表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻術師ヴァニーユのアリア  作者: RIM


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/53

50.ティータイム



 王宮にある図書館で、その彼女は静かに植物の本を読んでいた。


 彼女は毎日のようにこの図書館へやって来ては本を読み、勉強をしていた。


 静かに本に視線を落とすその彼女は、王宮内にある図書館を利用することを許されている、数少ない人物であった。




 その窓の外、幻術で姿を隠したヴァニーユとサーシャは、静かに彼女を見詰めている。




「彼女はエル嬢だ。薔薇園の管理を任せている、ヴァニーユと同い年の者だ」


「エルさん、ですか」




 そのエルと呼ばれる少女は静かに本に目を走らせており、その姿だけでもヴァニーユから見て所作が美しいように感じた。


 美しく、しかし真剣なその姿に、ヴァニーユは思わず目を奪われてしまう。


 彼女が薔薇の研究をしているという人なのだろうか。




「彼女は俺の卒業と入れ違いで、これからアルカナ学園の高等部へと編入する予定だ」


「編入ですか?」


「エル嬢はこれまで家庭教師の元で基礎を学んでいたからな」


「そうなのですね」




 ヴァニーユの瞳に映るサーシャの表情は少し険しい。


 あの少女に何かあるのか、もしくはあの少女の周りで何かあるのか、それはヴァニーユにはわからないが、あの少女が守られるべき存在ということだけは理解した。


 何か事情があるのだろう。




「ヴァニーユが自分の道を歩みたいというならば申し訳ない。断ってもいい話だ」


「……今の学校には不満も思い入れも何もありません」


「そうか、ならば……少しは受け入れやすいであろうか」




 サーシャはエルと呼ばれる少女からヴァニーユへと視線を移すと、あたたかな微笑を見せる。




「ヴァニーユには、彼女の護衛を任せたいのだ」




 ヴァニーユは彼女を紹介された時、薄々気付いていた。


 紹介したい人がいて、依頼に関係していて、その人は王宮の図書室に出入りしているともなれば、保護したい相手と見て間違いないだろう。




「学校の話をしてきたということは、私も転入という形でということでしょうか」


「あぁ、ヴァニーユには悪いが……」


「別に、悪くはないです。あなたが守るべきと判断した方なのでしょう?」




 どのような事情があるのかはわからない。


 けれどヴァニーユは、サーシャに頼られたのだ。


 サーシャが自分を認め、魔術の腕や判断力を認め、そして護衛としてその信頼を預けてくれた。


 それがヴァニーユは嬉しかった。


 理由など、それだけで十分だったのだ。




「その依頼、お引き受けいたします」


「引き受けてくれるのか?」


「えぇ。貴方からのお願いなら、喜んで引き受けます。彼女のことは任せてください」




 サーシャは安心するようにほっと肩の力が抜けた。


 肩の力が抜けてから、彼は緊張していたのだと気付いた。




 それから二人はその場を後にし、薔薇園の方へと歩みを進めながら、和やかに話をした。




「そういえば、飛竜が私たちの横を抜けて王都へ飛んで行った時、広範囲の雷鎖を展開しましたよね。あれはすごかったです。助けていただきありがとうございました」




 ヴァニーユがサーシャにそう礼を言うと、直後に彼の顔はぱぁっと明るくなり、いつものサーシャのように見えないしっぽでも振りそうなくらいに喜んでいた。


 本当に王子なのかと疑いたくなってしまう程、無邪気な人だ。




「あぁ、頑張ったのだ!」


「だからこそ、そのことが公表されないことに私は不満を抱いていますけどね」


「なに、不満があったのか」




 サーシャは何でもない顔をして、不機嫌さを見せるヴァニーユを見下ろす。


 彼にとっては実績が消えることなど、そう珍しいことではないのだ。




「魔術がこんなにも強いこの世では、王族などすぐ攫われてしまう。皆で隠して守ってもらっている立場上、そのような不満は湧かない」


「でも、あと少しでそれも解禁されるじゃないですか。たった数か月ですよ」


「決まりは決まりだ。それに、そのおかげである程度の自由が許されているのだ」




 薔薇の香りがふわりと二人を包み込む。


 薔薇園の中心にはガーデンテーブルが置かれており、彼の侍女が紅茶を用意して待っていてくれていた。


 その美しい景色に、ヴァニーユは思わずほぅっとため息をつく。




「ヴァニーユが知ってくれているのだから、それでいいのだ」




 サーシャがヴァニーユに手を差し出す。


 ヴァニーユも思わずそこに手を乗せて、いつの間にやら流れるようにエスコートされていた。


 ここに来て初めて王子様っぽいと思ったかもしれない。




「貴方も、そう言うのですか」


「他に誰か言っていたのか?」


「師匠にも言われました」




 それでもヴァニーユは、まだ少し納得いっていない。


 自分がまだ子供だからなのだろうと、頭では解っていた。


 これは時間に解決してもらうしかないのかもしれない。




「しかし、ヴァニーユがそこまで俺のことで不満を感じてくれている事は嬉しいぞ」


「貴方はそうやってよく人を誑かそうとするのでしょうか?」


「誑かされている自覚があるのか?」


「……少し意地悪になりましたか?」


「いや、可愛がっているのだ」


「やっぱり誑かそうとしているじゃないですか!」




 そんなやり取りをしながら席に座っていると、紅茶を淹れてくれていた侍女にくすくす笑われてしまった。恥ずかしい。


 サーシャは優雅にティーカップに口を付けながら、ヴァニーユをじっと見つめる。




「ヴァニーユは、もう俺のことをサーシャと呼んではくれないのだろうか」




 ふいにそんなことを尋ねられ、ヴァニーユは視線を上へと向けて考える。


 そのことについてどうすればいいのかという問題は、まだヴァニーユの中でも解決していなかった。


 二人の時はサーシャと呼ぶことにしていたが、正体が解った今、本当にそれでいいのかと考え続けている。




「殿下とお呼びした方がよろしいでしょうか? あれ、でも隠されているなら殿下では良くないですか」


「二人の時はサーシャがいいぞ。今は皆サーシャ様と呼ぶ」


「なるほど。ではこれまでと変わりませんね」




 変わらないということならば、ヴァニーユも少し気が楽である。




「肩の力は抜けただろうか?」


「おかげ様で。ここは人が少なくていいですね」


「人払いしているからな」




 なるほど、とヴァニーユは一つ頷き、ティーカップに口を付ける。


 なんだか気付かない所でいろいろと気遣ってもらっていたようだ。




「ありがとうございます」


「俺がゆっくりと話したかったのだ。それに誕生日だからな、この後ケーキを食べる余裕は残っているか?」


「ケーキまでいただいてよろしいのですか?」


「もちろんだぞ」




 至れり尽くせりだ。


 きっとヴァニーユはこの日のことを一生忘れないだろうと思いながら、二人きりのティータイムを楽しんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