第34話 ハイキングコース
少し先へ進むと、道から外れた木々の間に、小さな倉庫のような建物が複数見えた。
「あんなところにも建物あるんだな」
高志がそちらを見る。
「物置か何かじゃない?」
「かもな」
俺たちは特に気にすることもなく、そのまま歩いていった。
二人でそんなことを話しながら歩いていたときだった。
「……ん?」
高志が足を止めた。
「どうした?」
「あれ」
高志が少し先を指さす。
木々の向こう。
俺たちが歩いている道とは少し離れた別のコースに、人影が見えた。
「誰かいるな」
「……あ」
見覚えのある二人だった。
「奈緒と千夏じゃない?」
「だな」
奈緒と千夏。
そして、その二人の隣に。
若いメイドが二人いた。
「四人で歩いてるのか」
「みたいだな」
距離があるから、こちらには気づいていないらしい。
四人は楽しそうに話しながら歩いている。
そこで。
「……何か変わった歩き方してない?」
高志が言った。
「え?」
「ほら」
よく見る。
奈緒。
メイド。
千夏。
もう一人のメイド。
四人が横に並び、それぞれ手をつないで歩いていた。
「……本当だ」
「仲いいな」
「いつの間にあんな仲良くなったんだ?」
「知らん」
奈緒と千夏がメイドたちと話しているのは、別に不思議じゃない。
昨日からずっと屋敷にいるのだから、多少仲良くなっていてもおかしくはない。
ただ、若い女性四人が楽しそうに手をつないでハイキングコースを歩いている。
「何か女子会みたいだな」
高志が笑う。
「そうだな」
「俺たちより楽しそう」
「朝死んでたお前が言うな」
「今は元気だからいいだろ」
向こうの四人は、俺たちに気づかないまま歩いていった。
やがて木々の向こうへ姿が見えなくなる。
「行くか」
「おう」
俺たちも再び歩き始めた。
そのときは、奈緒と千夏が屋敷のメイドたちとずいぶん仲良くなったんだな。
そのくらいにしか思わなかった。
◇
その後は特に何か起こることもなく、俺と高志は普通にハイキングを楽しんだ。
途中で景色のいい場所を見つけて少し休んだり、遠くに見える稲田市の街を眺めたり。
次に登る山について、思いついた候補を適当に話したりもした。
「こういうところ歩いてると、ちゃんと登山サークルっぽいな」
高志が言う。
「ようやくだな」
「昨日何してたんだろうな、俺たち」
「酒飲んでただろ」
「俺は飲みすぎた」
「知ってる」
「もうあんな飲み方しない」
「本当だな?」
「本当」
「今日の夜も?」
「今日は無理」
「だよな。っていうか、今日は帰るんだからな」
「ああ、そうだった」
「また忘れてたのかよ」
「いや、忘れてない。ちょっと一瞬だけ」
「それを忘れてたって言うんだよ」
高志が笑う。
「じゃあ今日は、あんなふうには飲まない」
「飲む前提なんだ?」
「少しくらいならいいだろ」
「帰れなくなるほど飲むなよ」
「昨日で懲りたって」
「ならいいけど」
やっぱり、昨日潰れた人間が二日連続で同じように飲みたいなんて思うわけがない。
それに今日は、夕食が終わったら帰るつもりだった。
高志の様子を見て、少し安心した。
「そろそろ戻るか」
しばらく歩いたところで、スマートフォンを確認する。
思ったより時間は経っていたけど、十二時まではまだ少し余裕があった。
「まだ時間あるな」
高志も画面を見る。
「そうだな」
俺たちは来た道を戻り始めた。
朝の高志からは想像できないくらい、足取りは軽い。
「腹減った」
「またそれ?」
「薬飲んでから本当に腹減るんだよ」
「昼飯まで我慢しろよ」
「先に登山の話だろ?」
「……そうだった」
「ちゃんと決めるんだろ?」
「もちろん」
そう答えて、ふと大野先輩のことを思い出した。
「……なあ、高志」
「ん?」
「戻ったらさ」
「うん」
「俺たちも大野先輩探さない?」
「大野先輩?」
「ああ」
朝から松田先輩がずっと一人で探している。
最初は、付き合いの長い松田先輩に任せておけば大丈夫だと思っていた。
でも、さすがに何時間も一人で探させたままなのは、少し悪い気がしてきた。
「松田先輩、一人でずっと探してるだろ」
「ああ」
「俺たちも少しくらい手伝った方がよくない?」
「まあ、そうだな」
高志も頷く。
「まだ昼まで時間あるし」
「だろ?」
「どこ探す?」
「とりあえず屋敷戻ってから考えよう」
「一階は松田先輩が結構見てそうだけどな」
「じゃあ二階とか」
「二階?」
「俺、二階ほとんど行ったことないし」
「俺も」
「大野先輩がいるかは分からないけど、一応見てみよう」
「そうするか」
もちろん、神谷先輩が言っていた通り、どこかで遊んでいるだけかもしれない。
そのうち普通に戻ってくる可能性だって高い。
でも、何もしないまま松田先輩一人に任せておくのも違う気がした。
「じゃあ戻ったら探すぞ」
「おう」
「十二時までにな」
「分かってる」
今日こそ、昼にはみんなで集まって登山の計画を決める。
その前に少しだけ、大野先輩を探してみよう。
俺たちは来た道を戻り、屋敷へ向かった。




