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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第37話 昼食


 ハイキングコースから戻った俺と高志は、捜索を終え、そのままグレートホールへ向かっていた。


「そういや、弘」


「何?」


「先輩たち、今日の昼は十二時にグレートホールってちゃんと分かってんの?」


「分かってると思うけど」


「またダイニングホール行ってたりしない?」


「昨日じゃないんだから」


「昨日じゃないけど、昨日あれだけ飲んでた人たちだぞ」


「お前が言うなよ」


「俺は朝まで死んでたから知らないんだよ」


「開き直るな」


 高志が笑う。


「朝会った人には言ってるよ。千夏と藤崎先輩と神谷先輩には言ったし」


「奈緒は?」


「千夏たちが伝えてるはず」


「松田先輩と大野先輩は?」


「……そこなんだよな」


 大野先輩はまだ見つかっていない。


 松田先輩は、その大野先輩を探しに行ったままだ。


「まあ、松田先輩なら時間くらい覚えてるだろ」


「ならいいけど」


「あ、それと」


 高志がスマートフォンを取り出した。


「お前知らないうちに、俺もLINE送っといたから」


「いつ?」


「部屋で薬飲んで復活したあと」


「元気になるの早いな」


「暇だったんだよ。一応、十二時にグレートホール集合って送っといた」


「じゃあ大丈夫か」


「何人か返事も来てる。奈緒も千夏も藤崎先輩も神谷先輩も見てる」


「松田先輩は?」


「返事なし」


「大野先輩は?」


「既読にもなってない」


「やっぱりか……」


「でも、松田先輩は大野先輩探してるんだろ? 見つけたら二人で来るんじゃね?」


「そうだといいけど」


「まあ、これだけ連絡してるなら大丈夫だろ」


「だな」


 俺もそう思うことにした。


 少なくとも、集合場所を知らなくて誰も来ない、なんてことにはならないはずだ。


◇


 グレートホールへ入る。


「遅いよー」


 真っ先に声をかけてきたのは千夏だった。


「まだ十二時前だろ」


「でも最後じゃん」


「最後じゃない。二人いないだろ」


「あ、そうだった」


 中を見渡す。


 奈緒。


 千夏。


 藤崎先輩。


 神谷先輩。


 すでに四人が席についていた。


 やはり、松田先輩と大野先輩はいない。


「ちゃんとみんなこっち来てるじゃん」


 高志が小声で言う。


「だから言っただろ」


「ちょっとだけ心配だったんだよ」


「お前が?」


「何だよ」


 俺と高志は並んで空いている席に座った。


「田野、もう大丈夫なの?」


 奈緒が高志を見る。


「完全復活」


「朝、すごい顔してたのに」


「薬もらったんだよ」


「薬?」


「俺が部屋戻ったあと、メイドさんが二日酔いの薬持ってきてくれて。それ飲んで寝たら一気に楽になった」


「へえ」


 千夏が感心したように頷く。


「そんなものまで用意してあるんだ」


「この屋敷、何でもあるな」


 神谷先輩が笑う。


「お前、朝はお粥でも死にそうになってただろ」


「もう腹減ってますよ」


「本当に元気じゃん」


「だから言ってるじゃないですか」


「若いってすげえな」


「神谷先輩もそんな歳変わらないでしょう」


「俺は昨日あれだけ飲んでも朝から元気だったからな」


「それは自慢にならないです」


「しかも今日も飲みたいって言ってましたよね」


 俺が言うと、神谷先輩は堂々と頷いた。


「言った」


「そこは否定してくださいよ」


「何で?」


「何でじゃないですよ」


 みんなが笑う。


 少なくとも、今朝とは全然違う。


 今日こそ昼のうちに登山の話をちゃんと決められそうだった。


 しばらくすると、久世さんが数人の使用人を連れてグレートホールへ入ってきた。


「皆様、お揃いでございますね」


「あ、久世さん」


「昼食のご用意が整っております。配膳させていただいてもよろしいでしょうか」


「お願いします」


 俺は答えてから、空いている二席を見る。


「松田先輩と大野先輩の分もお願いします。たぶん、すぐ来ると思うんで」


「かしこまりました」


 久世さんが頭を下げる。


 それから使用人たちが、それぞれ料理を運び始めた。


「うわ、うまそう」


 高志が料理を見た瞬間に声を上げた。


「お前、本当に朝と別人だな」


 神谷先輩が呆れたように笑う。


「腹減ってるんですよ」


「朝、ほとんど食えなかったからな」


「そうなんですよ。薬飲んだらすぐ良くなって」


「そんな効くもんなのか」


「俺もびっくりしました」


「だったら昨日の夜に飲ませてもらえばよかったな」


「酔っ払ってる最中に二日酔いの薬飲んでも仕方ないでしょう」


「確かに」


 そんなやり取りをしている間にも、次々と料理が並べられていく。


 その中に、見覚えのある顔があった。


「ミオ」


「はい、若様」


 朝、遊技室で話したミオだった。


 俺の前へ料理を置き、静かに一礼する。


「ありがとう、ミオ」


「いえ。どうぞごゆっくりお召し上がりくださいませ」


 すると。


「……ミオっていうんだ」


 奈緒が小さく言った。


「ん?」


「その人」


「ああ。さっき名前聞いたんだよ」


「へえ……」


 奈緒がミオをちらりと見る。


「なんか、ちょっと意外」


