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【完結済み】異世界転生うさぎ  作者: Usabean
第二章 新人記者
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<記者としての朝>

翌朝、澄んだ電子音が部屋の静寂を優しく震わせた。


「ピコ!」


どこか遠くで鳴っている夢の続きのような音だった。

しかし次の瞬間、それが現実の音だと気付く。


眠気の残る瞼をゆっくり持ち上げると、朝日――いや、月面都市を覆う人工太陽の柔らかな光が部屋いっぱいに差し込んでいた。

昨日見た時と同じ黄金色の光だが、今日はどこか温かく感じる。


もう一度電子音が鳴る。


視線を巡らせると、ベッド脇の木製棚に置かれた薄い板状の端末が、小さな青いランプを点滅させていた。


「ん……あれか。」


身体を起こし、端末を手に取る。


軽く指を滑らせると画面が滑らかに立ち上がり、美しいホログラム調のアイコンが整然と並んだ。


不思議だった。

昨日までなら、見知らぬ機械を前に戸惑っていたはずだ。

それなのに今は、ロック解除の仕方も、通知の開き方も、まるで何年も使ってきた愛用品のように自然と分かる。


画面に並ぶ文字も違和感なく読めた。

漢字でもひらがなでもない独特の文字列なのに、頭の中では当たり前のように意味へと変換されていく。


翻訳機能でもあるのだろうか。

それとも、この身体そのものが、この世界の言語を理解できるようになっているのか。


理由は分からない。


だが、理解できるという事実だけは確かだった。



通知を開く。

差出人は編集部。

件名には大きくこう書かれていた。



『特集記事依頼 月の花屋ルナ・フローラの密着取材』



「仕事……か。」


思わず口にすると、不思議な感覚が身体を駆け抜けた。


画面をスクロールした瞬間だった。

胸の奥に温かな光が灯るような感覚。

耳鳴りにも似た静かな音とともに、記憶が雪崩のように流れ込んでくる。



革のショルダーバッグ。


首から提げる身分証。


編集長に取材内容を報告する光景。


締切前に記事を書き上げる焦り。


シャッターを切る感触。


ペンを走らせる指先。



それらは夢でも幻でもない。

この世界で「自分」が積み重ねてきた日常そのものだった。



「……そうか。」


ぼくは記者なのだ。

昨日まで曖昧だった輪郭が、一気に色を持ちはじめる。


端末にはスケジュール帳、録音機能、高性能カメラ、取材メモ、地図、交通案内まで揃っている。

どれも自然に使い方が分かる。

身体が覚えている。



「なるほど……。」


自然と笑みがこぼれた。



それにしても「花屋」か。

もっと事件や政治の記事を想像していたぼくは少し肩透かしを食らった。

新人記者なのに、欲張りな自分の思考に苦笑いする。



「早速、仕事しに行くか。」


ベッドから降り、クローゼットを開ける。


そこにはきちんと整えられた記者用のジャケットが掛かっていた。


何度も着たことがあるような柔らかな生地。

袖を通すと驚くほど身体に馴染む。


鏡の前に立つ。



首から身分証を下げ、ショルダーバッグを肩に掛けると、

そこには昨日の「迷い込んだ人」ではなく、この街で働く一人の記者が映っていた。






タブレットの地図を開く。



目的地は『月の花屋ルナ・フローラ』。



最寄りのモノレール駅の反対側にあり、歩いて行ける距離らしい。

徒歩で行くとしても、そんなに時間はかからなそうだが、早めに出よう。

まだ知らないこの街を、自分の足で歩いて、見てまわりたかったからだ。



住んでいるワンルームのある建物を出ると、朝の空気が頬を撫でた。

どこか草花を思わせる甘い香りが風に混じっている。

見上げれば、黒い宇宙を背景に青い地球が静かに浮かんでいた。



その不思議な景色も、昨日ほど驚きはない。

少しずつ、この世界が日常へと変わり始めている。



街は朝から活気に満ちていた。



スーツ姿で足早に歩く会社員。


色とりどりの制服を着た学生たち。


耳を揺らしながら談笑する主婦たち。


配達員は重そうな荷物を積んだ反重力カートを軽々と引いていく。


小さな公園では、白髪混じりの老うさぎたちがベンチで花をかじりながら世間話をしていた。


姿かたちはうさぎだが、確かに文明的な生活がここにはある。

地球には存在しない技術が根底にあるのを確かに感じる。

歩くたびに新しい発見がある。


記者という仕事は、きっとこういう瞬間を切り取って、記録するためにあるのだろう。



大通りを抜け、小さな広場へ出た瞬間だった。



視界いっぱいに広がる巨大なガラス張りの建物。

建物全体が花畑のように色づき、入口には色鮮やかな植物が溢れている。




『月の花屋ルナ・フローラ




思わず息を呑んだ。

繁盛している店――そんな言葉では足りない。

ここは街そのものを象徴するような場所だった。



入口では客が列を作り、店先では店員たちが忙しそうに花束を包んでいる。


宙に浮かぶ花びら。


青白く発光する花。


虹色に色を変える葉。


どれも地球では見たことがない植物ばかりだ。



「これは……すごいな。」



圧倒されながら店内に足を踏み入れると、甘く爽やかな香りと、瑞々しい緑の匂いが肺いっぱいに広がった。



店内は想像以上の賑わいだった。


若い夫婦には店員が「奥様のお体でしたらこちらがおすすめです」と花束を勧め、

隣では老うさぎが「妻が風邪気味でね」と相談している。



「では滋養のある花をご用意しますね。」


花屋のはずなのに、薬局のような会話が聞こえてくる。



ぼくは思わず首をかしげ、店内を見回した。


――この世界の花屋は、一体どういう店なんだ?



そう思った瞬間、奥から落ち着いた女性の声が聞こえた。



「いらっしゃいませ。ああ、あなたが雑誌社の方ですね。お待ちしておりました。」


このストーリーのショート動画も作成しています。


https://youtube.com/shorts/wPcK5mhmuyA?feature=share

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