66青年の素質とおまかせを
あの日、猪との鬼ごっこを終えた僕が次に目覚めたのは翌日の朝だった。今思えば、あれは鬼ごっこなのかと突っ込みたくもなる内容ではあったが、師がオーケーだと云うのなら何も云うまい。これまでの特訓は、何かしらの意味があるのか。その本質を未だに教えてくれない彼は今、僕の目の前で胡座をかいている。朝のせいか彼の瞳は半分だけ夢の世界のようで、半開きの瞳を揺らしながら大きな欠伸をしていた。まぁ気持ちはわかる。僕も朝は苦手な方だし、出来るならば一分でも長く布団に入っていたい。だが、それとこれとでは別だ。いい加減気になってきた僕は、カイデンに訊いてみる事にした。
「カイデンさん、一つ良いですか。」
首だけをこちらに向け、半開きの目で「なんや?」と答えた。
「ここまでの特訓というか、修行ですか?これで僕は強くなれるんですか?」
「まぁーーーーーーーーーーーー、それは、イサムはん次第だわな。」
彼は空を仰ぐようにぐーっと顎を上に上げながら、そう答えた。なんとも歯痒い回答である。
「いやだって、今までやった猿とのお手玉や・・・。」
「エンキやな。」
「虎とのけんけんぱとか!」
「ココやね。」
「あと、蛇と缶蹴りしたり、猪と鬼ごっことかやったじゃないですか。」
「ジジとイノな、あんな!人のペットの名前くらい、流石にもう覚えとき‼︎」
そこで漸く彼は水でもぶっかけられたかのように形相を変え、怒声を僕に浴びせてきた。どうやら彼らペットたちの事を名前で呼ばなかった事が、余程気に入らなかったらしい。だがこれまでの事、何の為に行われた事なのかくらい教えてくれても良いんじゃないだろうか。
「はい・・・、いや、えっと・・・、そうじゃなくて・・・!ここまで特訓は何をする為の奴なんですか?」
「そないなもん、決まっとるやんけ。自分が強くなる為のやーつやんか。自分でゆーとらんかったか?『ハートとパワー、両方強くなりたいです~。欲張りなんで~。』ってゆーたやんけ!」
なんだその変なモノマネは。もしかして僕か?僕のモノマネをしているのか?ヘロヘロと波を打つような弱々しい声で嘆いているのは、僕の真似か?誇張モノマネにも程があるぞ、おい。
「いや、まぁそうは云いましたけど・・・。ほら、やっぱり気になるじゃないですか。どこを鍛える為にやってるのかを教えて貰った方が実感が湧くというか。」
「おう、どれも基礎的な奴やで。エンキのは集中力。ココは機転力、ジジは判断力に、イノは逆境やな。自分がどれ程の器かを試したかったんや。正直云うとな、別にルールなんてあらへんかったやわ。イサムはんがどんな方法で与えられたもんを突破するのか見る為やねん。まぁ、それでも基礎体力もついでに付いてきたやろ?」
「た、確かに・・・。」
彼は漸くにして、これまでの特訓がどんな意味合いがあるのか話してくれた。云われてみれば、何となく頷けるところはある。エンキはお手玉をしながら、妨害を掻い潜る集中力。ココはけんけんぱという目の前にある固定概念を貫く機転、ジジはコンビとの連携と敵の力を分析する判断力。イノに至っては、圧倒的に不利な状況や逆境をどう潜り抜けるかという事を見られていたのか。それに彼の云う通り、以前よりも基礎体力は付いてきた気がする。前よりも身体が軽い気がするし、二の腕も太くなったような。屈伸させる時もバネのような反発力を感じるし、ちょっとだけ足も速くなった気がする。
「そうね、確かにイサム。ここに来る前より、少し筋肉付いてきたもんね。」
