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幻術師ヴァニーユのアリア  作者: RIM


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34.良き変化

 雷造の魔術師『ライラック・ブロンド』は、かつての英傑である。


 子供達が憧れを持ち、絵本での冒険譚などもサーシャが子供の頃には流行っていた程の、雷属性魔術の使い手だ。


 優しそうなそのおじから繰り出される派手な魔術の数々は、今でも衰えてなどいない。




「さて、サーシャ様。まずはこの度でのかくれんぼの勝利、おめでとうございます。今後は私が雷属性魔術の指導をさせていただきますが、よろしいですかな?」


「うむ、よろしく頼む!!! 雷造の魔術師殿に見てもらえるなど、夢のことのようだ!!」




 サーシャはそれはもう目を輝かせて、子供のように喜びを噛み締めていた。


 憧れの雷造の魔術師から、ついに魔術の指導をして貰えることになった。


 ここからようやく、自分の思い描く魔術へのスタートを切れるのだ。


 そう考えるとサーシャの心は踊り、胸元の魔石の光もゆらゆらと揺れていた。




 ヴァニーユはサーシャの護衛の元へと移動すると、彼の横に立ち、一緒にサーシャたちの様子を眺めることにした。


 少し護衛の彼に話したいこともあったのだ。




「貴方がこちらへ来るとは珍しい」


「いえ……あの。私の使命もここまで、ですので」




 この護衛のことも、ヴァニーユは今まで避けるように過ごしていた。


 ヴァニーユにとって背の高い大人は、昔を思い出させてしまう。


 しかし、サーシャはヴァニーユが警戒していた頃に思っていたような人物とは全然違ったのだ。


 それはきっと、この護衛にも言えることなのではないだろうか? 彼女はそう思い始めていた。




 この護衛から悪意など感じたことは無い。


 それどころかヴァニーユに文句一つも言わず、サーシャとの訓練を見守ってくれていた。




 この人に圧をかけられていたら、ヴァニーユは思うように指導など出来なかったことだろう。




「……私を信じてサーシャ様を預けてくださり、ありがとうございました。そのおかげもあり、彼の魔術の腕はかなり上達しました」


「…………貴方に感謝されるとは思っておりませんでした。いえ、悪い意味ではなく」


「……えぇ、あの、今まで態度が悪かったことは反省しています」


「いえ、そういうことでもなくてですね」




 ではどういうことだろうか? と落としていた視線を彼の顔へと向けると、普段は何を考えているかわからないような無表情を貫いていたその表情が、ふっとゆるだ気がした。




「あなたの中でも、変化があったのだなと思っただけなのです」




 それから彼はサーシャへと視線を移し、目を少し細めた。




「それに、まだ出番はありそうですよ? 清澄の幻術師殿」




 彼の視線を追った先で、サーシャとライラックがこちらを見て手招きしていた。




「ヴァニーユ!! 来てくれないだろうか!!」


「え、なんですか」


「弱い魔術を使うコツを教えてくれないか!!」




 「ほら」とでも言うように首を傾げるその護衛に会釈してから、ヴァニーユはサーシャの元へと向かって行った。




「良き変化です」




 サーシャ達の元へ向かう彼女の後ろ姿を見ながら、護衛は目を細めて呟いていた。






 サーシャの最終的な目標は、雷属性魔術を形を変えて扱えるようになること。


 その最初のステップとして、サーシャはライラックから課題を言い渡されていた。




「まずは静電気を作っていただきたい」


「静電気か……?」


「一番威力の弱い雷属性魔術ですね」




 威力の弱い魔術とは、高火力を得意とするサーシャには難しい課題である。


 ライラックが最短詠唱で「放電」と唱えれば、親指と人差し指の間にピリッとした電気が一瞬走り、パチッと軽い音がした。




「これが静電気です。できますかな?」


「やってみよう」




 サーシャは魔石を握り込み、もう片方の手でライラックと同じように親指と人差し指の間に魔力を込めるが、うまく起こせなかった。


 魔石に流し込む量と電流を流すのに必要な魔力の量が噛み合わず、発動が難しいようだ。




「これが、まずは最初の課題です。これが出来るようになってから、次へ行きましょうかな」


「思っていたよりも難しいぞ……。ヴァニーユ、なぜだかわかるだろうか?」


「あまりにも抑え込み過ぎて指先へ魔力が流し込めていないのではないでしょうか? かといって指先への魔力の量を増やせば、静電気どころではなくなるかもしれません」




 威力が出てしまえば、雷と変わらぬ強さになってしまう。


 それでは意味がないのだろう。




 この魔術は電気を溜め込み、それから放電させるものだろうとヴァニーユは考える。


 それを魔術で再現するのはかなり難易度の高いことだろう。




「魔力で摩擦を起こすようなイメージは出来ますか?」


「この指先の間にか?」


「そうです。摩擦で電気のバランスをあえて崩すことでこの魔術は起こすことができると……思うのですが、師匠、どうでしょうか?」


「ふぅむ……やってごらんなさいな」


「このように師匠は割と放任しますので、苦労をおかけするかと思います」




 サーシャは少し悲しげな顔を見せ、それから己の指先を見詰め、きりりと眉を顰めてから再度挑戦を始めた。




「ふむ、頑張ってみようではないか」




 この日からサーシャの雷属性魔術の訓練は始まったのだった。

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