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【完結済み】異世界転生うさぎ  作者: Usabean
第六章 記憶を知るもの
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<女神の伝承>

映し出されたのは、青い地球。

そして、その隣に浮かぶ月。


「君は、なぜ我々がこの月で、これほど高度な文明を築けたのか、不思議に思ったことはないかね?」


「…あります」


ぼくは答えた。


「植物園でも思いました。

 月には地球ほど豊富な資源があるわけじゃない。

 それなのに、食料も衣服も建材も、植物から作っている」


「うむ」


「いったい、どうしてそんなことが可能になったのか」


教授はしばらく黙っていた。

そして、ホログラムを切り替える。


地球と月。

その間に、一人の女性のシルエットが現れた。


長い耳。

白い衣。


そして、慈愛を感じさせる姿。


「これは…?」


「女神じゃ」


「女神?」


「月世界に古くから伝わる『女神伝承』じゃよ」


教授の声が、少しだけ低くなる。


「この月世界は、かつて慈愛に満ちた女神によって創られたと言われておる」


「創られた……?」


「地球で命を終えたうさぎたちの魂を憐れみ、慈しみ、安息の地として、この月を与えた、とな。」


ぼくは黙ってホログラムを見つめた。


「そして、この世界を維持するために与えられたのが、『生命の奇跡』じゃ。

 我々が今使っている植物生成技術の起源だとされておる。」


「…神話、ですよね?」


「もちろん」


教授は苦笑した。


「科学者として、これを文字通り事実だと信じるわけにはいかん。」


そう言いながらも、教授の目は真剣だった。


「じゃがな」


教授は静かに続けた。


「我々の歴史を調べれば調べるほど、この神話を完全な作り話として切り捨てることもできなくなる」


「どういうことです?」


「月世界の起源に関する記録が、あまりにも少ないのじゃ」


教授は指を動かした。

ホログラムに古い記録が表示された。


「我々が歴史を記録し始めるより前から、月には文明が存在していた。

 植物生成技術も、月面の塔も、その起源が分からない」


「…月面の塔」


「そうじゃ」


教授はポケベルへ視線を落とした。


「そして――」


教授の声が少しだけ小さくなった。


「我々の中には、『前世の記憶』を持って生まれる者がおる。」


「前世……」


その言葉が胸に刺さった。

ぼくの手が、無意識に膝の上で握りしめられる。


「そうじゃ。輪廻という考え方じゃな」


輪廻。

前世。


その言葉が、頭の中で何度も響く。


ぼくはうさぎではなかった。人間だった。

それだけは、間違いない。


なのに、なぜぼくはここにいる?

なぜうさぎとして生きている?

そして、なぜ記憶がない?



「…教授」


「なんじゃ?」


「もし……人間だった魂が、うさぎとして生まれ変わることもあるんですか?」


教授の表情が、わずかに変わった。



「どうじゃろうの。『女神伝承』では、うさぎの魂が輪廻するとされておる。」


「…」


「じゃが、魂というものが本当に存在するのなら、魂が宿る肉体に、絶対的な制約があるとは限らんのかもな。」


ぼくは息を呑んだ。

それは、ぼく自身の存在を肯定する言葉だった。


「面白い話じゃろう?」


教授は悪戯っぽく笑う。


「もちろん、科学的に証明された話ではないんじゃがな。」


教授はポケベルを指先で軽く叩いた。


「この機械も、その謎の一つかもしれん」



教授は椅子に座り直した。


「さて、本題に入ろう」


ポケベルの画面が、再び二人の間に置かれた。


『7、2、4、3、2、4、4、4……』


「君が受信した数字じゃな」


「はい」


「地球の語呂合わせとして読むには、少し不自然じゃ」


「ぼくもそう思います」



教授はしばらく数字をじっと見つめた。


「これは『言葉』ではなく、『場所』を示しているとは考えられんか?」


「場所?」


「座標、あるいは区画番号じゃ」


教授は立ち上がる。

壁際にある巨大な本棚へ向かい、古びた記録簿を取り出した。


表紙には見たことのない文字が刻まれている。


「少し待っておれ」


教授はページをめくっていく。

古い紙が擦れる音。


ホログラム全盛の月世界で、紙のページをめくる音だけが妙に大きく聞こえた。


「…ここじゃ」


教授が止まった。


「月世界形成初期の記録じゃ」


ぼくは立ち上がり、教授の横へ移動する。


「特別な魂を弔うための区画。そして、重要な記憶を封印するための場所…」


「記憶を、封印?」


「そうじゃ」


教授は古い文字を指でなぞった。


「その区画は、数字によって管理されていたらしい」


ぼくの背中に、ぞくりと寒気が走った。


教授が顔を上げる。


「現在の地名で言えば、エターナル・メモリアルパークじゃ」


聞き覚えのある名前だった。

月世界の地図にも載っていた。

厳重に管理された、公園墓地。



「エターナル・メモリアルパーク」


ぼくはその名前を呟いた。


「単なる墓地ではない、と?」


教授は静かに頷いた。


「この世界の歴史。そして、輪廻の秘密。

 あるいは…君自身の記憶に関わる何かが眠っているかもしれん」


「ぼくの…」

このストーリーのショート動画も作成しています。

https://youtube.com/shorts/cxjDjFB8WEg?feature=share

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