16.魔力の暴発
「では改めまして、索敵魔術を実践していただきたい――ところなのですが、その前に」
ヴァニーユはサーシャに向き直って、まずは前提を確認した。
「索敵魔術をお教えする為には、まず『オドの濃度』と『コントロール』を学ぶ必要があります。サーシャ様はこのコントロールを学ぶ為に、索敵魔術を身に付けるということを忘れないでください」
「うむ。わかった」
サーシャは真剣な眼差しで頷いた。
それから彼女は、サーシャに索敵魔術の発動の流れを教え、一度実践してもらうことにした。
範囲は半径五メートル、念の為ライラックたちから少し離れた場所で、サーシャにヴァニーユを感知してもらう。
「では、始めてください」
「おう!」
サーシャは目を瞑ると、杖の先に神経を集中させる。
しかし実践しようとした時、サーシャには少し迷いが出た。
そこで一度ヴァニーユを見上げて彼は聞く。
「索敵魔術とはどこへ杖の先を向ければいいのだ?」
「なくてもいけますが……そうですね。向けるなら、より確実性の高い方向へ向けてください。今ならば私の方に向けましょう」
「わかった」
再度意識を集中させ、魔法陣と魔術式をイメージし、そして詠唱を唱える。
――その瞬間、サーシャの杖の先が光り、ドゥン!! という大きな音と共に視界が白くなった。
それには彼も身に覚えがあった。
「……魔力の暴発ですね」
「……すまない、ヴァニーユ」
オドを込めすぎた時に起こる、魔力の暴発である。
半径三メートル以内で巻き上げる煙を吸い込みケホケホと咳き込むサーシャとは対照的に、ヴァニーユの声は変わらずにいた。
煙が散ってからヴァニーユを見ると、どうやら結界で防いでいたようだった。
「想定内なので、私の方は大丈夫です。ただ……本当にオドが濃いですね。こんなに視界が白くなるとは……」
「魔力の濃さがわかるのか?」
「暴発時の煙と圧でわかります。これをコントロールするのは少し厄介ですね」
どこから説明するべきだろうか? とヴァニーユは悩み、まずは今のサーシャの状況から説明することにした。
「今のサーシャ様は、小さな穴に強い力で魔力を無理やり押し込もうとして、穴に入れられなかったものが暴発して辺り一帯にオドを撒き散らしているようなものです」
「オドを撒き散らす……」
「もっと絞り込む必要があるということですね」
濃度が濃いからこそ、本来少ないオドで事足りる魔術でも難しくなってしまう。
必要以上の力が簡単にかかってしまう。
師匠が言いたかったのはこういうことだったのだと、ヴァニーユは改めて確認した。
「結界術や索敵魔術を含む空間干渉魔術では、基本的にオドで空間のマナを借入れて使います。すると、本来必要なオドの量は少なく、広範囲の魔術が使えるようになります」
空間干渉魔術だけでなく、属性魔術の範囲攻撃も、これに当たる。
サーシャが先程使っていた雷撃も、マナを借り入れて遠距離から落としたものだ。
「索敵魔術の広範囲での使用では、広ければ広いほど、たくさんの魔力を消耗しますし、濃度が濃いほど遠距離まで探知できるのです」
そう考えると、コントロールさえ身に付けられれば、サーシャは遠方の敵を探知することも可能になる。
人口密度の高い場所では人が多すぎてあまり使えないが、山や森などでの救助活動や竜の探知などでは役に立ちそうだ。
「それは……遠方の敵も見えるようになるということか……!?」
どこでスイッチが入ったのかわからないサーシャの目が、らんらんと輝く。
ヴァニーユは期待の眼差しで見つめられ、思わず喉の奥から「んぐっ」と変な声が出た。
これは……何か興味を惹かれることがあった時の反応である。
ヴァニーユはサーシャのことがだんだん分かってきていた。
サーシャは開いていた五メートルの距離をどしどしと埋めて近付き、ヴァニーユを見下ろす。
サーシャへの警戒心すら消えたものの、まだ大柄な男から見下ろされるということに慣れていないヴァニーユは、思わず視線を泳がせてしまっていた。
サーシャは時々グイグイとくることがあるので、人の視線から逃げてきたヴァニーユとしては心穏やかで居られないのだが、そんなことサーシャにとっては気にすることもないのだろう。
なんとも無邪気で圧の強い男である。
「実は、オドの量はともかく、濃度というのがいまいちよくわからない。攻撃向きではないと聞いたことはあるが教えてはくれぬだろうか?」
「……あぁ、濃度の話ですか」
サーシャが反応したのは、まだ良く理解出来ていないオドの濃度の話だったようだ。
それくらいならまぁ良かろうと思い、ヴァニーユはオドの濃度の説明をする為に、陽属性魔術の最短詠唱をした。




