37.魔術で癒す
雪が溶け、緑が顔を出し始める頃。
ヴァニーユは森の中でサーシャに魔術の維持の仕方を教えていた。
「サーシャの使う雷属性魔術は得にそうですが、魔術の維持とはとても難しいものです」
先程まで指先を開き、電線作りに勤しんでいたサーシャは、今は草の生え始めた地面に横たわっていた。
特訓を続けているうちに指先が痺れて魔術のコントロールが効かなくなり、溢れた魔術で全身が痺れてしまっていたのである。
「大丈夫ですか? サーシャ」
「全身の筋肉が強制的に固まったぞ……、声までかっすかすではないか」
「少し休みがてら、私の解説を聞いておいてください」
「鬼か」
サーシャはごろんと寝転がったままヴァニーユの方へと向き、彼女の解説を聞くことにした。
すると、ヴァニーユはすぅっと息を吸い込み、少し顔を上げて口を開く。
爽やかな風の流れに乗るように、彼女は歌い出す。
その歌詞はよく聞いてみると魔術の詠唱であり、サーシャはその鈴を転がすような声の美しさに、ほぅっと息をついたのだった。
風がそよそよと流れ、サーシャの周りを柔らかく包み込む。
彼女が片手をサーシャへと向けると、彼の目の前に暖かな光が現れ、その体を柔らかく包み込む。
光度は抑えているが、陽属性魔術の光はちょうど良い温かさでサーシャの体の緊張をほぐしていた。
やがてその心地よさにうとうととしてきた頃、ヴァニーユは歌うことをやめ、光度を上げた。
「うおっまぶしいぞ!!」
「リラックスが出来たなら起きてください、サーシャ。私が何のために今魔術をお見せしたと思っているのですか?」
「はっ! そうだ、魔術!!」
がばっと起き上がったサーシャは手をぐーぱーとして、痺れ具合を確認する。
すっかり体の具合は良くなっていた。
「今見せたのは風属性魔術と陽属性魔術の維持魔術です。私の場合、歌っている方が弱い魔術の継続がしやすいことに気付いたので、このような使い方をするようになりました」
「歌にも意味があったのか!!!」
「どうですか、治癒のような魔術は不可能でも、体の緊張をほぐす程度の力にはなれたでしょう?」
「魔術で癒すという視点がもう既に新しいぞ」
昔の魔術は基本的に強いものが好まれ、弱いものは研究されにくい分野とされていた。
それは魔術が、争いごとや竜への対抗手段としてしか発展していなかった頃の話である。
攻撃は最大の防御とされてきた時代、幅広い魔術を考えられるような余裕は魔術師の中にはほとんどなかったのだ。
その為、結界術すらもきっかけがなければ、今ほど発展出来ていなかったのである。
「雷属性魔術を維持するには、他の属性魔術よりも放出の速さが求められます」
「雷の移動が速いから、繋げるとなると放出も早くする必要があるのだな」
「そうです。一方で水属性魔術などは繋げやすく、安定しやすいとされています。その分あれは重いですけどね」
仕組みやイメージさえわかれば、あとは繰り返し特訓するのみだ。
よし! と気合いを入れ直したサーシャは立ち上がり、再び指先に魔力を集中させる。
気合いの入ったサーシャを見てヴァニーユは顔をほころばせてアドバイスをした。
「等間隔に素早く繋げるイメージを持ってください」
「わかった!!」
この日、サーシャは感じていた。
どうにかしてこの、魔石へ魔力を流す手を放して、自由に両手を使えるようになりたい。
そうすればまた一歩、ヴァニーユ達のような凄腕の魔術師に近付けるのではないだろうか。
イメージが次々と湧いてきては焦り、そしてわくわくとした期待感も高まる。
彼女のようにもっと自由に、イメージ通りに、そして人の助けになれるような魔術を使えるようになりたい。
そして人を守れるほどの力を己自身で手に入れるのだと、サーシャはそう誓った。
等間隔で素早く魔力を流し込み、線のように維持をする。
指先でそれが成功した時、サーシャは声を上げて喜び、隣にいたヴァニーユも「すごいです!」と褒めてくれた。
その線の長さは十センチメートル程度だ。
今はまだこんなにも短いが、これが出来てこそ雷属性魔術で形を造ることができる。
いよいよ、雷造の魔術師の使う魔術に一歩近付いて来たと、サーシャは胸の高鳴りを抑えられなかった。




