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異世界転生うさぎ  作者: Usabean
外伝 月で待っていた彼女――ミアの物語
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41/42

<月で待つカフェ>

ミア編(全4話です)

ミアが感じていたことのスピンオフです。

「うさぎは、月に還る」


そんな言葉を、どこかで聞いたことがある。


その言葉は。

本当だった。


死んだあと。

私は、真っ白な光の中にいた。


身体がない。

重さもない。

ただ、意識だけがある。


そして。

その先に、ひとりの存在がいた。


月世界の女神。


彼女は、私を見て微笑んだ。


「そなたは、ずいぶん長く待ったのう」


私は、彼女に何かを訴えた。


彼に会いたい。

約束した。

また一緒に暮らすと。


女神は、すべて分かっているようだった。


「ならば、待てばよい」


そして。


私は新しい命を与えられた。


月世界。

そこは、私が知っていた月とはまるで違った。


文明があり。

街があり。

ドームがあり。

モノレールが走り。

空には飛行艇が飛んでいる。


うさぎたちは服を着て。

仕事をして。

学校へ行き。

家族を作って暮らしている。


そして。


多くのうさぎたちは、前世の記憶を持っていた。


もちろん、すべてを覚えているわけではない。


薄い記憶。

断片的な記憶。


匂いだけ。

声だけ。


でも。

私は、覚えていた。


彼との約束だけは。


「きっと、また会える」


私は両親にそう話した。

祖父母にも話した。


「彼は人間だったの」


「また、きっと月へ来る」


もちろん、みんなは少し困った顔をした。


人間の魂が月へ来る。

そんな話は、女神神話にもほとんど残されていない。


それでも。

誰も私を強く否定しなかった。


月世界のうさぎたちは、そういうところがある。


誰かの想いを無理に否定しない。

私は、その優しさに救われた。


だから。

私は諦めなかった。


彼を探す。

いつか必ず。


私は、彼が好きだったものを覚えていた。


コーヒー。

彼はよく、コーヒーを飲んでいた。


だから。

いつか彼が月へ来たら。

ふらっと立ち寄れる場所を作ろうと思った。


カフェ。

温かい飲み物。

甘いもの。


そして。


「いらっしゃいませ」


そう言って。

彼を迎える。


それが、私の夢になった。

そのために、まずはカフェで働くことにした。


ところが。

私は、あまり器用ではなかった。


注文を間違える。

飲み物をこぼす。

料理を運んで転ぶ。


「ミア、またやったの?」


「……ごめんなさい」


そんな毎日だった。


でも。

頑張った。

彼を迎えるためだから。


そして。


ある日。

彼が来た。


カフェの入口。

そこに、一羽のうさぎが立っていた。


新人記者らしい。


少し頼りなさそうで。


でも。

どこか不思議な雰囲気がある。


私は、彼を見た瞬間。


――ドクン。


胸が大きく鳴った。


雷に打たれたようだった。


なんだろう。

この感じ。


初めて会ったはずなのに。

ずっと昔から知っているような。


懐かしい。


でも。

このときは、まだ「彼の魂」だとは思わなかった。


ただ。

特別な何かを感じた。


彼は、私の失敗を見ても笑わなかった。


「大丈夫。ぼくも仕事を始めたばっかりだから分かるよ」


優しい声。

高い。

人間だった彼とは全然違う。


でも。


言葉の奥にあるもの。


声の温度。

その波動。

懐かしい。


どうして?


「失敗しても、美味しいものを食べれば、また頑張れるんだから!」


その瞬間。

私は気づいた。


――この人。

――もしかして。


彼だ。


それから。

私は彼が来るのを楽しみにするようになった。


仕事帰りに姿を見せると嬉しい。

たくさん話しかけた。


花の話。

カフェの話。

仕事の話。


彼は楽しそうに聞いてくれた。


でも。

気づいていない。

私が誰なのか。


彼は、何も覚えていなかった。


それでも。

絶対に彼だ。


私は確信していた。


だけど。

どうすればいいのか分からない。


「あなたの前世は私と暮らしていた人間なの」


そんなことを言えるはずがない。


この世界には、理がある。

前世の記憶は、自分自身で取り戻さなければならない。

誰かに答えを教えてもらってはいけない。


私は、それを知っていた。


だから。


待つしかなかった。


ところが。


ある日から、彼がカフェに来なくなった。


一日。


二日。


三日。


私は不安になった。


もしかして。

どこかへ行ってしまった?


事故?

病気?


それとも。


私のことを嫌いになった?


居ても立ってもいられなくなった私は、彼の職場や実家をこっそり調べた。


そこで。


彼が大きな仕事を抱えていることを知った。


そして。

彼が、自分の過去について何も覚えていないことも。


胸が痛かった。

知らないことが多すぎる。


もっと知らなくては。


私は両親にも祖父母にも相談した。


「彼を見つけたの」


その言葉を聞いたとき。

祖父は長い間、黙っていた。


そして。


「前世の記憶を持たぬ者に、答えを与えてはいかん」


そう言った。


分かっている。

分かっているけど。


彼は、手を伸ばせば届く場所にいる。


なのに。

私は何もできない。


そして。


休日。

行政シティで、私は彼を見つけた。


話しかけた。

一緒に歩いた。


彼が私と二人の時間を過ごしてくれた。


それだけで。

胸がいっぱいになった。


嬉しくて。

楽しくて。


まるで子供みたいに、彼を商店街へ連れ回した。


お店を見て。

花を見て。


いろんな話をした。


そして。

ある店で、素敵なブローチを見つけた。


思わず、小さな声が漏れた。


「…かわいい」


彼は聞き逃さなかった。


「これ?」


そう言って。

彼は、そのブローチを買ってくれた。


「えっ」


嬉しい。

嬉しすぎる。

飛びつきたい。

抱きつきたい。


でも。


そんなことをしたら、きっと変に思われる。


私は必死に我慢した。


「花蜜アイス、食べない?」


そう言って誤魔化した。


ねぇ。

もっと私を見て。

気づいて。

私と一緒にいて。


私の気持ちは、どんどん膨らんでいった。


でも。


彼は、自分の過去を思い出せないことに苦しんでいた。


その姿を見ると、私まで苦しくなった。


私はここにいる。

ずっと、あなたを待っていた。


だから。

もう苦しまないで。

そう言いたかった。


でも。


今の彼にとって、私はまだ。

この世界で初めて出会った友人。


それだけ。


どうしたらいい。

私に何ができるの。


そこで私は、祖父を頼ることにした。

この世界のことを一番よく知っている人。


彼を支えるために。

彼が自分自身で答えに辿り着くために。


私は祖父に相談した。


そして。

不思議なくらい、物事は動き始めた。


彼が祖父に面会を申し込んだ。

私は慌てて祖父と話した。


そして。


エターナル・メモリアルパークへ行くことになった。


彼が。

私を選んでくれた。


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