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【完結済み】異世界転生うさぎ  作者: Usabean
第九章(最終章) 終わらない約束
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<待っていた彼女>

そして。

あの事故が起きた。


アーク・ノヴァの船体を襲った爆発。


赤く点滅する警報。

燃え上がる通路。

崩れ落ちる船体。


そして、緊急脱出ポッド。


ぼくは一人、暗黒の宇宙へ放り出された。


月の引力に捕まり、制御不能となったポッドは、灰色の月へ向かって落下していく。


酸素は、ほとんど残っていなかった。


もう助からない。

そう思った。


意識が薄れていく。

呼吸が苦しい。

手足の感覚がない。


けれど。

最後の瞬間。


ポッドを、奇妙な光が包み込んだ。


白い。

どこまでも白い光。


それは、目を閉じているのか、開いているのかすら分からなくなるほど眩しかった。


次の瞬間。


ぼくは、見知らぬ場所に立っていた。


いや。

「いた」という表現すら正しくない。


身体がない。

足もない。

重力もない。

上下さえ存在しない。


ただ、果てしない純白の空間だけが広がっている。


音もない。

風もない。

温度さえ感じられない。

それなのに、不思議と恐怖はなかった。


「ここは…?」


声を出したつもりだった。

けれど、声は出なかった。


その代わり、自分の意識だけが確かに存在していることが分かった。


そして。


自分が死んだ。

そのことだけは、なぜか理解できた。


そのときだった。


「ふふ…おもしろきこと」


声がした。

鈴を転がしたような、美しい声。


ぼくは振り向いた。


そこに、一人の女性がいた。


長い白い衣。

絹のような髪。


そして――。

長くしなやかなうさぎの耳。

赤い瞳。


人間の女性とは思えないほど美しく、それでいて、不思議な親しみを感じさせる姿だった。

彼女の周囲には、地球と月を模した二つの球体が浮かんでいた。


指先を動かすたび、それらがゆっくりと軌道を変えていく。

まるで本物の天体を操っているようだった。


「月と、うさぎと、地球」


女性は、楽しそうに微笑んだ。


「三つの縁を、これほど強く結んでおる者がおるとはの」


ぼくには、その言葉の意味が分からなかった。

ただ、目の前にいる存在が、普通の人間ではないことだけは理解できた。


「青き星の獣医。そして、記録者」


その言葉に、胸の奥が震えた。


獣医。

記者。

それは、間違いなく自分自身のことだった。


「お前の最期の願いは、我にも届いた」


彼女は、ぼくの前へ手を差し伸べた。


「約束を果たしたいのであろう?」


その瞬間。

脳裏に、あの小さなうさぎの姿が浮かんだ。


黒い瞳。

小さな耳。

柔らかな毛。

そして、ぼくの小指に乗った小さな前足。


胸の奥が締めつけられる。


「…会いたい」


今度は、声になった。


「もう一度…会いたい」


女神は、優しく微笑んだ。


「ならば、会えばよい」


あまりにも簡単に言われて、ぼくは目を見開いた。


「ただし――」


女神の声が、少しだけ厳しくなる。


「そのためには、お前自身の足で辿り着かねばならぬ」


「自分で…?」


「そうじゃ」


女神は頷いた。


「我が世では、魂は巡る。命が終われば、それですべてが消えるわけではない」


その言葉に、ぼくは息を呑んだ。


「お前の魂もまた、月へ渡る」


光が、ぼくの身体を包み始めた。


いや。

身体など、すでにないはずだった。

それなのに、確かに何かが変わっていく。


人間の手が消える。

足の形が変わる。

身体を柔らかな毛が覆っていく。


「お前は、新たな命として、この月世界で生きることになる」


「…ぼくが?」


「そうじゃ」


女神は笑った。


「そして、お前と強く結ばれた小さな魂も、すでにこの世界にある」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に温かなものが灯った。


あの子。

もう一度、会える。

その可能性だけが、急速に遠ざかっていく意識を繋ぎ止めていた。


けれど。


「記憶は封じよう」


「…え?」


思わず聞き返した。


「なぜ?」


女神は、どこか慈しむような表情でぼくを見つめた。


「答えを与えられた人生は、約束を果たしたとは言えぬからじゃ」


「……」


「自ら探し、自ら迷い、自ら辿り着くのじゃ」


光が、さらに強くなる。


「それこそが、新しい人生なのだから」


意識が薄れていく。

目の前の女神の姿も、白い空間も、少しずつ遠ざかっていった。


「待って!」


最後に、どうしても聞いておきたいことがあった。


「ぼくは本当に、あの子に、また会えるんだよな?」


女神は、静かに笑った。


「縁が消えぬ限り、必ず巡り合う」


その言葉だけが、最後まで鮮明に響いた。


「行くがよい」


そして――。


「お前と、あの小さな魂の縁が、再び結ばれる場所へ」


光が、すべてを包み込む。


「そして我が世で、その縁をもとに、お前自身の使命を果たせ」


その声を最後に。

ぼくの意識は、深い闇の中へ沈んでいった。

このストーリーのショート動画も作成しています。

https://youtube.com/shorts/kRZB49PqqaI?feature=share

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