そう云いながら、傍らで僕の腕を揉み始めるセン。心無しかこの時のセンは、何故か少し息が荒い。彼女の目つきは宛ら、採れたての大根を手に取った瞬間のようだった。あー、薄々勘付いていたけど、もしかしてアレか。ひょっとしなくても彼女は、筋肉フェチという奴か。いつもよりほんの僅かに、鼻の下を伸ばしてるし・・・。まぁ、一旦センの事は置いて本題に戻ろう。カイデン曰く今まで行ってきた特訓は、しっかり結果が付いて来ているようだ。基礎体力が付いてくれば、あとは何かしらの能力を開眼できれば、少しでも前線で皆の戦いに参加する事が出来る筈だ。僕はその為にここに来て、この馬鹿げた特訓を小人とやっているのだ。妖力、魔力、はたまた気の使い。どれが自分に合っているかは、人それぞれのポテンシャルに左右されるのだろう。僕はどれに当てはまるのだろうか。そんな淡い期待を胸に抱かせながら、僕はカイデンに訊く事にした。
「それじゃあ、ここで特訓を続けていけば!いずれ僕も魔法とか妖術みたいなものも扱えるように!」
「あー・・・、普通の人間やったらそうなるかも知れへんな・・・。」
だが彼の口から溢れたのは、そんな淡い期待を見事に打ち破るような一言だった。まだまだ薄いガラスの壁に、小さな亀裂が入る。彼の目は、いつものような冗談を交わすようなものではなかった。寧ろ今までよりもずっと真剣で、彼はその一言に浅い溜め息を吐いた。そんな局面に対峙する僕はと云えば。ただただ、恐る恐る震えてしまった唇で踏み込むしか無かった。きっと、それはいつか知らなくてはならなかった一つの真実に。
「それって・・・、どういう事ですか?」
「ほな、云わしてもらうで。自分にはな、・・・・・・“マナ”なんて無いんや。」
「え・・・?」
「イサムにマナが・・・、無い・・・?」
一同、時が止まったかのように息を呑む事を数秒忘れてしまった。センですら驚いている・・・、いや食い違いか。彼女はどちらかと云えば、ずっと違和感を覚えていたような。ずっと気のせいかも知れないと思っていた事に点と点が線で結ばれたような、とある結論に至ったようにも見える。カイデンは胡座を掻いていた足を解し、頬杖を突きながら残った左手で僕へと指を差した。僕の顔、というよりはもう少し下の、心臓あたりを、心を射抜くように。その動作に、すっかり重くなった言葉が添えられた。
「せや、もっと云うたら妖気や魔素は勿論やけど、本来人間としてあるべき“気”すら無いんや。」
「僕に・・・?人間にあるべき、“気”も無いって・・・、それは・・・、一体どういう事ですか⁉︎」
それは衝撃の一言だった。僕に、人間の“気”が無いだって・・・?あまりに突拍子も無いその真実に対し、理解が追い付かなかった。ちょっと待て、そんなの可笑しいだろ!そもそも“気”って一般的に考えると目に見えない生命エネルギーみたいなもんだろ?僕にその“気”が無いって事か。じゃあ、僕の身体は・・・、今こうやって息をしているこれは一体何なんだ・・・。僕はカイデンの距離を詰めて寄った。
「知るかいな。ワイかて、イサムはんみたいなタイプは初めてなんや。ただ、自分も過去に思い当たる節とかあるんちゃうか?そう、例えばやけど・・・。妖怪や悪魔は人間の気や臭いに敏感や。本来は人間を見るよりも前に、ある程度離れたところからでも気配で察知する事が出来る。だが、自分の場合はどうや?今まで出会ってきた妖怪や悪魔は漏れなく、自分の姿を見て初めて、イサムはんが人間だと判断していたんちゃうか?」
「確かに私も初めて会った時、イサムが人間かどうか分からなかった。人間特有の気配も無かったし。あの日、遠くで察知した時は確かに四人の妖怪たちの気配はあったけど、イサムのは目視するまで気が付かなかった。元々私も察知能力が得意では無いから、ただの勘違いかとは思っていたけれど・・・。」
