38.新たな目標
電線が作れるようになったことを雷造の魔術師へと報告すると、彼は温かな目で嬉しそうに頷き、認めてくれた。
ひとまずこの課題もクリアと見ていいようだ。
それからライラックはサーシャと同じように片手で電線を作り、もう片方の指先をその電線の近くに当て、線を伸ばしたのだ。
サーシャもヴァニーユも、それに釘付けになる。
「この電線を柔らかく使い、こうしてもう片方の手に引っ張っていくことは出来そうですかな?」
「それが、まだ魔石に置いている手を放し切るまでに至っていなくて、難しいのだ」
「そうですか、ならば片手で良いです。マナを使ってこう――」
そこまで言ってからライラックは追加の詠唱をしてから、その電線の出来た指先をすぅっと横に引き、優雅に円を作った。
「シャボン玉のように丸を作れますかな?」
何がどうなってそうなったのだ? と、サーシャは眉間いっぱいに皺を寄せてその魔術を見つめる。
こんなに間近で見ているのに、理解が出来なかったのだ。
「……これはどうやって作っているのだろうか? なぜここまで柔らかく形を保てておるのだ? 詠唱を加えたということはマナを使ったのだろうか」
頭の上に疑問符がたくさん付いたサーシャは、その円形の魔術をじっと観察しつつ、ライラックに尋ねる。
「えぇ、そうです。マナで形を整え、維持しております」
ライラックはそのまま円形になったものの形を変えると、蛇を作り出した。
「……蛇、だと?」
「えぇ、蛇です」
雷造の魔術師本人による雷での造形物、それを初めて間近で見たサーシャは、頭に雷が落ちたような衝撃を受けて鳥肌を立てていた。
初めてこんなにも間近で、しかも不意打ちでこの魔術を見せてもらうことが出来るなど、思ってもみなかったのである。
サーシャは顔を真っ赤にさせてその魔術に魅入っていた。
「ヴァニーユ、ヴァニーユ!! 凄いぞ!!! 蛇だ!!!」
「えぇ、そうですね」
「こんなに小さくも作れるのだな……凄いぞ……」
「よかったですね、念願の師匠の魔術を見ることが出来て」
喜びを抑えることもできず、サーシャはその小さな蛇をしばらくまじまじと見つめていた。
子どもの頃に読んだ絵本から本物が飛び出してきたようで、サーシャは夢が叶ったかのように心が満たされていた。
「マナで形を整えていると言ったな……。オドでは出来ぬのか?」
「それはちと、難易度が高いですな」
「形状をイメージ通りに柔らかく変化させるには、マナの力を借りた方が整えやすいんですよ。ここまでの形状変化は大学の範囲内ではないでしょうか」
「なるほど、それ程難しい技術なのだな」
サーシャがここで学ぶ為に残された時間は、そう多くない。
どこまで雷造の魔術師の技術を受け取ることが出来るかは、時間との勝負なのである。
「ここからは、どれだけ使いたい魔術のイメージを具現化出来るかという話になってきます。サーシャ様には何か、具体的なイメージがありますかな?」
「使いたい魔術のイメージ、か」
サーシャは少し考え、すぐに顔を上げると、ヴァニーユとライラックを見て真剣に答えた。
「鎖を作ることはできるようになるだろうか?」
「鎖、ですかな?」
「あぁ。いざという時に敵を縛り付ける、鎖だ」
そうサーシャが口にすると、ライラックは顔をほころばせて二度頷いた。
「貴方様ならば、それもすぐ身に着けることが出来ましょう」
ライラックは長めの詠唱の後、手を木々の間へと向けた。
青色の光が凄まじい速さでいくつかの木を引っ掛け、そしてもう片方の手へと戻ってくる。
青白い光を放った雷の鎖が、しっかりと木々を縛り付けていた。
「雷属性魔術には、あまり重みがありませぬ。ですから、魔力の濃さで重みと強度をつけるのです」
「これが……雷の鎖か」
「このイメージをお忘れなきよう。ヴァニーユも覚えたかい?」
「はい、幻術で再現するには十分です」
「では、この後の訓練もヴァニーユに任せようか」
この日、サーシャに具体的な目標が出来た。
ライラックの見せてくれたこの雷の鎖を、己の手で作り出せるようになることだ。
湯がふつふつと沸くように、サーシャの心は熱で満たされていた。




