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幻術師ヴァニーユのアリア  作者: RIM


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18.幻術が極まった理由️

 ヴァニーユは、サーシャが学校で教わったこと、彼女がこれまで教えたこと、実践で使った時の感覚、今持っているそれら全てから彼なりの答えを導き出して欲しかったのだ。




 サーシャは腕を組み、その光を眺めながら頭を捻って考える。


 強くなったり、弱くなったりするその光を見ながら、彼は濃度の薄い人と濃い人との違いを考えていた。




 例えばそれは、一般的な生徒に出来なくて、ヴァニーユに出来るようなことだ。


 同じ魔術を使っても、一般的な生徒には出来ないこと――例えば、この陽属性魔術の場合ならば?




「光量の違いから見て……オドの濃度が濃いとは、魔力に変化を付けられるということだろうか?」




 強くなったり、弱くなったりする光。


 それは、光の濃度に変化を付けられるということだろうか? とサーシャは考えた。




「近いですね。正確には、コントロールの幅が広がることです」


「コントロールの幅か?」


「オドの濃度の薄い人は、どう足掻いても濃くは出来ない……つまり、強い魔術を使うことは出来ません」




 オドの濃度が薄い人は強い魔術を使うことが出来ない、言われてみれば確かにそうである。


 オドの濃度の薄い者は攻撃魔術向けではない。


 それはつまり、魔術自体が弱いということでもある。


 彼らはサポーターとして他の魔術の補助に回ることも出来るという話も聞いた事はあるので、魔力量や濃度が低くても彼ら自身が弱いとは限らないことも、サーシャは知っていた。




 ヴァニーユは陽属性魔術の光を消し、今度は別の詠唱をすると、再びサーシャに幻術を見せた。


 そこには水の玉と、赤色の粉のようなものが、宙に浮いている。


 もはや息をするように幻術を使うヴァニーユに、サーシャは少しづつ慣れてきていた。




「例えば、ここに塩水を作るとします。今回は見やすいように、この粉に赤色を付けますね」


「うむ」


「この塩水の塩分が多ければ、濃度に応じてしょっぱくなりますよね。光で言えば、眩しくなる状態です」




 そう話しながら、幻術で色の着いた粉を少し水の中に溶かしていくと、水は薄く赤色に染まった。




「塩の少ない塩水は、入っている分以上の塩は取れません。つまり、どうしても色は薄いままです」




 ヴァニーユはサーシャの目を見上げて「わかりますか?」と尋ねる。




「うむ、理解出来る」


「それでは続けますね。オドの濃い人は薄い人と比べて、コントロール出来る幅が広いんですよ。このように」




 ヴァニーユが塩水に粉を多めに入れると、それは濃い赤色に染まった。


 そして、一度濃く色付いた赤色の塩水から、今度は少しずつ赤色の粉を抜き取っていく。


 するとその塩水の色は薄まっていったのだ。




「実際の塩水ではこんなに簡単にはいきませんが、つまりオドの濃度によって塩を込める量を変えられるということです」


「……ということは、オドの濃い者は薄めて使うことも出来るということか?」


「そうです。濃度を制限することによって、弱い魔術も使えるということです」




 つまり、強い魔術をわざわざ弱く見せることが出来る……とヴァニーユは言いたいようだ。


 一体、何のために……?




「このような事が出来るようになると、魔力の濃度を制限することにより、こちらが弱い者だと相手を欺くことも出来ます」




 ヴァニーユは「ふふっ」と笑い、楽しそうにサーシャを見上げた。


 今こそ、サーシャの興味深そうな反応が欲しいヴァニーユは、その顔が驚きで満ちるのを待っていた。




 そしてサーシャは、じわじわとヴァニーユの言いたいことがわかってくる。


 彼女の性格が少しずつ見えてきたような気がしたが、これが喜ばしいことなのかどうなのか、少し考える余地があった。




「……ヴァニーユは普段から、そのように人を欺くような事ばかりを考えて暮らしているのか?」


「大体そうですね」




 サーシャは呆れと残念さを含んだ、なんとも言えない顔になっていた。


 それは幻術も極まるはずだと、サーシャは変に納得してしまったのだ。




 ヴァニーユはサーシャのその顔を見て、少し居心地の悪さを感じていた。


 思っていた反応とは全然違っていたのである。




「なんですか、その顔は。別に悪いことはしていませんよ」


「いや……そんなにも人が信用ならんのかと思っただけだ」


「あなたにそんなに残念そうな顔を向けられると、なんとも言えない気持ちになるのですが」




 サーシャだって大概残念な男であるし、興味が爆発するタイミングがよくわからない。


 魔術を見て大はしゃぎする大の男にそんなにも残念な目で見られるのは、なんだか悔しい。


 ヴァニーユは珍しく、人に対してムッとしていた。




 いつもすました顔をしている彼女のその無表情が、ここに来て崩れてきたことに、サーシャはキョトンとする。


 なんだか不意打ちで、少しだけ彼女が自分に心を開いてくれたような気持ちになったのだ。




「ははっ」


「な、なに笑っているんですか?」




 彼女は最初の印象とは違い、ちゃんと人と向き合える人ではないか。


 いくら強くて、英傑であり、数々の功績があろうとも、十四の少女なことに変わりはなかった。




「濃度は理解出来ましたか?」


「あぁ、感謝する」


「では日が落ちるまで、暴発しないように索敵魔術を練習してみてください」


「おう! たくさん練習をするぞ!!」




 サーシャはまた日が落ちるまで、ヴァニーユとの訓練を続けていった。

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