この話は・・・、これは受け止めなければならない話なのか・・・。けれど、確かに彼らの話に矛盾は無い。今まで出会ってきたどの妖怪もどの悪魔も、僕を直視してから初めて僕を人間だと認識していた。それは便箋小町で出会ったあの飛川コマチも、記憶違いでなければ例外では無かった。決定付けられてしまったのは、直近で出会ったばかりのセンの発言だった。彼女曰く、僕の気配を察知していなかった。つまりはセンの察知能力が低かった訳でも、僕の能力が低かった訳ではなく・・・。純粋に・・・、僕自身にマナや“気”が無かったから・・・。そんな事があり得るのか、僕は普通の人間じゃ・・・。
「んで、これが極め付けや。自分が攻撃した時、明らかに他の連中よりも攻撃もへなちょこでスピードも鈍臭い。せやのに何でか当たってまう・・・、なんて事あらへんかったか?」
「確かに・・・、云われてみれば・・・・・・。」
カイデンの察し通り、これまでの経験を辿ると確かにそうだ・・・。まず大前提に、僕はお世辞にも運動が得意な訳でも学生時代スポーツに励んだ訳でも無い。寧ろ、中の下かそこら。足も決して取分け速い訳でも無いし、体力テストは中段域に留まっている凡人に等しい。そんな戦闘初心者がトリビュートとの戦いの時も、河童騒動での時も、ビスクドールと戦った時だって・・・。直近では巨大蜘蛛と戦った時だって、僕の攻撃は何故か当たっていた。今思えば、攻撃を外すのが珍しいくらい当たっている。いや、でも“気”が無い事がどうして攻撃に当たるか当たらないかの話に繋がるんだ?ますます、分からない・・・。そう一点を見つめるように深く考えていると、カイデンは手を差し伸べる。
「それはな、自分に“気”が無いからや。どう云う意味か分かるか?」
“気”が無い、攻撃をする時に生まれる気持ち・・・、何とかしたい、倒したいという気持ち・・・。あ、そうか。それが無いから・・・?いやでも、僕の攻撃が当たる理由は・・・、もうこれしか考えられない。
「“気”が、無い・・・。つ、つまり、僕には“殺気”すらも無い・・・と云う事ですか?」
パチンっ
彼は、ご明答!とでも云わんばかりの眩い表情にウインクを添えながら、弾み良く指を鳴らす。
「それやっ‼︎だからイサムはんの攻撃は、何でか通るんやなぁ。」
そう云うと自分を云い聞かせるように何度も深く頷き、改めて噛み締めていた。
「けど、ほら・・・。こうやってカイデンさんと鍛錬すれば、その、なんて云うんですか?その少ない気でも、ちょっとはマシに大きくなって強くなれるんですよね?」
「ドアホ・・・。ゼロに何掛けても、ゼロやろがい。そう、自分にはマナの根源となる“気”と云う物自体がゼロなんや。だから、いくら自分が鍛錬しとっても妖術や魔術も気術だって使えへん。殺気も何もかもな。」
その路線の淡い期待は、悉く木っ端微塵に破壊されていく。気が付けば、僕は握り締めていた拳に力が入らなくなってしまった。空が落ちてきた気分だ。そんな真実を目の当たりにして、この特訓に意味はあったんだろうか・・・。これで僕も前線で協力出来ると思ったのに。すると傍らに居たセンも、カイデンに滲み寄った。
「じゃあ、イサムは強くなる事は出来ないの・・・?」
「嬢ちゃんも案外せっかちやんなぁ。そらぁ確かに、マナも気が無いのは致命的や。一番の近道を初めから失ってもうてるから、いきなりベリーハードモードっちゅう訳やし。」
「じゃあ・・・、どうすれば・・・?」
