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【完結済み】異世界転生うさぎ  作者: Usabean
第七章 エターナル・メモリアルパーク
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<墓地へ行くために>

大学から帰宅すると、ぼくは自室のベッドに仰向けになった。

天井を見上げながら、しばらく何も考えずにぼんやりする。


ルナ研究大学で教授と話した時間は、それほど長くなかったはずなのに、頭の中には聞いた言葉が次々と浮かんでは消えていった。


女神伝承。

前世の記憶。

月世界の起源。

そして――エターナル・メモリアルパーク。


「…眠いけど、もう少し調べてみるか」


重い身体を起こし、ベッド脇に置いていたタブレット端末を手に取る。

画面を起動すると、先ほどまで開いていた検索画面が表示された。


ぼくが調べているのは、ルナ研究大学で教授から得た情報の裏付けだった。

もちろん、教授の言葉を疑っているわけではない。


けれど、記憶を失った自分にとって、今は一つでも多くの手掛かりが欲しかった。


曖昧な情報でもいい。

古い記録でもいい。

誰かの書いた小さな記事でもいい。


何か一つ、自分につながるものが見つかれば――。


「エターナル・メモリアルパーク…」


ぼくは検索欄に表示された名前を、小さく呟いた。


月世界の広域マップを開く。

スターグラス商業シティから少し離れた場所。

いくつかの居住区や商業施設が集まる地域から外れ、静かなクレーターの縁に広大な敷地が広がっている。


画面を拡大すると、緑色の区域が大きく表示された。

想像していたよりも、ずっと広い。


「墓地…というより、公園なのか」


ネット上に掲載されている情報を読み進めていく。


そこは単なる墓地ではなかった。

月世界において非常に神聖な場所であり、同時に、美しい景観を持つ場所としても知られているらしい。


色とりどりの月面植物。

季節ごとに花を咲かせる庭園、噴水。

静かな池や小さな丘。

美しく整えられた遊歩道。


紹介記事の中には、まるで観光名所のような写真まで掲載されているものもあった。


「…墓地なのに、ずいぶん明るい場所なんだな」


その一方で、ページを読み進めるにつれて、厳格な管理体制についても分かってきた。


セキュリティゲート。

入園者の身元確認。

立入禁止区域。


そして――。


『入園には、当パーク内に墓所を持つ親族の同伴、あるいは特別な許可証が必要です』


画面に表示された一文を見つめ、ぼくは深いため息をついた。


「…やっぱり、そう簡単には入れないか」


ふらっと休日に一人で行けるような場所ではないらしい。


厳重に管理された公園墓地。

それだけ、ここが月世界にとって特別な場所なのだろう。


「ここへの取材という名目で編集部に頼むのも…そう都合よくはいかないよな」


最近、大きな記事を立て続けに仕上げたばかりだ。


植物園の記事。

そして月面の塔の記事。

編集部からも評価してもらっている。


だからこそ、個人的な目的のために、また「月面の塔」のときのような特別許可を編集長に頼むのは気が引けた。


そもそも、今回の目的は取材ではない。

自分自身のためだ。


「…でも」


タブレットを横に置き、天井を見上げる。

視界の隅に、サイドテーブルが映った。


その上には、黒い四角い箱が置かれている。


ポケベル。

ぼくが目を覚ましたときから、ずっと手元にあったもの。

月世界の誰も知らない、古い通信機器。


そして、ぼく自身でさえ、その意味を理解できない数字を表示する機械。


教授は言っていた。

このポケベルに表示された数字が、何らかの場所を示している可能性がある。


その場所の候補として挙げられたのが、エターナル・メモリアルパークだった。


特別な魂を弔うための区画。

重要な記憶を封印するための場所。


そこに、ぼくの記憶に関係する何かが残されているかもしれない。


「…本当に、何かあるのか?」


ポケベルを見つめる。


