27.小細工
ヴァニーユから結界の使い方を習ったサーシャは、平面結界でろうそくの炎を消すことにチャレンジしていた。
しかしこれがなかなか、コントロールが難しい。
そこでヴァニーユは一つアドバイスをしたのだ。
「炎の奥側に一度、平面結界を展開してください。当てにくかったら大きめの結界で大丈夫です。その結界を手前に素早く引くようにしてみてはどうでしょうか?」
「手前に引く? わかった、やってみよう」
サーシャの結界術は、彼の持つ魔術の中でも一番コントロールの効きやすい得意魔術であった。
そしてヴァニーユが思っていた以上に彼の上達は早く、この課題をクリアするまでにそう時間はかからなかった。
ろうそくの炎の奥側に少し広めに平面結界を展開、そして切るように手前に素早く――引く。
スッとろうそくの炎が消えると、サーシャは一瞬呆然とそれを眺めた後に、ヴァニーユの方へと振り返った。
「炎が消せるようになったぞ、ヴァニーユ!!」
「飲み込みが速いですね、こんなにすぐにクリアできるようになるとは思っていませんでした」
ヴァニーユは拍手をしながら彼に笑いかけ、それから炎の消えたろうそくを観察する。
微妙な調整はまだ必要かもしれないが、初めてでここまで出来るとは正直思っていなかったのである。
しかし彼は落ち着いて、イメージ通りに炎を消すことに成功した。
意外とピンポイントに魔術自体を当てるということに関しては、彼は強いのかもしれない。
「風の抵抗がないように、切るように結界をスッと動かすことはなかなか難しいことなのですが」
ヴァニーユはついサーシャに向けて笑いかけていた。
「すごいです。よく出来ました」
サーシャも喜びに満ちた表情で喜びを噛み締めグッと握りこぶしをつくった。
まずは杖ありで成功が出来た。
そして、次の段階へと移っていく。
「それでは、今度は杖を使わずやってみましょうか」
「……いよいよか」
「サーシャ様ならばできることでしょう。大丈夫です」
ろうそくに炎をつけ直すと、ヴァニーユは彼の隣に立ち、サーシャから杖を受け取る。
杖なしでの魔術も、基本的なイメージは一緒だ。
「最初は不安定でも大丈夫です。標的をしっかりと見て、最初は指先を杖の代わりにして魔術を使うようなイメージでいきましょう」
「わかった」
そう説明すると、彼女はまず彼にお手本を見せる。
詠唱をしながら炎の左奥から右奥へとスッと人差し指を動かし、作られた平面結界でろうそくを切るように手前に引き、炎を消した。
それを見たサーシャは、目を輝かせて「かっこいいぞ!!」などと騒いでいた。
「これに慣れてきたら手を広げて魔力を多く込めて魔術を使ったり、敵をを見なくても魔術を使えるようにしていくなど、バリエーションも広げられますよ」
そのヴァニーユの説明に、先程まで騒いでいたサーシャはきょとんと眼を点にする。
「……敵を見ずに魔術を使うとはどういうことだ?」
彼女からまた不思議な応用術が聞こえたような気がして、サーシャは聞き返す。
それは気のせいでもなんでもなく、いつものやつだった。
「視線を敵に向けないことで、不意打ちを狙えるようになります。敵に向けていた視線や指先を別の方向へと誘導することで、相手の視線誘導もできるようになります」
「ヴァニーユは本当に……そういうことが得意だな」
「実際に戦闘で使えるので、こういう小細工も大事なスキルですよ」
サーシャは少々呆れ顔を見せてから、再びろうそくへと意識を向けた。
指先をろうそくの炎へと向け、震える手で平面結界を展開しようとするが、心臓がどくどくと胸を打つと同時に指先が震えていた。
胸元の魔石が大きく揺れ、サーシャの深呼吸に合わせて次第に落ち着きを見せる。
まっすぐとろうそくへと向けられた指先に集中し、彼は詠唱を唱えた。