僕は路頭に迷った。広がっていた筈の道が蓋を開ければ、予想外の真実。次々に道は閉ざされていく。自然と僕の視線は、下へ下へと徐々に降下してしまっていた。本来は、強くなる為にここに来た。僕が対峙しなければならないのは、普通の人間ではない。妖怪、悪魔などそれらの異能力を持ち合わせた者たちだ。対抗するには基礎能力だけではどうにもならない。もっと別の力を、新しい力をと思っていた。しかし、目指していた終点には道など無かったのだ。この状況下で路頭に迷うのも無理はない・・・。そんな僕に対し、彼は全く別の事を考えていたようだった。まるでコンクリートに咲く知名度の低い花を優しく包むように。柔らかな日差しを当てるように、彼は僕に顔を上げるよう促してきた。
「自分、ワイがさっき云うた事・・・、もう忘れてしもたんか?」
「え・・・?」
カイデンがさっき云った事・・・、あれ、なんだっけ・・・。突然の真実を叩き付けられて、パッと思い浮かばない。まだこんな僕にも兆しがあるのか?人間に本来あるべき、強さの可能性でもある“気”が無い僕に・・・。
・・・・・・いや、そうだ・・・、彼はこうも云っていた。それが僕にとって唯一の強くなる為の可能性。たった一つの兆し・・・。寧ろ、これこそが最も重要なのかも知れない。そう気付かされた時、僕は顔を上げ彼と目が合った。ドクンと心臓が強く鼓動する。確信へと変わる一打。僕は掠れ混じりの声で、自分の喉を震わせた。
「あ・・・、妖怪や悪魔は、人間の気に敏感・・・。」
「そこや、イサムはん!自分には既に二つの武器がある。人間特有の“気”が無い事と“殺気”が出ない事や!これはな、相手からしたら非常に厄介なもんなやで?それが手練れであればある程、効果的なんや。どうしてもワイら妖怪然り悪魔も、相手のマナ総体量や気の大きさを計り、探りながら戦っているんや。けど、自分にはそれが無い。つまりどう云う事かっちゅうと・・・。」
「相手にとっては、僕は透明人間のような物・・・。」
「そう云うこっちゃ!」
そう云うと彼は、ニッと白い歯を見せながら花のように笑った。そうか、僕には本来あるべきものが無い。一見それは短所に見えてしまうかも知れない。だがそれと同時に、相手にとっては違和感の塊で不気味に見えてしまう。傍らに居たセンは眉を歪ませながら、顎下に手を当てていた。何か思い止まるような物が喉に突っかかっているようだった。
「あれ・・・?けどカイデンさん。私、彼に攻撃する事も出来たし、目で追う事も出来たけれど・・・。」
そういえば、そうだ。いくら気や殺気が無かったとしても、現に彼女は僕に不意打ちを打つ事が出来た。それだけではない、初めての悪魔と対峙した時、トリビュートにも鷲掴みにされた事もある。彼が云うように、僕に気が無いのなら僕を捉える事は容易では無い筈。だが、カイデンは彼女の質問に対し首を振る。おまけにわざとらしく人差し指を立てた状態で横に数回振りながら、舌をリズミカルに打った。
「そらそうや。既に物体として認識しておるもん、石ころ見つめるんと変わらんて。」
「石ころって・・・。」
人を石ころ呼ばわりするのは、どうなのだろうか。いやでも相手にとっては僕に“気”が無いのだから、その辺の石ころのように無機物を見つめるようなものか。
「つまり今までの自分は、へなちょこクソ雑魚ナメクジみたいにおっそい動きばっかしとる。せやから、相手は既にそれを人間という物体として認識している訳や。ところが、もし・・・。」
おい、ところでそのへなちょこクソ雑魚ナメクジとは僕の事か?そうなのか?おい。それならまだ石ころの方が遥かにマシだぞ。僕が言葉を大にして反論する前に、今すぐそれを訂正しろ!なんて思いは喉奥にしまい込んで、じっと僕は彼の目を見つめていた。それよりも、重要な物が目に飛び込んできたからだ。彼は右手に握り締めていたのは、白い碁石だ。どこから持ち出したのかはよく分からないが、ここは気術か何かだと思おう。すると彼と目が合うと、僕の視線を避けるように左へと逸らし始めた。なんだ・・・、一体何がしたいんだ・・・?
