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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第35話 捜索


 屋敷へ戻ると、玄関の近くにはさっきと同じように使用人が立っていた。


「おかえりなさいませ、若様」


「ただいま戻りました」


 高志も軽く頭を下げる。


 そのまま中へ入ろうとして、ハイキングコースで見た栗やクルミの木を思い出した。


「あ、そうだ」


 俺は使用人を見る。


「ちょっと聞いてもいいですか?」


「はい。何でございましょう」


「ハイキングコースの途中に、栗とかクルミの木がたくさんありましたよね?」


「はい」


「あれって、誰かが植えたんですか?」


 使用人はすぐに頷いた。


「奥様がお好きですので、以前から少しずつ植えていたものと聞いております」


「母さんが?」


「はい。手入れを続けているうちに、今のようになったそうでございます」


「へえ……」


 初めて聞いた。


 俺がそんなことを考えていると、隣で高志が笑った。


「お前、自分の母親の趣味も知らないのかよ」


「知らないよ。栗が好きなのは知ってるけど、木まで植えてるなんて聞いたことない」


「十年前にも来たんだろ?」


「来たけど、そんなところまで覚えてないって」


「金持ちの家って、趣味の規模まで違うんだな」


「俺に言うなよ」


 高志がまだ笑っている。


 そこで、もう一つ気になった。


「そういえば、花もかなり多かったですよね」


「はい」


「それも母さんですか?」


「はい。奥様はお花もお好きですので」


「……それも?」


「左様でございます」


 また高志が吹き出した。


「お前、本当に何も知らないじゃん」


「うるさいな」


「栗もクルミも花も全部お母さんの趣味なのに?」


「じゃあ、お前は知ってるのかよ」


「何を?」


「自分の母親の好きなものとか」


「知ってるぞ」


「……本当に?」


「ああ」


 高志は何でもないことのように頷いた。


「甘いもの好き。特にモンブラン。辛いもの苦手。最近は観葉植物に凝ってる」


「……へえ」


「あと身長百五十八くらい」


「何で身長まで知ってんだよ」


「この前健康診断の紙見たから」


「見るなよ」


「見えるところに置いてあったんだよ」


「じゃあ体重は?」


「五十――」


「待て待て待て!」


 思わず止めた。


「何だよ」


「何で本当に答えられるんだよ!」


「聞いたのお前だろ」


「いや、普通そこまで知らないと思うじゃん!」


「知らないの?」


「知らないよ!」


 高志が呆れたような顔をした。


「お前、本当に母親のこと知らないんだな」


「いや、お前の方が気持ち悪いから」


「何でだよ!」


「母親の体重まで即答できる大学生、なかなかいないぞ」


「だから健康診断の紙を見ただけだって!」


「十分気持ち悪い」


「お前が聞いたんだろ!」


「今回は俺が変なのかと思ったけど、やっぱりお前の方が変だったわ」


「納得いかねえ」


 俺は笑った。


「これ、あとでみんなに言おう」


「絶対やめろ!」


「高志、母親の身長と体重まで暗記してるって」


「暗記してねえよ!」


「でも言えたじゃん」


「たまたま覚えてただけ!」


「同じだろ」


「違う!」


 高志が本気で嫌そうな顔をする。


 これはあとで奈緒たちにも教えてやろう。


「若様」


「あ、すみません」


 使用人を放ったらかしにしていた。


「栗とかクルミは、収穫もしてるんですか?」


「はい。時期になりますと、こちらで収穫しております」


「ほら、やっぱり」


 高志が少し得意そうに言った。


「何が?」


「俺、言っただろ。あれだけ手入れしてるなら収穫してるんじゃないかって」


「はいはい。お前の言った通りだったよ」


「何だよ、その言い方」


 高志が笑う。


「花もずっと手入れしてるんですか?」


「もちろんでございます」


「なるほど」


 だったら、高志が言っていた通りだったわけだ。


 自然にできた林じゃない。


 誰かが植えて、今もきちんと管理している。


 花が多いのも同じだ。


 理由まで分かってしまえば、別に不思議なことでもなかった。


 そこで、もう一つ思い出した。


「あ、そういえば」


「はい」


「ハイキングコースの途中に、倉庫みたいな建物がいくつかありましたよね?」


