20.杖を置こう
ヴァニーユがサーシャに教えていたのは、魔術のコントロール……それは魔術に込める量や濃度、強さ弱さも含めたものであった。
あまりにもオドの量も濃度も濃いサーシャは、最初はそこで躓き、何度も魔力を暴発させては髪を乱していたが、その後、あるものを持参してヴァニーユの元へとやってきたのだ。
その時のサーシャの顔は、少し不安気であった。
「ヴァニーユに見せたいものがある」
まるでイタズラを反省している時の犬を思わせるような表情に、何事かと思って彼女はその手の中を覗き込む。
「これは……魔石ですか?」
彼の両手の上にポツンと置かれていたもの、それは透明感のある青色の魔石。
この国で魔石とは、人々の生活と強く結びついている。
しかしそういった魔石よりもその石は透明度が高く、いわば宝石のようで、日の光を反射して青色に輝いていた。
「こういったものを使うのは、ズルになってしまうだろうか?」
サーシャは両手でその魔石を見せて、眉根を寄せてヴァニーユを見ていた。
怒られたりダメだと言われるかと思っているのかもしれない。
「……いえ、私には考えつきもしませんでした。確かに溢れたオドを魔石に流し込めば、調整は可能だと思います」
「ほ、本当か!? 師匠殿も許可してくれるであろうか!?」
「あ……雷属性魔術を教わる際には師匠がどう判断するかはわかりません。少なくとも索敵魔術では魔石の使用を許可します」
「おお!!! 感謝する、ヴァニーユ!!!」
彼は両手にその魔石を持ち上げ、嬉しそうに魔石を眺めていた。
全身で喜びを表現するサーシャに、ヴァニーユまでなぜだか少し笑いが込み上げる。
少し難しいかもしれないが、これで暴発することは減るかもしれない。
「ところで、普通の魔石ではサーシャ様程の魔力だと割れてしまうかと思いますが……その魔石は大丈夫そうですか?」
「あぁ!! これは……うむ、特別な魔石なのである!!」
「……あぁ、お高い魔石ですか」
魔石にも種類があり、魔力を込める時の量や圧に耐えられるものと、あまり耐えられないが量産可能なものがある。
きっとこの魔石は天然物で、多くは手に入らないものではないだろうか。
溢れるオドを魔石へ流し込みながら魔術を使うということも、ヴァニーユが教える必要がありそうだ。
その日の訓練から、サーシャは魔石も一緒に使いながら索敵魔術を使う訓練を始めた。
「ところでヴァニーユ」
「なんですか?」
「魔石を持ちながら杖を持つと……両手が塞がってしまうな?」
「そうですね。塞がっていますね」
両手に魔石と杖を持ったまま、彼はキョトンとしている。
実際にその姿を見てみると、両手が塞がるのは戦闘向きではないな? とヴァニーユも思っていた。
魔石を手に持つならば、杖の方を諦めてはどうか? とヴァニーユなら考えてしまう。
もしくは、首飾りなどにして魔石を手に持たなくていいように加工するなど。
そこまで考え、ヴァニーユはついその両手のものを両方なくしては? という考えに辿り着いてしまう。
なぜならヴァニーユにはそれが出来てしまうからだ。
杖を使わず、魔石もアクセサリーに加工してしまえば、両手が空くじゃないか、と。
「サーシャ様、その杖を使わずに置いてしまえばよいのではありませんか?」
「……杖を、置く……?」
「はい、邪魔だと思います」
サーシャは「信じられない」とでも言いたそうな眼差しをヴァニーユに向け、彼女の手に視線を移した。
確かに、彼女は杖を使わずに魔術を行使しているのである。
というか、彼女の杖を見たことがない。
雷造の魔術師も、杖を持っている所を見たことがない。
そう、この師弟が杖を使っている所を今まで見たことがないのである。
「それは……可能なのか?」
「可能ですね」
「わたしにも可能なのか……?」
「訓練でどうにかなりませんか?」
ヴァニーユがそう言った時、サーシャはまた眉間にぎゅっとしわを寄せて、哀し気なような、不安気なような顔をしていた。




