17.魔術の濃度
ヴァニーユは、オドの濃度を説明する為に一番わかりやすいものは何だろう? と考え、人差し指を宙に向ける。
彼女が最短詠唱をすると、指の先に白い光が灯った。
濃度を説明するには、この魔術が最適だと彼女は判断したのである。
そしてその陽属性魔術の光に、サーシャは目を輝かせて魔術に魅入っていた。
「これは陽属性魔術の光だろうか? 小さくとも眩しいな」
「一般的に知られる『オドの濃度が多い人』のイメージは、この陽属性魔術の具現化です。こちらは先程サーシャ様の使った雷属性魔術の雷光よりも安定感のある光ですよ」
サーシャの使った雷光の難しいところは、安定感のないところである。
一定の光ではなく、一時的な強い光を放ち、目潰しが出来るのだ。
一瞬眩い光を放って終わるというのは、先程の魔力の暴発にも近いところがあるように感じる。
濃度の低い人でも一時的になら雷光のような魔術を使えるという特徴はあるが、一瞬強く光らせれば魔力がごっそりと持っていかれるという弱点もあるので、人によっては注意が必要だ。
一方で、この陽属性魔術の具現化では、光を一定に保つことが出来る。
「光度を上げたければ魔力をより込めることで、雷光と同じように目潰しが出来るようになります」
「……これくらいの光度ならば低いということか?」
「はい。込めるオドの濃度を変えることにより、光度を変えることが出来ます」
そうしてヴァニーユが光度を下げると、本当に暗い光へと変わった。
初めて見る現象に、サーシャはその光に釘付けになる。
「これは……触っても大丈夫なものか?」
「少し温かみは感じると思います。雷光のように火傷はしませんよ」
サーシャはゆっくりと手を伸ばし、その光に触れる。
柔らかな温かさが心地よく、疲れた心を癒してくれるようだった。
「サーシャ様は、そんなに魔術に触りたいのですか?」
幻術の時も、今も、彼は実際に触れることで確認しようとしていた。
彼の癖なのか、それとも探究心故か。
ヴァニーユはあまり、そういう風に自分の魔術に関心を持つ人と接したことがなかったので、不思議に思ったのだ。
そもそもヴァニーユ自身が、人との関わりを避けていたせいでもある。
「魔術に触れたいのは、魔術の性質を正確に知りたいだけだ」
サーシャはそう言うが、全ての魔術がこのように安全なわけではない。
ヴァニーユの扱っている魔術が、たまたま安全なものが多いだけなのである。
「私の使うような魔術では構いませんが、他の属性魔術では気を付けてくださいね」
ライラックが魔術を見せた時だって、近付こうとするサーシャにヒヤヒヤしていたのだ。
彼は普段からこんなにも好奇心旺盛なのだろうか?
心臓に悪いことはしないでほしい。
「大丈夫だ、気を付ける」
その返事も、ヴァニーユは信じられずにいた。
この人はいつか己の雷属性魔術で火傷を負いそうな気がする。
結界術を使うタイミングなどもある程度教えて、彼自身の身の守り方も覚えてもらった方がいいかもしれない。
「ところでヴァニーユ、基本属性魔術でもオドの濃度は影響があるのか?」
「ありますよ」
基本属性魔術というのは、土、水、雷、火、風の五つの属性魔術のことである。
対して二大属性魔術と呼ばれる陽、又は陰属性魔術は、この五つの基本属性魔術との結び付きの役割があり、サーシャも陽属性魔術から雷属性魔術を結び付けていることだろう。
ヴァニーユは片手にある陽属性魔術を、強めたり弱めたりしながら話す。
「同じ魔術でも、濃度によって威力が強かったり、弱かったりと、人により差が出ます」
「ふむ」
「でも、濃度の濃い人と薄い人には、決定的に違う所があります。なんだと思いますか?」
ヴァニーユはそうサーシャに問いかけ、彼にまずは考えさせた。




