22.天然の魔石
魔石を使い始めたその日、サーシャは夜寝る前までずっと魔石にオドを流し込みながら過ごしていた。
それだけでも神経が擦り減るようだというのに、これを朝から晩までだなんて、ヴァニーユは澄ました顔してなんて厳しいのだと愚痴をこぼしながら、ベッドに突っ伏しその日は眠った。
その日ヴァニーユに見せた魔石を次に使うのはペンダントに加工した後の予定なので、翌朝には魔石を信頼できる魔道具職人へと渡していた。
仕上がるまではしばらく、代わりの魔石を使うことにした。
しかしその代用の魔石にも一定の魔力を注ぐことが難しく、サーシャは魔石の光が大きく揺らいでは深呼吸して落ち着け、また流し込むことを繰り返しをしていた。
そうしてヴァニーユなしでの特訓初日のサーシャは、夕方にはぐったりとソファーに突っ伏していた。
ここまで疲弊したのはいつ以来だろうか。
しかしここまで疲弊しているのに、その有り余る魔力はまだ底を尽きていない。
自分の魔力量が本当に多いのだと、この日サーシャは初めて実感していた。
ここまで魔力を使ったことなど、今までなかったのだ。
そんな日々を繰り返しているうちにヴァニーユの元へと訪問する日になり、サーシャは少し不安になっていた。
自分はちゃんと成長できているのだろうか。
ヴァニーユにとってはこれは簡単なことなのだろうか。
他の学生はでは見たことがないが、一般的な魔術師は皆これくらい出来てしまうのだろうか。
「サーシャ様」
いつもの森へ行く道で、護衛の男が心配そうにサーシャに声をかけていた。
「少し休まれてはどうですか?」
「いや、己がまだ未熟なだけなのだ、夜には休んでいる。魔石に一定量の魔力を込めることが、これ程までに難しいことだとは知らなかった」
「しかし、」
「これを乗り越えねばきっと、上達などできぬ」
サーシャは強い意思を込めた瞳を護衛に向け、それからまっすぐ前を見据えた。
魔石の光が少しの揺らぎを見せ、それから静かに落ち着きを見せた。
「わたしは魔術に大きな可能性を感じている。ヴァニーユを見ているとその気持ちは膨れ上がる一方だ」
ライラックの家の前に居る二人が視界に入ると、サーシャは大きく手を振って笑っていた。
もう、先程までの不安気な表情は見せていない。
「今は己の出来ることを精一杯やることにしたのだ。そう決めたのは己であるからな」
今日もサーシャはヴァニーユの元で魔術の訓練をする。
不安がなくなったわけではない。
しかし不安よりも、この先への期待の方がサーシャをわくわくとさせていた。
「サーシャ様、大丈夫ですか?」
魔術訓練場へと向かう中、ヴァニーユがサーシャを見上げて眉を微かにひそめていた。
「魔石へ魔力を送り続けることが、思っていたよりもキツくてな……」
「オドは一日もっていますか?」
「もっているが、集中力が足りなくなるとすぐ光が揺れる」
「ふむ……では少し調整しましょうか」
魔術訓練場に着くと、ヴァニーユはサーシャの持っている魔石の様子を確認する。
その光は以前見た時よりも揺らぎが小さくなっているように見えたが、微かにまだ不安定であった。
「サーシャ様、今の倍の魔力を込めることはできますか?」
「……倍か?」
「問題が魔力量ではないということなら、もしかしたらその方が落ち着くかもしれません」
ヴァニーユに言われた通り、サーシャは恐る恐る倍の魔力を流し込んだ。
すると、不思議なことに魔石の光の揺らぎがさらに小さくなったのだ。
「こっちでしたね」
「なんだ!? どういうことなのだ!? 心なしか体も少し楽になってきている気がするぞ!!」
さて、これをどう説明しようか。
彼女は頭を捻って考えてから、説明を始める。
「自分が平均的に出せる力よりも小さな力を出し続けることって、実は疲れることなんです。意識をし続けなければいけませんから」
「……確かにそうだな」
「サーシャ様は魔石が壊れるのではないかと恐れていたのではありませんか?」
サーシャはその言葉に心臓がドクンと大きく鳴るのを感じた。
そうだ、いつも魔力を抑えよう抑えようとしていた気持ちが、そのまま魔石にも向いていたのである。
「こういった天然の魔石は、竜や精霊のオドさえも封印できる程の器があります。人間ぽっちの魔力量では天然ものはそう簡単に壊れはしません」
「しかし、魔力を込め続けていても大丈夫なものなのか?」
「そもそも魔石とは、空間に満ちているマナさえも喰っているものです」
「魔石がマナを喰っているのか!?」
「天然の魔石とは、そうしてマナを蓄えて育ったものですので」
魔石の光は少し揺らぎはしたものの、再び落ち着きを見せていた。
本当に、込める量を変えただけでかなり安定しているのが見て取れた。
「今後も安心して、魔力を込め続けましょう」
ヴァニーユの言う通りに魔石に魔力を込めながら、本日の特訓は始まった。




