45.共に戦おう
ライラックの結界は既に破られ、結界の上に立っている拡散の結界師『ゼス・ポート』は苦悶の表情を見せていた。
即席で作った結界だが、それでも英傑である彼の結界は飛竜を足止め出来る程の硬さを持っている。
散り散りになった飛竜は結界に行く手を阻まれながらも、それぞれの場所で爪を立て、結界を攻撃していた。
一方、森の中は見通しが悪く、飛竜の様子はヴァニーユには見えない。
ヴァニーユだけならば木の上へ行くこともできるが、それにライラックとサーシャは連れてはいけない。
腰の悪いライラックはここから動く事もままならず、手を借りるのは難しいことだろうし、まず一番に守るべき存在はこの国の第一王子だと判明したサーシャである。
この状況ならば二人一緒の場所に居た方が、いざという時にはライラックがサーシャを守りやすい。
戦う気満々だろうサーシャは、難色を示すかもしれないが。
「……師匠、サーシャ様を頼めますか?」
そのヴァニーユの言葉に、サーシャは彼女に詰め寄る。
ヴァニーユにとっては想定内のことだ。
「いや、わたしも参戦しよう」
「いえ、あなたを傷付けるわけにはいきませんし、師匠もこの場からあまり動けません。二人固まっていた方が安全なのです」
「ヴァニーユならば、わたしの魔術を含めた戦術を組み込むことが出来るだろう」
「それは……」
正直、二人だけでは七頭の飛竜を討ち取ることは厳しい。
模擬戦を見ている限り、サーシャも木々の上の方まで行ける程の身体能力は持っていないだろう。
ちなみにヴァニーユは風属性魔術を使って何とか一人でならば登れる程度である。
魔術の相性的に雷属性が使えた方がより勝てる可能性があることは、彼女も気付いていた。
拡散の結界師がいるならば尚更だ、彼の結界術と雷属性魔術は相性がいい。
護衛のゼスが戦いに参戦する以上、サーシャを守れる距離に誰かついてなければいけない。
そしてヴァニーユが飛竜と戦わないという選択肢もない。
どう説得する……とヴァニーユが悩んでいると、突如地面が隆起した――否、ヴァニーユ達三人を透明な結界術が持ち上げ、ゼスの元まで押し上げていた。
次の瞬間には木々の上に居たはずのゼスと目が合う。
「これで悩みの種は一つ無くなったでしょう? 清澄の幻術師殿」
彼はそう微笑を浮かべ、導くように己の杖の先を飛竜へと向けた。
ヴァニーユがその杖の先を辿るように前を向けば、飛竜たちがその結界に爪を立てている姿が目視出来た。
それから下を見渡せば、広大な森林が目の前に広がっている。
ここにいる四人全ての者が開けた視界で戦えるようにと、ゼスが足場を作り出してくれたことにより、これならばライラックも参戦がしやすくなり、サーシャも守ることのできる距離にいる。
そしてヴァニーユも、この目で敵が直に見えているならば、こちらが動きやすい。
「お心遣いありがとうございます」
「殿下はこちらで必ず守ります。貴方は貴方の動きやすいように、ご指示を」
「ヴァニーユ、頼む」
そう指示を仰がれ、ヴァニーユは目を瞑り、考える。
そうして彼女の頭の中を、様々な可能性が飛び交っていく。
あとどれ程であの結界は破られるか、破られた後の飛竜の行動は、それに必要な攻撃魔術は、効率よく立ち回るには。
時間がない中で一番効率よく、確実に倒せる方法は――。
ヴァニーユはふと息を吐くように笑ってしまった。
人を使うのに躊躇いはない方ではあったが、まさか王族に指示を出す日が来ようとは、背筋が凍るようだ。
しかし、ここに居るのはこれまで何度も会って魔術を教えてきた、サーシャなのだ。
今は友人として、遠慮なくその助けを借りようではないか。
「サーシャ様、後でお話致しましょう」
ヴァニーユは冷や汗をかきつつも、真っ直ぐ飛竜を睨みつけ、そして杖を構えた。
「今は――あれらを排除いたします」
「あぁ、共に倒そう!!」




