↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】異世界転生うさぎ  作者: Usabean
第六章 記憶を知るもの
PR
26/42

<約束の記憶>

「もちろん、断定はできん」


教授は念を押すように言った。


「数字が本当に場所を示しているのかも分からん。古い記録が正しいとも限らん」


「それでも…」


ぼくはポケベルを見つめた。


あの塔の最上階。

通信が完全に遮断された場所で、なぜか、これだけが鳴った。

そして、そこに表示された数字。

その数字が、ぼくの過去と関係しているのなら…


「行ってみます、エターナル・メモリアルパークへ」


気づけば、そう口にしていた。


教授は、少しだけ目を細めた。


「そう言うと思っておったよ。

 君は、知りたいのじゃろう? 自分が何者なのか。」


胸の奥を見透かされたような気がした。



「…はい」


「ならば、行ってみるといい」


教授は柔らかく笑った。


「ただし、何が見つかるかは分からんぞ」


「覚悟はしています」


「本当に?」


「…たぶん」


「はっはっは!」


教授が豪快に笑った。


「そのくらいでいい。若者は、分からないからこそ前へ進めばよい」


ぼくも、少しだけ笑った。


「今日は、ありがとうございました」


立ち上がり、深く頭を下げる。


「なんだか…ずっと忘れていたものを思い出した気がします」


「ほう?」


「未知のことを調べるのが、すごく楽しいんです」


自分でも不思議だった。


記者としての仕事だから、楽しいのだと思っていた。

けれど、それだけではない。



もっと昔。

ぼくが人間だった頃にも、こうやって、知らないものを追いかけていたような気がする。


「よい顔になったな」


教授が微笑んだ。


「若き記者よ。知識を探求する者の顔じゃ」


「ありがとうございます」


「また来なさい。次は、もっと地球の話を聞かせてくれ」


「はい」


ぼくは笑って、研究室を後にした。


重厚な扉が閉まる。


廊下を歩く足音が、少しずつ遠ざかっていく。




そして――。

研究室に、静寂が戻った。


「…………」


教授はしばらく閉じた扉を見つめていた。



「さて……」


誰もいないはずの部屋で、ぽつりと呟く。


「これでよかったのかの?」


返事はない。


教授はゆっくりと振り返った。

部屋の隅。

大きな本棚の影。


そこには、誰かが立っていた。


「……」


淡い色の服。長い耳。

いつもはカフェの制服を着て、明るい笑顔で客を迎えている少女。


ミアだった。



「ありがとう、おじいちゃん」


ミアは、ゆっくりと姿を現した。



ぼくが聞いたら、きっと驚いただろう。

あの明るく元気なカフェ店員が、まさかこんな大学教授の孫娘だったなんて。



「お前さんが突然、『どうしても会わせたい人がいる』などと言い出したときは、何事かと思ったわい」


教授は苦笑する。


「しかも、『彼にメモリアルパークへのヒントを与えてほしい』とはな」


「…ごめんなさい」


ミアは小さく頭を下げて、小首をかしげながら見上げた。


「迷惑だった?」


「まさか」


教授は笑った。


「むしろ面白かったわい。あの青年はなかなか興味深い」


「うん」


ミアは、胸元で両手を組んだ。


「彼を見たとき…すぐに分かったの。

 私の魂が、彼を覚えていた。」


教授は黙った。

ミアの声は震えていた。



「でも、彼はまだ何も思い出していない」


ミアは寂しそうに笑った。


「それは仕方のないことじゃ」


教授は静かに答えた。


「輪廻の記憶というものは、他人から無理に与えられても意味がない」


教授は、先ほどアルトが座っていた椅子を見る。


「わしを通して、気づきの種だけを蒔いた」


ミアは小さく頷いた。


「私はこの世界での新しい関係のままでもいいと思ってたの。

 でも、何も思い出せない彼の苦しさを、一緒に支えたいと思ったし、

 そこに私がいたことを思い出してほしいって…」


その声は、今にも泣き出しそうだった。

ミアは唇を噛んだ。


教授はミアの頭に手を置いた。

長い耳を、優しく撫でる。


「記憶は、与えられるものではない。本人が取り戻すものじゃ」


「…うん」


「それに」


教授は少しだけ笑った。


「あの青年なら、自分で辿り着くじゃろう。

 あの青年の目には、知りたいという意志が宿っておった」


「…」


「心配せんでもよい」


ミアは、ほんの少しだけ笑った。


「ありがとう、おじいちゃん」


けれど、ミアのその笑顔はすぐに消えた。


「……でも少し怖い」


「何がじゃ?」


「彼が全部思い出すこと」


教授は黙った。


「もし、思い出したら…」


ミアの声が小さくなる。


「彼が昔、何を経験したのか。何を失ったのか。どんな運命を背負っていたのか。

 それまで全部、戻ってくるんだよね?」


「そうなる可能性はある」


教授は優しく答えた。


ミアは窓の外を見る。

黒い宇宙。

その中に浮かぶ、青い地球。

月から見える地球は、今日も静かに輝いていた。


ミアは大きな瞳を潤ませた。

そして、強くこぶしを握った。


「…私も一緒に背負う」


声が少し震えた。


教授は何も言わなかった。


ミアは胸元に手を当てる。

そこには、アルトから贈られたブローチがあった。


小さな光を反射している。



教授は静かに目を閉じた。


長い沈黙。


やがて、ミアの肩を抱き寄せる。


「そうか」


白いあごひげを撫でる教授の手が、ほんの少しだけ震えていた。


「うまくいくといいの」


教授は窓の外を見つめる。


「女神の導きがあらんことを」



ミアは頷き、また、地球を見つめた。


青い星。

遠い。

けれど、なぜか今はすぐそこにあるように感じた。


彼もきっと、同じ星を見ている。


そして、いつか。

失われた記憶の向こう側で。


ミアは涙を拭った。

そして、青い地球を見つめながら、小さく笑った。


「あの時、絶対にもう一度会おうって……一緒に生きようって、約束したんだもの」

このストーリーのショート動画も作成しています。

https://youtube.com/shorts/cxjDjFB8WEg?feature=share

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。