33.願いを込めて
師匠の元へと戻る間、サーシャとヴァニーユは森の中を歩きながら話していた。
「……そうだ、この前シェリー村に行ったそうだな」
「何故それを知っているのです? サ……サーシャ」
「ははっ!! 慣れないな!!」
慣れない呼び方にサーシャが腹を抱えて笑うと、ヴァニーユはぷっくりと頬を膨らませてから不安そうな顔で彼を軽く睨みつけた。
「本当に敬称なしとか大丈夫ですか? 不敬にあたりませんか?」
「構わん。二人の時くらい親しく話したいではないか」
「私が慣れないです!!」
これまで人を避けて暮らし、当然のように友人などいなかったヴァニーユは、一体何年ぶりに友人といえる友人が出来たことだろうか。
なんとも悲しい事実である。
「それで、なぜシェリー村へ行ったことをサーシャは知っているんです? 師匠から聞いたんですか?」
「いや、俺がシェリー村へ行って聞いてきたからだ」
「あの村へ行ったんですか!?」
シェリー村は未だ竜害から復旧しきれておらず、諦めて村から出ていく人もいる。
竜を恐れて近寄る者も少なく、人手不足なのだ。
そのような危険な所へ、サーシャが行くとは思っていなかった。
「本当に……あなた何者なんです?」
「まぁ必要な事だったのだ。そのシェリー村へと魔石を届けていたそうだな。皆感謝しておったぞ」
「それくらいしか、あの村の力になれないので……」
シェリー村は少ない人員の中で元の生活を取り戻そうと皆で結託し、頑張っている。
ヴァニーユがいくら英傑とはいえ、村を元通りに出来るほどの力は持っていない。
実際に竜害をこの目で見たからこそ、悔しさが一層強く出てくるのだ。
だからこそシェリー村の力になりたいと、ヴァニーユからライラックへと相談し、再興の願いを込めて魔石と魔力を贈ると決めたのだった。
「ヴァニーユ、実はあのシェリー村の近くでは半年前にも一度、火竜が出ている」
「半年前というと……大事には至らなかった為にあまり広まらずにいた、あの件ですか」
その火竜が出た場所の辺りは、今でも木の焦げた跡が円形に残っている。
村から離れた場所であった為、人的被害はなかったのだ。
居合わせた上級魔術師によってその炎は消し止められたと各英傑にも情報共有がされていたが、それとは別に陰魔術が使われたという噂もある。
火竜といえば口から火を吐くことが知られており、山で火を吐かれたら山火事になってしまう。
魔力を帯びた炎はただでさえ消化するのが大変だ。
普段はもっと標高の高いところに住んでいるはずなのに、あの日その火竜は麓の近くまで降りてきてしまったようだ。
「実はその火竜に、俺も遭遇していたんだ」
「………………はい?」
ぼーっと考え込んでいたヴァニーユに、サーシャがぽつりとそんなことを告げた。
一瞬信じられなくて、彼の言葉の理解が後から付いてくると、ヴァニーユの頭から血の気が引く。
「ちょっと待ってください、あの火竜と遭遇した……と?」
「あぁ、あれはとても大きくて体がすくんで動けなくなったぞ!」
「……そこからよく生きて帰ってこれましたね?」
下手したら食われていても不思議じゃないことだと、ヴァニーユはその話を本当に信じられない気持ちで聞いていた。
火竜は炎まで吐いていた上に、サーシャは体がすくんで動けなくなっていたのだという。
とすると、例の上級魔術師がその炎を抑え、竜を倒し、サーシャを連れて無事に帰ってきたということになる。
「あぁ、この命があるのも彼らのおかげだ。お! 雷造の魔術師殿達が見えてきたぞ!!」
そうはしゃいで師匠たちの元へと戻ったサーシャは、索敵魔術が使えたことの喜びを全力でライラックに訴えかけていた。
それを見てライラックは和やかに頷き、サーシャの護衛は拍手を送っていた。
サーシャは先程の話で『彼らのおかげ』と言った。
となると、居合わせた上級魔術師の他にも、その場には人がいたということだろうか……?
陰魔術を使った痕跡があるとなると、この国の中でもかなり限定される。
それこそ、隠されなどしていない限りは。
「考えたところで仕方ないか」
ヴァニーユはぽつりとそう零し、ライラック達と合流してサーシャの魔術の経過を報告した。




