺は松田先輩だと思う。


「高志は?」


「俺?」


「誰が副部長だと思う?」


 高志は少し考えてから、神谷先輩を見た。


「個人的には神谷先輩かな」


「神谷先輩?」


「俺、一番世話になってるし。サークル入ってからも色々教えてもらったからな」


「でも、お前も松田先輩が副部長だと思ってたんじゃないのか?」


「お前が、松田先輩本人から副部長だって聞いたって言ってたから、そうなんだと思ってただけ」


「そんな感じだったのかよ」


「だって、副部長が誰かなんて今まで気にしたことなかったし」


 それは俺も同じだった。


「でも俺が選ぶなら神谷先輩。個人的には一番世話になってるし、神谷先輩が副部長だったらいいなとは思う」


「なるほどな」


 高志なりにちゃんと理由はあるらしい。


「奈緒と千夏は?」


 俺が聞くと、二人もこちらを向いた。


「私は彩香先輩かな」


 千夏がすぐに答える。


「私も彩香先輩」


 奈緒も続いた。


「二人とも藤崎先輩か」


「頼りになるしね」


「うん。頭も回るし」


 やっぱり女子二人からすると、藤崎先輩になるらしい。


「でも俺は松田先輩だと思うけどな」


「何で?」


 奈緒に聞かれて、俺は少し考えた。


「四人の中なら、一番責任感がありそうじゃないか?」


「責任感?」


「副部長なんだから大事だろ」


「大事なのは分かるよ」


 奈緒はそう言ってから、少し首を傾げた。


「でも、副部長に一番必要なのが責任感かって言われたら、私はそうは思わないかな」


「私もです」


 千夏もすぐに頷いた。


「責任感が一番必要なのって、部長じゃないですか?」


「部長か……」


 俺はまだ部長に会ったことがない。


 どんな人なのかも知らない。


「まあ、部長さんがちゃんと責任感ある人なら、副部長まで同じじゃなくてもいいのかもしれないけど」


「でしょ?」


「でも今、その部長がここにいないだろ」


 俺が言うと、奈緒が少し眉を上げた。


「今?」


「今日は登山の計画を決めないといけないんだから、今は責任感ある人にまとめてもらった方がいいだろ」


「ああ、そういうこと」


 奈緒は納得したように頷いた。


「でも、それって今日だけの話じゃない?」


「え?」


「部長がいないから、今日だけ副部長にまとめてもらいたいってことでしょ?」


「まあ……そうだけど」


「だったら、それを副部長に一番必要な条件にするのは違う気がする」


「それ分かります」


 今度は千夏が奈緒に同意した。


「普段は部長がいるんだったら、副部長まで責任感ばっかり求めなくてもいいですよね」


「でも副部長だぞ?」


「責任感がいらないとは言ってませんよ」


 千夏が笑う。


「必要なのは分かります。でも、部長も副部長も責任感が強い人だったら、ちょっと窮屈じゃないですか?」


「それはあるかも」


 奈緒も頷いた。


「上の二人が二人とも何でもきっちりしてたら、ちょっと疲れそう」


「いや、だから今はその責任感が必要なんだって」


「今だけでしょ?」


「今必要なら必要だろ」


「でも今必要なのは、責任感のある副部長じゃなくて、話をまとめてくれる人じゃない?」


「それが副部長だろ」


「副部長じゃなくても、まとめられる人ならよくない?」


「それだと副部長の意味ないだろ」


「いや、あるでしょ」


「あるんですか?」


「あるよ」


「何が?」


「……何だろう」


 奈緒が少し考え込んだ。


「ほら」


「でも弘だって、副部長は責任感が一番大事って勝手に決めてるだけじゃん」


「勝手にって……」


「私は話しやすさの方が大事だと思う」


「私もです」


 千夏も頷いた。


「何かあったときに相談しやすい人の方がいいです」


「だったら神谷先輩だろ」


 高志がすぐに入ってきた。


「神谷先輩?」


「俺、一番世話になってるし。普通に一番話しやすいぞ」


「それ、田野が神谷先輩と仲いいからでしょ」


「そりゃ仲いいけど、それも大事だろ」


「それに田野は男じゃないですか」


「男なの関係ある?」


「ありますよ。同性なんだから、そりゃ話しやすいでしょ」


「ああ……まあ、それはあるか」


 高志が少しだけ納得した。


「私は異性の先輩に相談するなら、大野先輩が一番話しやすいです」


「大野先輩?」


「はい。男の先輩三人の中だったら、大野先輩が一番話しやすいですよ」


「松田先輩や神谷先輩より?」


「私はそうですね」


 千夏に言われて、俺は大野先輩を見る。


 責任感があるかと言われれば、正直かなり怪しい。


 でも。


「……まあ、話しやすいっていうなら、確かに大野先輩かもしれないな」


「ほら」


 千夏が嬉しそうに言った。


「いや、でも今は話しやすさより責任感だろ」


「またそこに戻るの?」


 奈緒が呆れたように言う。


「戻るだろ。今日は計画を決めなきゃいけないんだから」


「でも今は別に、副部長を決めなくてもいいんじゃないですか?」


 千夏が言った。


「何でだよ。誰かがまとめないと計画決まらないだろ」


「みんなで決めればいいじゃないですか」


「それで三十分何も決まってないんだろ」


「でも副部長を決めようとしても三十分何も決まってないですよ」


「…………」


「ほら」


「いや、でも誰かがまとめないと」


「だから、それが副部長じゃなくてもいいって話でしょ?」


 奈緒が言う。


「でも副部長がいるなら、副部長がまとめるのが普通だろ」


「その副部長が誰か分からないから今こうなってるんじゃん」


「だから決めようとしてるんだよ」


「でも今日だけのために決めるの?」


「今日だけじゃないだろ」


「じゃあ責任感だけで決めるのは違うよね?」


「……だから」


 何だこれ。


 話しているはずなのに、さっきから同じところをぐるぐる回っている。


 「じゃあ私は彩香先輩」


 奈緒が言った。


「頼りになるし、話しやすいから」


「俺は松田先輩」


「俺は神谷先輩だな」


「じゃあ私は大野先輩で」


「だから何で四人に分かれるんだよ!」


 思わず声を上げた。


 その横では、先輩四人もまだ言い争っている。


 あっちも終わらない。


 こっちも終わらない。


 登山の計画を決めるために集まったはずなのに、山の話にはまだ一歩も進んでいなかった。



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