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【完結済み】異世界転生うさぎ  作者: Usabean
第八章 失われた約束
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<過去の自分>

それは、本当に突然だった。


ドンッ!!


船体全体を揺るがす、重く鈍い衝撃。


「――ッ!?」


身体が椅子から浮いた。

次の瞬間、視界が反転する。

壁に背中から叩きつけられ、肺から一気に空気が押し出された。


「ぐっ……!なにがっ」


何が起きた?


考えるより先に、警報が鳴り響いた。

けたたましいサイレン。

同時に船内の照明が一斉に落ち、部屋が真っ暗になる。


その直後、暗闇の中で赤い非常灯が点滅を始めた。


赤。

また赤。

そして暗闇。


まるで船そのものが、巨大な心臓になって激しく脈打っているようだった。


『警報。第三区画にて爆発を検知』


無機質な機械音声が響く。


『機関部に重大な損傷。火災発生』


「嘘だろ…」


ぼくは壁に手をつきながら、どうにか立ち上がった。

頭が混乱している。


爆発?

どこで?

何が原因なんだ?


そんな疑問が次々と浮かんでは消えていく。

しかし、考えている暇はなかった。


廊下へ飛び出す。


そこには、すでに白い煙が充満していた。

壁面の一部が大きく裂け、内部の配線がむき出しになっている。


火花が散るたび、赤い非常灯に照らされた廊下が一瞬だけ明るくなった。


「マーク!」


叫んだ。


「マーク! どこだ!?」


返事はない。


いつもなら聞こえてくる、あの低い笑い声も。

作業員たちの話し声も。

何も聞こえない。


「マーク!」


もう一度叫んだ、その瞬間だった。


――ドォォォンッ!!


二度目の爆発が起きた。

爆風が廊下を猛烈な勢いで駆け抜ける。


「うわっ!」


身体が宙に浮き、そのまま壁へ背中から叩きつけられた。


「ぐっ…!」


熱い。

息ができない。

焦げたプラスチックの臭いが鼻を突き、煙が喉を焼く。


耳の奥では、甲高い耳鳴りが鳴り続けていた。


何が起きているのか分からない。

ただ一つだけ、はっきりしていることがあった。


この船は、壊れている。


いや。

壊れているなんていう生易しい状態ではない。


死にかけている。

その考えが頭をよぎった直後、機械音声が響いた。



『メインリアクターの制御不能』


機械音声のアナウンスだけが、妙に鮮明だった。



『酸素濃度低下』


一拍、そして。



『全乗組員は直ちに緊急脱出ポッドへ退避してください』



「…み、みんなは?」


声が震えた。

返事はなかった。

さっきまで人の声で満ちていた船内が、異様なほど静かだった。


いや。静かなわけではない。


火災警報。

金属の軋む音。

どこかで発生する小さな爆発。

配管を流れる蒸気の音。

何かが崩れ落ちる音。


それらすべてが混ざり合い、巨大な獣が苦しみながら呻いているように聞こえた。


「…逃げないと」


自分に言い聞かせる。


足が震えていた。

怖い。

今まで経験したことのない恐怖だった。


けれど、身体は動いた。


ぼくは走った。

何も考えられなかった。


ただ、生きなければならない。

それだけだった。


通路の先で炎が通路を噴出している。


別のルートへ進もうとする。

しかし、そこでは隔壁が降り始めていた。


間に合わない。

ぼくは身体を滑り込ませるようにして、その隙間を抜けた。


熱風が顔を撫でる。

腕が焼けるように熱い。


それでも止まれない。


一歩。

また一歩。


煙で視界がほとんど利かない。

それでも、頭の中には脱出ポッドまでの経路が残っていた。


あの角を曲がればいい。

その先に非常用エレベーター。

さらに進んだ先が、脱出ブロックだ。


「あと少し…!」


自分を奮い立たせるように呟いた。


ようやく、緊急脱出ポッドが並ぶ区画へたどり着く。

いくつかのポッドは、すでに赤い警告ランプを点滅させていた。


ぼくは一番近くのハッチに手をかける。



「開け…!」


ロックが反応しない。


「頼む…!」


もう一度、非常解除レバーを操作する。


ガコンッ。


重い音とともに、ハッチがわずかに開いた。


「よし!」


非常電源で辛うじて動いている。


ぼくは身体を滑り込ませるようにして、狭いポッドの中へ飛び込んだ。

ハッチが閉まる。


外の轟音が、ほんの少しだけ遠ざかった。


シートに身体を固定する。

ベルトを締める手が震えていた。


「動け…動いてくれ…!」


射出ボタンを叩く。


ガコンッ!


大きな振動が身体を襲った。


次の瞬間、脱出ポッドはアーク・ノヴァから切り離された。

窓の向こうへ、燃え盛る巨大な船体が遠ざかっていく。


「…た、助かった?」


その言葉が、口からこぼれた。


ほんの一瞬だけ。

本当に、ほんの一瞬だけだった。


自分は生き残った。

そう思った。

けれど。



コンソール画面を見た瞬間、血の気が引いた。

表示された数字。



『OXYGEN LEVEL:2%』



「……」


数字が理解できない。

いや、理解したくなかった。


「嘘だろ…」


生命維持装置が壊れている。

酸素が供給されていない。


耳を澄ます。


シューッ。


どこかから、微かな空気漏れの音が聞こえた。


「やめろ…」


画面の数字が、ゆっくりと減っていく。


「止まれ…」


もう一度、祈るように呟く。


「頼むから…止まってくれ…」


しかし、数字は無情だった。


ポッドは月の重力に捕らえられ、徐々に進路を変えていく。

窓の向こうで、灰色の月面が少しずつ大きくなっていった。


制御装置を操作する。

反応しない。

何度試しても同じだった。


もう、どうすることもできない。


「…そうか」


不思議と、声は静かだった。


死ぬ。

その事実が、ようやく現実として理解できた。


息が苦しい。

肺が空気を求めている。


視界がぼやける。

手足の先から感覚が失われていく。


それなのに。

不思議なほど、恐怖はなかった。


最後に浮かんだのは、地球だった。


青い星。

あの小さな家。

そして――あの子。


出発の朝。

ぼくの手に前足を乗せてくれた、小さな家族。


柔らかな毛。

温かな体温。

黒くて丸い瞳。


「…ごめんな」


声にならない。

けれど、確かに思った。


「約束…」


その言葉を最後に、意識が遠のいていく。


月が近づく。

視界が白く染まっていく。


そして――。


そこで、記憶が途切れた。

このストーリーのショート動画も作成しています。

https://youtube.com/shorts/f55fyw3CF8U?feature=share

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