21.スパルタ
魔術師は基本的に、杖を持ち歩いている。
そしてその杖は魔術を正確に当てる為でもあるが、魔術を安定させる為にも使われている。
高等部に入ってまず支給されるのが初級用の杖であり、本格的に魔術の授業が始まるのもその頃なのだ。
「杖がなくても魔術が使えるかは、わからない……。ヴァニーユは杖を使わないのか?」
「私の杖なら、小さくして身に付けていますよ」
ヴァニーユは懐から小さな棒状のものを取り出した。
「私も魔術が完璧なわけではありません。戦闘になる時に安定して魔術を使いたい時には杖を使います」
彼女はそう言い、ほんの五センチ程度の杖を手のひらの上に取り出した。
「これが、ヴァニーユの杖か?」
「そうです。圧縮魔術を使っているので今は小さいですが」
ヴァニーユが持っていた小さな杖が伸びると、一メートル程の杖になった。
杖の先にはヴァニーユの瞳の色のような赤い石が埋め込まれており、彼女を象徴しているようであった。
「杖も一応、魔道具のひとつに入ります。そしてこの杖にかけていた圧縮魔術も、索敵魔術や結界術と同じ空間干渉魔術の一つです。圧縮魔術は生き物や壊れやすい物には使えません、物や道具に使えます」
「ヴァニーユはその杖がなくとも魔術を使えるのか?魔術には杖を使うものであるのに、その杖を魔術で小さくするなどと……どうなっているのだ?」
サーシャはわけがわからなくなって頭を抱える。
サーシャの感覚では、杖に魔術をかけようとするならばもう1つ杖が必要なのである。
それをせずに杖に魔術をかけられる方が意味がわからない。
「私も師匠も、杖がなくとも大体の魔術は使えますね」
ヴァニーユはその杖の上の方をサーシャに見せながら説明をした。
「この杖の先の方にある石も魔石です。魔力の揺れを軽減し、安定した魔術を使えます」
「杖の先に魔石を付けるのもアリなのか!?」
「まぁ、コントロールさえ出来るようになってしまえば杖すら必要なくなるので……両手が空いた方が楽ですよ。その魔石も首元に下げてはどうですか? そうなるとペンダントなども魔道具の扱いになりますけど」
ヴァニーユの提案に、サーシャは腕を組み首を傾げて悩む。
確かにそのまま持っていては確実に片手は塞がるし、紛失してしまうこともあるかもしれないし、何かしら工夫するのは良いかもしれない。
「そうだな、考えておこう」
自分が魔道具を身に付ける……これまではあまり考えたことはなかった。
魔石をペンダントにしようか、それとも指輪にしようか?
サーシャはうきうきとした気持ちを抑え込むことが出来ないまま、ヴァニーユに魔石の使い方を習うことになった。
「まずは手から魔石へと、オドを流し込む感覚を掴んでください。少しずつですからね」
「やはり少しずつなのか?」
「魔石は吸収力が強いので、一気に送り込むと魔力切れを起こす場合がありますから。……サーシャ様はそこまで心配しなくとも大丈夫な気はしますが」
なんといっても、サーシャは魔力測定のときにあの魔水を深い夜空の色にまで染め上げたほどの魔力を持っているのだ。
そうそう魔力切れなんてものは起こさないだろう。
「サーシャ様は今、少し感情が揺らいでいます。まずは落ち着けてから、練習をしましょう」
「お、おう」
ヴァニーユに言われて数度深呼吸をした後、サーシャは魔石に意識を向けた。
まずは効き手に魔石を持ち、杖に魔力を込める要領でオドを少し流し込む。
「結界術が得意ですよね。以前のかくれんぼで見せた、足元に結界術を展開させる要領で、魔石に流し込めますか?」
「やってみよう」
サーシャは目を瞑り、魔石にオドを流し込む。
すると魔石が仄かに輝きを見せた。
なんと美しい光だ……とサーシャが魔石に見入っていると、その光は大きく揺らぎを見せ始めた。
「お? おぉ? なんだこの揺らぎは」
「サーシャ様、落ち着いてください。高揚感が魔石に現れて魔力を一定に流し込めていません」
「そうなのか!?」
「落ち着いてください、深呼吸ですよ、深呼吸!」
サーシャは深呼吸をして自分を落ち着けると、少しだけ魔石の揺らぎが落ち着いてきた。
感情が揺れ動いている時に魔石を使うと、魔石の光までもが揺れ動いてしまうということに気付いてしまい、少し気まずい気持ちが出てしまう。
あまり感情的にならぬようにと、サーシャは気を引き締めた。
「まぁ、簡単に壊れる心配はなさそうでよかったです。やはり天然ものは違いますね」
「ヴァニーユ、この光は感情と連動しているのか……?」
「正確には今、感情の揺れと、魔石に魔力を流す量が連動してしまっている状態です。感情がどんなに荒れても魔力が一定ならば、光も一定の明るさを保てるはずです」
「感情と、魔力を流し込む量か……」
「魔石はサーシャ様のものなのですから、これから毎日ずっとこの魔石に魔力を送り込み続けてください」
さらっとそう口にしたヴァニーユに「あぁ」と返しかけたサーシャは、その言葉を直前で引っ込め、ヴァニーユの口から出てきた言葉を繰り返した。
「毎日ずっと、と今言ったか? 魔力を送り続けると?」
「はい、言いました」
「それは……ずっとということか?」
「朝から晩までずっとです。大丈夫です、サーシャ様の魔力量ならそう簡単に尽きることはないでしょう」
ここに来てサーシャは、ようやく気付いたことがある。
もしや彼女の特訓とは、さらっとしているように見えてスパルタなのではないか? と。




