<万能植物の秘密>
ライラ主任の案内のもと、ぼくは各セクションの担当研究員たちに話を聞くことができた。
植物だけでなぜ全ての生活基盤が成り立つのか。
その答えは、以下の5つの生成技術にあった。
①第一プラント <食品セクション>
特定のタンパク質を多く含むよう品種改良された「高栄養シダ植物」をベースに、酵素で分解・再結合させる。
巨大な搬送レーンには、収穫されたばかりの青々とした植物が絶え間なく流れていた。
根は切り落とされることなく培養液に浸かったまま運ばれ、葉だけが柔らかな光に包まれて自動で切り分けられていく。
草の香りとともに、どこか香ばしい食品の匂いがしている。
「ここでは植物を一切無駄にしません。」
ライラ主任が胸を張る。
「葉は食品。茎は繊維。根は薬品。余った細胞は再培養です。」
「全部ですか?」
「全部です。」
ライラ主任
「カフェなどで提供される「お肉」も、ここで作られた植物のベースに、
大豆とキノコ菌糸を混ぜたハイブリッドタンパク質なんですよ。」
「こちらで簡易的にその様子をお見せしますね。」
ライラ主任は、植物を一束、機械に投入すると、機械が光り、分解が開始され、再度光を放った後、再結合される。
一口大の謎肉が生まれた。
「さあ、試食をどうぞ」
「おお…。うん、味も歯ごたえも肉だ。美味い。」
質問には熱心に答えてくれる。
ぼくは興奮で震える手を押さえながら、メモを取り続けた。
②第二プラント <服(繊維)セクション>
蜘蛛の糸の遺伝子情報を組み込んだ特殊な綿花から抽出される「バイオシルク」。
ライラ主任は、このセクションの説明をする若手研究員を紹介する。
若手研究員
「鋼鉄の数倍の強度がありながら、シルクのように柔らかいんです。
抽出した直後に、ナノノズルで瞬時に糸に紡ぎ、隣の機械で一気に服の形に編み上げます」
「見ていてくださいね」
シルクを機械に入れ、数分を待ったところで、スカーフが出来上がった。
「身に着けてみてください」
「え?いいんですか」
ぼくは首に巻いてみた。
「わぁ、なんという手触りの良さ…」
つい、すりすりしてしまった。
「思い切り引っ張ってみてください」
「え、本当に?」
引っ張ってみるが、全く切れない。
「鋼鉄より強いんですよ。」
「こんな柔らかいのに?」
本当にどういう技術なのだ。
いくつも質問をしたが、若手と言っていた研究員からは、とても丁寧な説明の回答が返ってくる。
質問に対する答えに、仕事への誇りを感じる。
③第三プラント <建材セクション>
成長の早い竹と巨大樹のハイブリッド植物から木材の硬い成分を抽出し、超高圧で圧縮する。
ライラ主任は、このセクションの説明をするベテラン技師長を紹介する。
ベテラン技師長
「プラスチックや金属の代わりになる。
鋼鉄並みに硬いが、傷がついても特殊な樹液を塗れば『自己修復』する。生きた建材というわけだ」
説明しながら、ベテラン技師長が木材に傷をつける。
「え、生きてるだって…?」
と口にしたところで、突然、機械が警報を鳴らした。赤色のランプが点滅している。
ベテラン技師長が険しい顔をして、「暴走だ」と近くにいる研究員に叫び、協力を要請した。
巨大なツタが急に床や天井まで伸び出して、装置をぐるりと巻き込んだ。
自動シャッターが下りて、被害のエリアを最小限に食い止める。
技師長、ライラ主任、集まってきた研究員が総出で、ツタの伸びる動きを誘導し、
装置の中へ戻そうとする。
大きなものが動く様子は、ひどく怖い!
「て、手伝います!」
ライラ主任
「植物も意思を持っているから、声を出して呼びかけて!」
大事になる前に、暴走は収まった。
「こんなことが良く起きるんですか?」
「いえ、今日はいつもの研究員ではない人が来たから、びっくりしたのかもしれないわ。
本当に面白いわよね」
とライラ主任の緊張感を吹き飛ばす早口が始まった。
④第四プラント <薬セクション>
花屋でも体に合わせた花の加工がおこなわれていたが、基本は同じで、
こちらは花束の形ではなく錠剤にしているようだ。
高度な機械に入れられた花が薬効の強弱で仕分けされ、
患者の症状の強さに合うように錠剤が生成されている。
ライラ主任
「こちらでは季節問わずに安定して、製薬しています。」
薬品の領域については、花屋の方が文化的で発展していそうだ。
「先日、月の花屋の加工施設でも同じようなことをしているのを取材しました」
と花屋の取材の話を説明したら、
「あちらは家庭向け。こちらは医療レベルです。」
とライラ主任の専門用語を使った説明が止まらなくってしまった。
専門家の前で下手なことをいうものじゃない。
⑤第五プラント <燃料セクション>
高効率で光合成を行う「蓄電苔」による発電と、樹液の電気化学的勾配を利用したバイオエタノール。
建材セクションにいたベテラン技師長がこちらの説明をしに来てくれた。
ベテラン技師長
「ドーム中のパイプラインを流れている緑の液体がそれだ。
都市の動力はすべて、この植物の『血液』で賄われている」
「この量、本当に植物だけで?」
とつぶやいたが、ここは流されてしまい、
いくつかの難しい数式をもとに説明されたがこれは理解が難しく、メモを取ることで精いっぱいだった。
そして、パイプラインを写真に収め、目で追っていると、地下へつながる扉のようなものに気が付いた。
目を凝らすと、厳重警備が敷かれているようだった。
あそこには入らせてはもらえないのだろうな。
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