「はい。ございます」


「あれも何かに使ってるんですか?」


「はい。収穫した栗やクルミなどを一時的に保管したり、山道や庭園の整備に使う道具を置いたりしております」


「ああ、やっぱり倉庫なんだ」


「左様でございます」


 高志が俺の横で頷く。


「じゃあ、あの辺の木を手入れする道具とかも置いてるんだな」


「はい」


「なるほどな」


 外から見たときも、ただの倉庫にしか見えなかった。


 栗やクルミを収穫しているなら、それを近くに保管する場所があるのも不思議じゃない。


 山道そのものもきれいに整備されていたし、そのための道具を置いておく場所が必要なのも当然だろう。


「ありがとうございます。いろいろ聞いちゃってすみません」


「いいえ。何なりとお尋ねくださいませ」


 使用人が静かに頭を下げる。


 俺たちはそのまま屋敷の中へ入った。


 スマートフォンで時間を確認する。


 十二時までは、まだ少しだけ時間がある。


「じゃあ、探すか」


「大野先輩?」


「ああ」


 朝から松田先輩がずっと一人で探している。


 神谷先輩は、どうせどこかで遊んでいるだけだろうと言っていた。


 俺も、たぶんそうなんだろうとは思っている。


 でも、いくらなんでも松田先輩一人に何時間も探させたままなのは悪い。


 それに松田先輩には、これから副部長として頑張ってもらわないといけない。


 そんな人に今から全部任せきりというのも、何となく気が引けた。


「まず客室から見る?」


 高志が聞いてくる。


「そうだな」


 俺たちは、さっき通ったばかりの一階の客室廊下へ向かった。


     ◇


 一本の廊下。


 左右に五部屋ずつ。


 全部で十部屋。


 さっき確認したばかりだから、もう迷わない。


「大野先輩は六号室だったよな」


「ああ」


 一番奥まで歩く。


 六号室。


 俺は扉を叩いた。


「大野先輩」


「…………」


 返事はない。


 もう一度。


「大野先輩、いますか?」


「…………」


「いないな」


 高志が言う。


「だな」


 取っ手に手をかける。


 鍵はかかっていなかった。


「失礼します」


 扉を開けて中を覗く。


 やっぱり、誰もいない。


 荷物は残っている。


 でも、大野先輩の姿はなかった。


「まあ、当たり前か」


「何が?」


「松田先輩が朝から探してるんだろ? ここにいたら、とっくに見つかってるって」


「それもそうだな」


 扉を閉める。


 隣の七号室。


 松田先輩の部屋だ。


「一応、松田先輩も見てみる?」


「探してるならいないだろ」


「一応」


 扉を叩く。


「松田先輩?」


「…………」


 反応はない。


「やっぱりいないな」


「まだ探してるんだろうな」


「たぶん」


 俺たちは客室廊下を出た。


「他も見るか」


「おう」


 一階を歩き、途中にある部屋を確認していく。


 シアタールームまで来たところで、扉を少し開けた。


「……あ」


 中に人がいる。


 でも、大野先輩じゃなかった。


「奈緒」


 奈緒だった。


 一人で座り、大きな画面をじっと見ている。


「奈緒」


「…………」


 返事がない。


「奈緒?」


「…………」


 高志が小声で言った。


「集中しすぎじゃね?」


「だな」


 もう少し近づいて。


「奈緒」


「えっ!?」


 ようやく奈緒がこっちを振り返った。


「何?」


「いや、大野先輩見なかった?」


「大野先輩?」


「ああ」


 奈緒が少し考える。


「見てないけど」


「そっか」


「まだ見つかってないの?」


「まだ」


「どこ行ったんだろうね」


「それを探してる」


「ああ」


 奈緒は頷くと、すぐに画面へ顔を戻した。


「見つけたら教えて」


「分かった」


 もう映画に集中している。


 俺と高志は顔を見合わせた。


「行くか」


「だな」


 邪魔するのも悪い。


 俺たちはシアタールームを出た。


「次どうする?」


「二階かな」


「女子の客室あるところ?」


「ああ」


 一階には中央と東側と西側、三か所に階段がある。


 客室が集まっているのは西側だった。


「じゃあ西から上がるか」


「おう」


 俺たちは西側の階段へ向かった。

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