「何が?」


「ううん。別に」


「?」


 よく分からなかった。


 名前が意外って、どういう意味なんだろう。


 けれど、ちょうど高志が隣から、


「弘、これ食べていいよな?」


「何で俺に許可取るんだよ」


 と聞いてきたので、そのまま話は流れた。


 料理が全員分並ぶ。


 空いている二席にも、松田先輩と大野先輩の料理が置かれた。


「二人待つ?」


 奈緒が聞く。


「どうする?」


 俺が時計を見る。


 もう十二時は過ぎている。


「先に食べちゃっていいんじゃない?」


 千夏が言った。


「どうせすぐ来るでしょ」


「私もそう思う」


 藤崎先輩も頷く。


「冷めちゃうしね」


「そうですね」


 俺も頷いた。


「じゃあ先に食べましょうか」


「いただきます」


 高志が一番早かった。


「早いな、お前」


「腹減ってるんだって」


 俺たちもそれぞれ料理を食べ始める。


 今日の昼食も、相変わらず豪華だった。


「そういえば」


 食べながら、俺は女性陣を見る。


「みんな午前中何してたの?」


「私はお風呂入ったり、ちょっと屋敷の中見てたりかな」


 藤崎先輩が答える。


「朝も歩いたんですよね?」


「うん。朝はハイキングコース」


「結構よかったですよ」


 俺が言うと、藤崎先輩が嬉しそうに笑う。


「でしょ? 景色いいよね」


「俺たちもさっき行ってきました」


「田野君、もうそんなに元気だったんだ」


「薬のおかげっす」


「奈緒と千夏は?」


 高志が聞く。


「私たちも外歩いてたよ」


 千夏が答えた。


「ハイキングコース」


「やっぱり」


 俺は頷く。


「途中で見えたよ」


「え、いたの?」


 奈緒が驚く。


「別のコースから見えた。四人で歩いてただろ」


「ああ」


 奈緒が納得する。


「執事さんたちと一緒だったときかな」


「……執事さん?」


 高志が一瞬、不思議そうな顔をした。


「うん」


 千夏も普通に頷く。


「途中から二人一緒に歩いてくれたの」


「へえ……」


 高志が俺を見る。


 俺も少しだけ首を傾げた。


 俺たちには、若いメイドが二人いるように見えたはずだ。


 でも、距離もあったし、木々の間から見ていた。


 服装か何かを見間違えたのかもしれない。


「何?」


 奈緒が聞く。


「いや、何でもない」


 高志がそう答えたので、俺もそれ以上は考えなかった。


「でも、ずいぶん仲良さそうだったよな」


「そう?」


「四人で手つないで歩いてただろ」


「ああ、あれね」


 千夏が笑う。


「ちょっとふざけてただけ」


「楽しそうだったぞ」


「楽しかったよ」


「俺たちよりハイキング満喫してるじゃん」


「そっちは男二人で歩いてただけでしょ?」


「悪かったな」


「別に悪いとは言ってないよ」


 そんな話をしながら昼食は進んでいく。


 けれど。


 松田先輩と大野先輩の席だけは、いつまで経っても空いたままだった。


「遅いですね」


 俺が言うと、神谷先輩が気にした様子もなく料理を口に運ぶ。


「そのうち来るだろ」


「大野先輩、まだ見つかってないんですかね」


「圭介が探してるんだから大丈夫だって」


「でも――」


 そのときだった。


 グレートホールの扉が開く。


「ほら、来いって」


「だから俺はいいって」


 聞き覚えのある声。


 全員がそちらを向いた。


「あ」


 松田先輩だった。


 そして、その隣には。


「大野先輩!」


 朝からずっと姿が見えなかった大野先輩がいた。


 ただ。


 自分から戻ってきた、という雰囲気ではない。


 松田先輩に腕を掴まれ、半ば引きずられるようにしてグレートホールへ入ってきていた。


「圭介、離せって」


「離したらまたどっか行くだろ」


「行かねえよ」


「信用できるか」


 大野先輩は見るからに面倒そうな顔をしている。


「俺、飯はいいって言っただろ」


「そういうわけにいかないだろ。みんな集まってるんだから」


「別に俺抜きで食ってりゃいいじゃん」


「もう食ってるよ」


 神谷先輩が言った。


「ほら」


 大野先輩が松田先輩を見る。


「俺いなくても問題なかったじゃん」


「そういう問題じゃない」


「朝から連絡もつかないやつが何言ってんだよ」


「悪かったって」


「こっちがどれだけ探したと思ってるんだ」


「だから謝ってるだろ」


 松田先輩は大野先輩を離さないまま、そのまま俺たちのところまで連れてくる。


「見つかったんですね」


 俺が言うと、松田先輩は大きくため息をついた。


「見つけたよ。やっとな」


「どこにいたんですか?」


 そう聞いた瞬間。


 大野先輩が少しだけ気まずそうな顔をした。


「……まあ、それはいいだろ」


「よくないだろ」


 松田先輩がすぐに返す。


「朝からずっと探してたんだぞ」


「分かったって」


「だったらちゃんと説明しろ」


「野暮だなあ……」


「何が野暮なんだよ」


 大野先輩は、心底面倒そうにため息をついた。


 俺たちは顔を見合わせる。


 とりあえず。


 朝から行方の分からなかった大野先輩は、無事だった。


 ただ。


 どこにいたのかについては、どうやら素直に話してくれるつもりはないらしい。


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