46.まずは一頭目
この場に居るのは、ライラック、ゼス、サーシャ、それからヴァニーユ。
この四人の中で一番火力の高い魔術を使えるのは、雷造の魔術師であるライラックだろう。
老眼とはいえ、あれ程大きな飛竜が相手ならばライラックでも大丈夫だろう。
彼の魔術の範囲は結構広いのだ。
ただし、ライラックが攻撃しやすいように敵を少しこちらに引き付ける必要がある。
今の距離だとライラックの攻撃は当てにくい。
「この後一旦あの結界を解いて、攻撃が届く距離までこちらに引きつける必要があります」
「あのスピードで近付かれ過ぎても困るな」
「せめて王都の結界が発動すればもう少し動きやすくなるでしょうが……」
業火の魔術師を探した上で中央の結界へ送り込むなど、この短時間で叶うものなのだろうか。
他にあの結界を使えるほどの上級魔術師がいれば済む話ではあるが、業火の魔術師程見つけやすい者もそうそういない。
ならば王都の結界は彼に任せるのが早いだろう。
拡散の結界師であるゼスは今、ヴァニーユたちを押し上げる足元の結界を維持する必要がある。
その上で飛竜を閉じ込める二重の結界まで貼っている為、かなり負担をかけているだろう。
「ゼス・ポート様、同時に展開できる結界の数は?」
「大体三つです。飛竜を閉じ込めている結界が壊されれば、小さめの結界ならば四つでも可能です」
「わかりました」
ということは、足元の結界を引いて飛竜に当てられる結界は三つ。
飛竜の半分は結界で足止めすることが出来そうだ。
この場にいる全員、ある程度の結界ならば張ることが出来る。
念の為にこちらにも結界を張るとして、ここは持続力に長けているサーシャに任せても大丈夫だろう。
いざという時はゼスもこちらに結界を張るだろうが、今は飛竜の方に集中してもらいたい。
ヴァニーユは少し考えた後、彼らに向き直って指示を出した。
「サーシャ様は私たちを包むように、なるべく硬い結界を張っていてください」
「わかったぞ」
「師匠が攻撃しやすいように私が場を整えます」
ヴァニーユはサーシャへ魔石を返してから作戦を四人で共有し、再び飛竜へと向き直った。
彼女は杖を構えてまっすぐに飛竜を睨みつけると口を開き、詠唱を歌う。
その詠唱は柔らかな風と共に響き渡り、風に乗って流れていく歌声は結界の内側で充満していた。
そこがヴァニーユの魔術の届くギリギリのラインである。
ヴァニーユがゼス・ポートに向けて一つ頷くと、飛竜を閉じ込めていた結界が二つとも解かれる。
彼女の幻術の範囲に入った三頭の飛竜はその勢いを止めると、ゆるりと宙を彷徨い始めていた。
飛竜たちはばらけてしまっている為、幻術が届かなかった残りの四頭がこちらを認識する。
直後、四頭の飛竜が勢いよく一気に攻め込んできた。
「ゼス様!」
「はい」
そこでゼス・ポートの結界術が展開し、三頭の飛竜を結界に閉じ込めることに成功した。
残り一頭が勢いよくこちらへ向かってくるが、サーシャが飛竜を包み込むようにもう一つ、拡散術式の組み込まれた大きめな球体結界を展開し、そこへライラックの雷撃が落とされた。
ドォンという音と共に、森の空気が揺れる。
飛竜は拡散された雷撃の衝撃に耐えられず、鳴き声を上げることもなく森の中へと落ちていった。
まずは一頭目を落とすことに成功したと、ヴァニーユはひとつ息を吐く。
足止めはしているがまだあと六頭残っている、気は抜けない。
幻術で酔ったように動きを鈍らせている三頭と、今にもゼスの結界を破ろうと鋭い爪を立てている三頭。
それらを見据えて、ヴァニーユは慎重に幻術をかけている三頭の意識をこちらに向かせた。
幻術を受けた三頭は思考がぼやけている自覚すらないままに、ヴァニーユの元へとぼんやりと近付いてくる。
以前子供たちを助けた孤児院で使った幻術と同じ要領で、飛竜の脳に勘違いを起こさせているのだ。
三頭が幻術から覚めないように慎重に引き寄せたヴァニーユは、ライラックの魔術の届く範囲内へと導く。
ここからは師匠の魔術に託す為、彼女はライラックにちらりと目をやり、一つ頷く。
ライラックは長めの詠唱の後、雷造の魔術師と云われる所以であるその魔術を披露した。




