14.師弟の信頼
サーシャは先程の模擬戦の中で気になったことをヴァニーユにいくつか聞こうと思い、隣に座る彼女を見下ろした。
とても先程まで戦闘していた相手だとは思えないほど、その小柄な少女は澄んだ雰囲気を保っていた。
「ヴァニーユ、先程のことを聞いても良いだろうか?」
「はい、もちろん」
ヴァニーユにそう確認したサーシャは、雷撃を落とした木の方を向き、その木を指さして言う。
「どのようにして、あの時の雷撃をかわしたのだ?」
彼女が木の下にいたことは間違いなかった。
その目でしっかりと確認してから、雷撃を撃ったはずである。
その後、雷撃の光と共に彼女を見失い、ヴァニーユがどこへ行き、どこから攻撃をしてきたのか。
サーシャはそれが欠片もわからなかったのだ。
ヴァニーユはその視線を木の方へと向け、指でその時の動きを辿りながら説明する。
「あの時ですね。私は、木と自分の間に暴風を起こし、自分を飛ばしました」
サーシャは一瞬何を言われたかわからず考えた後、体ごとヴァニーユの方を向くと、驚きを隠せない表情でその言葉を繰り返した。
「自分を飛ばしただと!?」
そのサーシャの勢いに、ヴァニーユは心臓がヒュッと縮まり、少し体を仰け反らせた。
そこまで驚くようなことだっただろうか? と、ヴァニーユは内心思うが、彼にとっては想定外のことだったようだ。
「……その後、飛んだ先の別の木の影に隠れていました。結界を張っていたので大丈夫でしたよ?」
「肝の座り方が桁違いなのだな……。いや、撃ったのは俺だが……」
それは半分自分に向けて攻撃魔術を撃ったようなものではないか。
サーシャはヴァニーユに本当に怪我がなかったか心配になるが、対戦前と特に目立った変化は見られなかった。
「そのような回避の仕方もあったのか……。心臓に悪いな」
「雷撃を打たれるのは慣れっ子でしたので」
「ということは、雷造の魔術師殿からそう鍛えられたというわけか」
「そうですね」
彼女には本当に敵わないな。
どこまで自分を驚かせてくるのか、底が知れない。
本当は、サーシャは雷撃を撃つことに少し抵抗心があったのだ。
もしそれで怪我をさせてしまったりなどしたらと。
しかし、事前にライラックが話した言葉をサーシャは信じて、自分の今の全力を出し切るつもりで挑んだのだ。
『ヴァニーユの危機回避能力はこの国の中でもずば抜けている。手加減は無用です』
その師弟の信頼さえ、サーシャには羨ましく感じた。
その後、二人は一旦ライラックの元へと戻ることにした。
サーシャはヴァニーユにまだまだ聞きたいことがたくさんあったが、戦闘を終えた報告を先にしておこうということになった。
「師匠、戻りました」
「おかえりヴァニーユ、サーシャ様。良い雷撃の音が聞こえてきましたな」
「はい、懐かしかったです」
なんでもないようにそう答えるヴァニーユに、サーシャは「懐かしむほど前に受けたことがあるのか」と慄いていた。
そんなに幼い頃から雷撃をくらっていたら、自分など雷恐怖症にでもなってしまいそうであると思い、彼の肝はひやりとしていた。
サーシャの護衛もあの雷撃には驚いていたようで、ヴァニーユとサーシャを上から下までじろじろと観察し、怪我などないか確認していた。
サーシャが少しだけ砂まみれになっている他、特に異常はなさそうだ。
「転ばれたのですか?サーシャ様」
「少し吹き飛ばされてな! ははっ!!」
「お怪我はされていないようでなによりです」
とはいえ、殴られるような突風を食らったのだ、それなりに腹は痛かった。
サーシャの腹筋が頑丈であった為に無事であったが、同じ威力を普通の男が食らっていたら腹の中身を吐き出していたかもしれない。
ヴァニーユはサーシャに向き直ると、彼を見上げてこの後の予定を告げた。
「サーシャ様の強み弱みは、少し理解してきました。次に索敵魔術を教えようと思います」
「おぉ!!! ついに索敵魔術か!!!」
サーシャは新しい玩具でも手に入れる子供のように目を輝かせ、ヴァニーユににじり寄ってきた。
ヴァニーユもそれに応じて後ろに下がっていく。
「索敵魔術にも、興味がおありで……?」
「以前のかくれんぼでは、全くヴァニーユの居場所がわからなかったからな!! 今日も幻術なしでも背後にいると錯覚させられて悔しかったところだ!!!」
「……そうですか、はやく習得出来るといいですね。ところでサーシャ様」
「なんであろう!」
「少し落ち着いてください、どんどん師匠達の元から遠ざかっています」
サーシャは前のめりの姿勢でキョトンとした瞳をヴァニーユに向けてから、後ろを振り返った。
すると、なぜだか微笑ましそうに笑っている二人と目が合い、ヴァニーユは気まずい気持ちで背を向け、呼吸を一旦整えることにした。
魔術の話をする時のサーシャは、心臓に悪い。




