35.電線
静電気の起こし方に少し手こずったサーシャだったが、次にヴァニーユたちの元へと訪れる頃には既に習得していた。
結界術でロウソクの炎を消す時とは違い、この魔術は準備が必要ない為、サーシャは授業や勉強の合間もずっと練習を続けていたのだ。
サーシャの指の間でパチッと軽く弾ける音がする。
それは微かな音であり、視認することも難しい程のものだ。
それを確認した雷造の魔術師は二度頷き、ほんわかと笑った。
ひとまずこの課題はクリア出来たのだ。
余分な魔力を魔石へと移すことに慣れてきたサーシャは、魔術の飲み込みが格段に早くなってきている。
その速さにはヴァニーユもライラックも感心せずにはいられない。
ライラックはサーシャの習得速度を確認すると、次の課題を出した。
「それでは、次は電線を張れるようにしましょうかね」
「電線か?」
「電気で線を、そして網を張れるようになりましょう」
ライラックは両手の人差し指を向かい合わせると、最短詠唱でそこを雷で繋げて線にして見せた。
それを維持したまま、さらに少し長い詠唱を唱えると、その線を伸ばして徐々に広げ、それは網になっていく。
その網は木々の間に張り巡らされ、あっという間にサーシャたちは電気網に囲まれたのだ。
「これを維持出来るようになりましょう。応用すれば柵にも網にも縄にもなりますからな」
「これは……電流を維持しているのか?」
「いかにも。雷属性魔術での造形物でも、このように維持が必要となりますな」
サーシャが今まで使ってきた魔術を見る限り、彼は雷属性魔術を放出は出来ても、そのまま維持することが苦手であり、高火力の単発攻撃を得意としている。
彼の得意魔術である結界術では魔術の維持が出来ていた事を考えると、それが雷属性魔術でも出来るようにはなるかもしれない。
しかし、この電気網は広範囲のでの魔術だ……つまり、マナを借り入れる必要がある。
彼はマナの使い方を覚え始めたばかりで、まだ慣れるまでに至っていないのだ。
雷属性魔術は他の属性魔術と比べ、維持が難しい魔術とされている。
それは、雷がどの属性魔術よりも攻撃速度が速く、それを一箇所に留めておくことが非常に困難だからだ。
「雷造の魔術師殿は本当にこのような高度な魔術をたやすくやってのけるのだな」
「これが高度な魔術だと貴方自身で気付けることこそが、なにより成長の証でありましょう。半端者には簡単に見えることも、それなりに技術を身につけた者にはそれに至るまでの道筋が見え、難しく感じるものです」
「……そうか。俄然やる気が湧いてきたぞ、感謝する」
そうライラックに笑いかけたサーシャは、既に中級魔術師相当の魔術を扱っている。
ライラックは既にサーシャを魔術の初心者とは考えず、一人の魔術師として育て上げようとしていた。
サーシャは早速、両手の指先へと魔力を込めようとするが、そう上手くはいかない。
両手を使おうとすれば、魔石へ流している魔力が不安定になってしまうのだ。
彼はまだ手を放したまま、魔石へ魔力を込められるまでには至っていない。
なので手を魔石にかざす必要がある。
何もかも、まだ技術が足りていない。
そう焦るサーシャの隣で、ヴァニーユは彼の魔術を観察していた。
「サーシャ様、静電気の時は片手でされていましたよね?」
「……あぁ、そうだな」
「ではまず、同じように片手で指先に電線を作ってみてはどうでしょうか?」
言われてみれば確かにそうだ、とヴァニーユを見上げたサーシャは、片手を胸元の魔石へと置き、もう片方の指先に魔力を流し込む。
ライラックはそんな二人を横目で見ながら、いつも座っている切り株の元へと向かって行った。
ここから先はヴァニーユに任せるつもりのようだ。
電気が流れてはバチッという音を立てて散る指先を眺めながら、これを線にして維持するのはかなりの難題だとサーシャは顔をしかめて特訓に励む。
ヴァニーユもその地道な特訓に付き合ってくれていた。




