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【完結済み】異世界転生うさぎ  作者: Usabean
第七章 エターナル・メモリアルパーク
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<ミアを誘って>

数分後。


ピコン。


静かな部屋に、軽快な電子音が響いた。


「…!」


ぼくは反射的に身体を起こした。

手にしていたタブレットの画面を見る。

さっき送ったメッセージの横に、「既読」の表示がついていた。

そして、そのすぐ下に新しいメッセージが届いている。


『いいわね! あそこはうちのお墓もあるんだけど、季節の花がたくさん咲いていて、とっても綺麗なところよ』


「…え?」


思わず、画面を二度見した。


うちのお墓もある。


その一文が、頭の中で何度も繰り返される。


エターナル・メモリアルパークには親族の同伴か、特別な許可証が必要。

そして今、ぼくの目の前には、その場所に家族の墓を持つ女の子からのメッセージがある。


これ以上の偶然があるだろうか。


いや。今のぼくにとっては、偶然という言葉では片づけられない。

まるで、誰かに背中を押されているような気さえした。


「…すごいな」


小さく呟きながら、ぼくはタブレットを握り直す。

胸の奥が、妙に熱い。

これなら、あの場所へ入ることができる。


そして、もしかしたら。

ポケベルに残された数字の意味を知ることができるかもしれない。

自分の失われた記憶につながる何かを、見つけられるかもしれない。

そう考えると、指先まで落ち着かなくなった。


すぐに返信を打ち始める。


『実は、墓所を持つ親族の同伴か、入場許可証が必要みたいで困っていたんだ。

 もしよかったら、今度の休み、一緒に行ってもらえないかな』


そこまで入力して、指が止まった。


「…一緒に、か」


文章を読み返す。

改めて見ると、少し大胆な誘い方に思えた。

もっと別の言い方もあったはずだが、

なぜか「一緒に行ってもらえないかな」という言葉を選んでいた。


自分でも、その理由がよく分からない。


いや。本当は、少しだけ分かっているのかもしれない。


ミアと、もう一度話したかった。

あの日、行政シティで一緒に過ごした時間が、とても心地よかったから。


「…まあ、いいか」


意を決して、送信ボタンを押す。

メッセージが送られた。


『送信済み』


たったそれだけの表示なのに、急に心臓が大きく跳ねた。


「…返事、来るかな」


タブレットを見つめる。

既読はついている。

けれど、その先が続かない。


10秒。

20秒。

30秒。


普段なら何とも思わない時間が、今日は妙に長く感じられた。


「…断られたら、どうしよう」


そもそも、図々しかったかもしれない。

せっかくの休日だ。

家族の墓がある場所に、知り合って間もない男から一緒に行こうなどと言われたら、困るのではないだろうか。


「やっぱり、余計なことを言ったかな…」


取り消そうか。

そんな考えが頭をよぎった、その瞬間だった。


ピコン。


「!」


再び電子音が鳴った。

画面に表示されたメッセージを、ぼくは恐る恐る開く。


『ええ! 行きましょう! 私もお参りに行きたいと思っていたところだから』


「…………」


一瞬、何も考えられなかった。


それから。


「……よしっ!」


ぼくはベッドの上で、思わず拳を握りしめた。


「うわー、やった!」


危うく大声で叫びそうになり、慌てて自分の口を手で覆う。

誰もいない部屋なのに、なぜか周囲を見回してしまった。


顔が熱い。

耳まで熱くなっている気がする。


「落ち着け…」


深呼吸をする。

けれど、全然落ち着かない。


だって、これはつまり。

一緒に出かけるということは。


「…デート、だ」


ぽつりと呟いた瞬間、さらに顔が熱くなった。

もちろん、表向きは取材だ。


ぼくにはポケベルの謎を追うという、れっきとした目的がある。


でも――。


休日に。

私服で。

女の子と二人きりで出かける。


それをデートと呼ばずして、何と呼ぶのだろう。


「…服」


ふと、重大な問題に気づいた。


「着ていく服、どうしよう」


普段は記者として動きやすい服を着ている。

カフェへ行くときも、街を歩くときも、それほど服装を気にしたことはなかった。

けれど、今回は違う。


ミアも私服で来るはずだ。

そう考えると、急に今まで着ていた服が全部頼りなく見えてきた。


クローゼットを開ける。


何着か取り出して、ベッドの上に並べてみる。


「…これか?」


鏡の前で合わせてみる。

違う。


「うーん、こっちか…?」


やっぱり違う気がする。


結局、服を選んでいるうちに時間だけが過ぎていった。

ポケベルの謎を追うという本来の目的すら、この瞬間だけは頭の片隅へ追いやられていた。

ただ、胸の奥に浮かんだ、この不思議な高揚感だけは消えなかった。



そして――。

約束の日。

ぼくは待ち合わせ時間の30分前には、エターナル・メモリアルパークのエントランスゲート前に到着していた。


「…早すぎたかな」


巨大なゲートを見上げる。

白銀を基調とした美しい建造物。

その中央には、透明なドームへ続く大きなガラス扉があり、周囲には静かな庭園が広がっている。


まだ開園時間には余裕がある。

けれど、家を出てからずっと落ち着かなかった。


何度も時計を見る。

それから、着てきたジャケットの襟を正す。

一度直したのに、また気になって直す。


「…変じゃないよな」


自分の姿を見下ろす。

普段より少しだけきちんとした服装。

それだけなのに、まるで別人になったような気分だった。


そのとき。


「お待たせしました!」


澄んだ声が聞こえた。

ぼくは反射的に振り返る。


「…!」


そこに立っていたのは、ミアだった。

いつものカフェの制服姿とは、まったく違う。

行政シティで会ったときとも違っていた。


淡いブルーのワンピース。

その上には薄手のカーディガンを羽織っている。


胸元には、小さな花をかたどったブローチ。

それは、以前ぼくが彼女に贈ったものだった。

淡い光を受けて、ブローチが小さく輝いている。


風が吹くと、彼女の長い耳がふわりと揺れた。

柔らかな毛並みも、いつもの制服姿よりずっと近く感じられる。


あまりの可愛らしさに、ぼくは一瞬、言葉を失ってしまった。


「…あ」


何か言わなければ。

そう思うのに、言葉が出てこない。


ミアが不思議そうに首をかしげる。


「どうしたの?」


「あ、いや…その」


ようやく声が出た。


「今日は…その、ありがとう」


自分でも驚くほど、声が上ずっていた。

ミアは少しだけ頬を染める。

そして、照れくさそうにはにかんだ。


「ううん。私のほうこそ。一緒に行けるのが、すごく嬉しい」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がきゅっと締まった。

目が合う。

そして、お互いにふっと笑った。

不思議なくらい穏やかな時間だった。

これから向かうのは墓地なのに。


なぜだろう。


今のぼくには、少しも暗い場所には思えなかった。


「じゃあ、行こうか」


「うん」


二人並んで、ゲートへ向かう。

ミアが入口に設置された端末へ手をかざす。


ピッ。


短い電子音が鳴り、本人確認が行われる。


次の瞬間。

重厚なガラス扉が、音もなく左右へ開いた。

その向こうには、まだ見たことのない世界が広がっていた。


ぼくは思わず息を呑む。

そして、隣に立つミアを見る。

彼女もまた、静かに微笑んでいた。


こうしてぼくたちは、エターナル・メモリアルパークへ足を踏み入れた。

このストーリーのショート動画も作成しています。


https://youtube.com/shorts/l1JKqG0FVrg?feature=share

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