これまでに表示された数字は、大きく分けて二種類。

意味の分からない数字の羅列。

語呂合わせの可能性も捨てきれてはいない。


けれど、教授も言っていた。

あの数字は、単純な言葉として読むには不自然だと。


だからこそ、ぼくは別の可能性を考えている。


これは――誰かからのメッセージなのではないか。


座標や区画番号という可能性もある。

でも、それだけではない気がしていた。


まるで、誰かが遠い場所から必死に何かを伝えようとしているような。

助けを求めるような。


「…SOS、なのかな」


そう考えると、胸の奥がざわついた。

もちろん、根拠はない。

ただの直感だ。

それでも、どうしても気になって仕方がなかった。


もし、あそこに何かがあるのなら。

もし、自分の過去につながる手掛かりが残されているのなら。


「…行きたい」


自然と言葉がこぼれた。


自分の過去。

人間だった頃の記憶。

なぜぼくは、この月世界でうさぎとして生きているのか。

そして――なぜ、その記憶を失っているのか。


この世界に転生してきた意味。

その答えにつながる可能性が、ほんの少しでもあるのなら。


「行かない理由なんて、ないよな」


問題は、その方法だった。

誰か、あの墓地に親族を持っている知り合いはいないだろうか。


ぼくは月世界に来てからの短い日々を思い返した。


編集部の同僚。

取材で知り合った花屋の店長。

植物園の研究員。

ルナ研究大学の教授。


どの人にも、親族の墓について尋ねるのは難しい。

そもそも、そんなことを聞けるほど親しいわけでもない。


「…そういえば」


ふっと、一人の少女の顔が浮かんだ。

モノレール駅のカフェ。

いつも明るい笑顔で接してくれる女の子。


ミア。


先日、ルナ中央行政シティの役所で偶然再会し、初めて仕事とは関係のない時間を一緒に過ごした。

街を歩いて、いろいろな話をした。


好きな食べ物の話。

仕事の話。

月世界で暮らすことについて。


それだけだった。

けれど、不思議と心地よかった。


ぼくにとって、この世界で初めてできた「友達」だった。


「…ミアなら」


そこまで考えて、ぼくは首を振った。


「いや、でも…」


お墓参りに一緒に行こう、なんて。

いくら友達とはいえ、不躾すぎないだろうか。


そもそも、これはぼく自身の過去を探すための行動だ。

ミアには関係のないことだ。


「…迷惑、だよな」


そう思いながらも、あの日のことを思い出す。


行政シティの広場で横に座り話した時間。

彼女の笑顔。

穏やかな声。

まるで、ひだまりの中にいるような、不思議な安心感。


あの時間を思い出すと、自然と気持ちが軽くなった。


「…聞くだけ、聞いてみよう」


断られたら、それまでだ。

そう自分に言い聞かせて、ぼくは再びタブレットを手に取った。


メッセージアプリを開く。


連絡先の中に、先日交換したばかりのミアのアイコンがある。

それを見つめているだけなのに、なぜか少し緊張した。


「…なんでこんなに緊張するんだよ」


自分に苦笑しながら、メッセージを入力する。


『突然ごめん。実は今度、エターナル・メモリアルパークに取材に行きたいと思っているんだ』


そこで一度、指が止まった。


「取材」という言葉は、嘘ではない。

けれど、本当の目的を全部書いているわけでもない。

少し言い訳がましい気もする。


それでも、今はこれしか思いつかなかった。


文章を何度か読み返す。

もっと自然な言い方はないだろうか。


迷った末に、ぼくは送信ボタンを押した。

メッセージが画面の向こうへ消えていく。


「…送っちゃった」


急に心臓が速くなった気がした。


既読になるまでの数秒が、妙に長い。


ぼくはタブレットを握ったまま、返信を待った。

このストーリーのショート動画も作成しています。


https://youtube.com/shorts/l1JKqG0FVrg?feature=share

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