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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第33話 屋敷の外へ


 一階まで下り、玄関へ向かう。


 入口の近くには一人の使用人が立っていた。


「すみません」


 声をかける。


「はい、若様」


「外に出たいんですけど、開けてもらえますか?」


「もちろんでございます」


 すぐに大きな扉を開けてくれた。


 朝の空気が屋敷の中へ流れ込んでくる。


「ありがとうございます」


「お気をつけてお出かけくださいませ」


「あ、そうだ」


 外へ出る前に思い出した。


「ハイキングコースってどっちですか?」


「こちらを出られまして、右手へお進みくださいませ。少し先に案内板がございます」


「そこを見れば分かります?」


「はい。各コースが記載されております」


「ありがとうございます」


 俺たちは礼を言い、屋敷の外へ出た。


 高志が大きく伸びをする。


「外だ」


「何だよ、それ」


「いや」


 高志が辺りを見回した。


「俺たち、登山サークルだよな?」


「そうだけど」


「ここ来て、ちゃんと外出るの初めてじゃね?」


「……」


 言われてみれば、昨日ここへ到着してから、ほとんど屋敷の中にいた。


 酒を飲んで。


 飯を食って。


 風呂に入って。


 ゲームをして。


「登山の計画立てに来たのにな」


 高志が笑う。


「お前だって朝からビリヤードしてただろ」


「俺だけのせいじゃない」


「誰もお前だけのせいとは言ってねえよ」


「じゃあいいだろ」


 二人で話しながら右手へ進む。


 すぐに、使用人が言っていた案内板が見えてきた。


「これか」


 近づいてみる。


 案内板には、屋敷の周辺を歩けるいくつかのコースが書かれていた。


 短めの散歩向け。


 少し距離のあるコース。


 眺めのいい場所を回るコース。


「どれにする?」


 高志が聞く。


「普通のでいいんじゃない?」


「普通ってどれだよ」


「これ」


 俺は真ん中くらいの距離のコースを指さした。


「十二時までには戻らないといけないし」


「じゃあそれで」


 俺たちは案内板に書かれていた道へ入った。


     ◇


 コースは思っていたより歩きやすかった。


 登山道というより、本当に散歩道に近い。


 緩やかな上り下りはあるものの、道はきちんと整備されている。


 周囲には木々が広がり、ときどき開けた場所から稲田市の街並みが見えた。


「確かにいいな」


 高志が言う。


「藤崎先輩が気に入るのも分かる」


「朝だったらもっと気持ちよさそうだな」


「お前、朝は死んでただろ」


「明日は行ける」


「明日はもういないからな?」


「……そうだった」


「忘れるなよ」


「この屋敷いると、帰るの忘れるな」


「お前までそんなこと言うな」


 笑いながら歩く。


 薬が効いたというのは本当らしく、高志の足取りは軽かった。


 むしろ、俺より少し先を歩いているくらいだ。


「完全復活だな」


「だから言ったろ」


「朝のお前、見せてやりたいよ」


「写真撮ってないだろうな?」


「撮ってない」


「よかった」


「撮っとけばよかった」


「やめろ」


 しばらく歩いていると、高志が急に足を止めた。


「おお、すげえ」


「何?」


「ここ、ほとんど栗じゃないか?」


「栗?」


 言われて周囲を見る。


 俺には普通の木にしか見えなかった。


「よく分かるな」


「見れば分かるだろ。あっちにあるのは、たぶんクルミだな」


「本当かよ」


「本当」


 高志は少し楽しそうに木々を眺める。


「こんだけ栗があったら、熊とか寄ってきそうだな」


「やめろよ」


「まあ、この辺にいるかは知らんけど」


 俺は改めて周囲を見回した。


「お前、こういうの詳しいんだな」


「俺たちを何だと思ってるんだよ」


「飲み会サークル」


「昨日だけ見たら否定できないけどな」


 二人で笑う。


「一応、登山サークルだからな。山歩いてりゃ栗とかクルミくらい見るって」


「そんなもんなの?」


「それより、これ自然に生えてるんじゃないと思うぞ」


「何で?」


「見てみろよ」


 高志が木々の間を指さした。


「だいたい同じくらいの間隔で生えてるだろ」


「……ああ」


 言われてみれば、確かにそうだった。


 木と木の間にはそれなりに空間があり、密集しているところもほとんどない。


「成長の邪魔にならないように、最初から間隔取って植えてるんじゃないか?」


「そんなの普通分かるか?」


「まあ、普通は気にしないかもな」


 高志が笑う。


「でもお前、十年前にもここ来たんだろ?」


「ああ」


「だったら、この木もその頃にはあったんじゃないか? 十年でこれだけ揃った林になるとは思えないし」


「……そうなのかな」


 俺はもう一度、栗の木らしいものを見上げた。


 もし高志の言う通りなら、誰かがわざわざここに植えて、今も手入れしていることになる。


「何のためだろ」


「普通に収穫してるんじゃない?」


「こんなところで?」


「見てみろよ。木の周り、結構きれいだろ」


 言われて足元を見る。


 確かに、林の中にしては妙に整っていた。


 伸び放題の草も少ないし、木の根元にも落ち葉や枯れ枝がほとんど溜まっていない。


「……本当だ」


「だろ?」


「よくそんなところまで見てるな」


「山歩いてりゃ、自然にできた場所か、人が手を入れてる場所かくらいは何となく分かるって」


「そんなもんなの?」


「たぶんな」


「たぶんかよ」


「確実なことは知らん」


 高志が笑う。


「でも、これだけきれいにしてるなら、放ったらかしってことはないだろ。大事に手入れされてるんじゃない?」


「なるほどな……」


 改めて見れば、確かにそう見えてくる。


 栗もクルミも、たまたまここにまとまって生えているわけではなさそうだった。


「あとで久世さんにでも聞いてみるか」


「そうすれば?」


「結局それかよ」


「俺だって、この屋敷の木まで詳しく知ってるわけじゃないからな」


「さっきまで偉そうに説明してただろ」


「分かるところまで説明しただけだよ」


「便利な言い方だな」


「うるさい」


 二人で笑う。


 そのときは、それ以上深く考えなかった。


 そんなことを話しながら歩いていたときだった。


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