39.重みや硬さ
晴れ渡る青い空の下、その日のサーシャは短い鎖を持参してヴァニーユとの訓練に来ていた。
「随分とご立派な鎖ですね……」
大きめのその鎖は傷一つなく、日の光を浴びて金色の輝きを見せていた。
一体どこでこのような鎖を使うというのだろうか。
「これは少々大事な部屋を守る為に使われていた鎖でな、必要がなくなったとのことで譲り受けたのだ」
サーシャはそう言うと、ヴァニーユの前にその鎖を差し出して言う。
「持ってみるか?」
「いえ、傷を付けてしまったら怖いので結構です」
ヴァニーユが間髪入れずに拒否すると、サーシャの見えないしっぽがしゅーんと沈んでいくのを感じた。
まったく、高価そうなものをそうホイホイと人に預けようとしないでほしいものだ。
「見た目はともかく、魔力に重みをつけるとは、なかなか難しそうなものだな」
「水や土のように、雷は元々重さのあるものではありませんからね」
重み、それと硬さか……とヴァニーユは考え、少し教え方に悩んでいた。
幻術、風、それから陽属性魔術の具現化……ヴァニーユの使う魔術はどれも重さなど必要ないものばかりだ。
その上、彼女の幻術では重みも硬さも表現が出来ない。
ここに来て初めて、教える手が止まってしまった。
唯一表現できるとするならば、陽属性魔術ならば可能かもしれない。
鎖の形や重さを確認しているサーシャに、ヴァニーユはたった今考え付いたことを話した。
「私も陽属性魔術で重さや硬さを付けてみます」
「なんだと!? そ、それは可能なことなのか……?」
「まぁ、できないことはないでしょう。やったことのある人がいないだけで」
そもそも、陽属性魔術の使い手は多くない。
オドの濃さが絶対条件であるこの魔術は、その条件の厳しさ故にあまり研究が進んでいない。
しかしこの魔術は形を造り、触れることが可能である。
であるならば恐らく、重さや硬さも変化させることが出来るのではないだろうか? とヴァニーユは思ったのだ。
「思いついたのならば、試さない理由はありません」
「突然魔術開発の場に立ち会うことになるとは思っていなかった為に若干目眩がしたぞ」
「サーシャは休んでいていいですよ。ちょっと開発してきます」
「そんなちょっと散歩してきます程度のノリで開発するものなのだろうか!?」
後ろでぎゃーぎゃー騒いでいるサーシャをスルーし、ヴァニーユは陽属性魔術で光る玉を手元に作り出した。
この玉はどこにでも自由に動かせるような光の塊である。
これに重みと硬さを付け、そして形を変化させる。
形の変化自体は難しくない、玉の形に整えているように、別の形にすれば良いだけなのだ。
普段から幻術を使っているヴァニーユにとって、イメージを形にするのはそれほど難しいことではなかった。
サーシャの目標である鎖の形へと変化させることは成功し、そこに硬さを付けるように魔力を込めていく。
陽属性魔術の具現化自体、かなりの魔力を消耗するものだが、結界術の要領で硬さを付けると、より消耗が激しくなった。
さらに重さを付けるとなれば、重さの分だけ魔力の消耗が激しくなることだろう。
これは試す人がいなかったわけだ、とヴァニーユは一息ついてサーシャに向き直った。
「恐らく可能ですが、報告した所で使う人はいないかもしれません」
「で、できたということだろうか……?」
「不可能ではありませんが、魔力が持ちそうもないです。攻撃向きではありませんね」
落ち着きなくおろおろとするサーシャに対して、ヴァニーユはどうにかこの魔術を「使えるようなもの」に出来ないだろうか? と更に思考を深めていた。
ヴァニーユは成長期である為、今後魔力が増えていく可能性は十分にある。
そうなればある程度使えるようにはなるかもしれない。
今は重さがネックであるが、軽く重みを付ける程度なら可能だろう。
「小さめの鎖なら表現できそうなので、それを参考にしてみてください」
「……それはもう、ある意味その魔術が完成してしまったということなのではないか?」
「後で一応魔術協会に報告せねばいけませんね」
ヴァニーユがそう言うと、サーシャは頭を抱え込んで唸り始めてしまった。
魔術が好きな彼には、少し刺激が強すぎたようだ。