「こうしたら、どうや?」
「き・・・、消えた・・・?」
すると、さっきまで彼の手にあった筈の真っ白な碁石が無くなっていた。彼は、何をしたんだ?ほんの一瞬の出来事の筈だ。彼の視線を追い掛け、呼びかけた言葉に振り向いた次の瞬間、碁石は彼の手元から消えている。
コンッ
「あいたッ⁉︎」
頭上に小さな衝撃が走る。まるで子供にグーで小突かれたような痛みが、思わぬところからぶつけられる。なんだこれ、手品でも見せられている気分だ。僕のすぐ傍らには、先程までカイデンが握り締めていた碁石が落ちている。いつ・・・、投げた?いや、本当に投げ入れたかすら疑ってしまう程に、この現象に気付かなかった。恐らくはさっき、わざとらしくも見せた視線誘導が肝だろうか。それにより、彼が投げる素振りを完全に見失った。この現象は手品なんかで見る、意識を誘導させる技術“ミスディレクション”だったか・・・。確か、そんなような名前だ。
「何するんですか、いきなり!」
「どや?今んで分かったか?」
と僕はそんな事よりも彼の仕向けた悪戯に近い攻撃に、少しムッとなってしまった。対するカイデンは出来上がった実験結果に、僕の感想を待っているようだった。この現象に何の意味があるのか・・・、いや待てよ。僕ら人間と違って、妖怪や悪魔はマナや殺気を基に戦うって云っていたよな。殺気の軌道を探り、潜り寄せ、攻撃・防御・回避を選択される。だが、その殺気が無ければどうだ?それは見えない攻撃となり、僕の攻撃は通るようになる。今までは、その事に意識を向けていなかった。もしこの攻撃を自分の技として持つ事が出来れば・・・、充分に妖怪たちと戦う事が出来るのではないだろうか。傍らに居たセンもその事に気付いたようで、ピンと微弱な電流が走り渡るように目を見開かせていた。
「あ・・・、目の前で実質消える事が出来れば、攻撃が通る・・・。」
導き出されたセンの解答に、カイデンはパチンっと弾みを効かせた指を鳴らす。
「そう云うこっちゃ。何の変哲も無い石っころがもんのすっごいスピードで突然移動したら・・・。一瞬とはいえ、その物体の認識を阻害する事が出来る。つまり、自分に必要なもんは意外性を持った瞬発力や!だが・・・、勿論それは単発では通用せんし、乱発も相手が慣れてしまっては逆効果や。その為に、視線誘導とかで無理くり相手の隙を作らせる・・・、それこそが、イサムはんの武器やで。」
「成程・・・、それを使いこなせるようになれば、僕も戦えるように・・・。」
そうか、これで合点がいった。だから、あんなわざとらしいデモンストレーションを。
「うぬ。ほれ、ドラ⚪︎もんにも“石⚪︎ろ帽子”っちゅう秘密道具があったやろ?あれは透明になっとるんやなく、石ころ同然のように認識自体を阻害させている代物や。自分のその生まれ持ったその力は、要はそれに近い存在や!
以上の事を踏まえてこの技を名付けるなら、石ころアタックやな!」
「そのネーミングは却下で。もうちょっとマシな技名にしてください。」
彼のネーミングセンスに驚愕した僕は、逆に感情が振り切ってしまい冷淡な返答で返す自分が居た。
「なんでやー!ええやろがい、石ころアタック!クソ雑魚村人Aにピッタリな技やないかい!」
「技名は後で、そのクソ雑魚村人Aがじっくり考えますから!っていうか何ですか、そのモブキャラみたいな云い方は⁉︎とりあえず、鍛錬は教えてもらって良いですかー⁉︎」
何だか自分で自分を貶すのが、不思議と悲しくなってきたせいで余計に怒りのボルテージが向上した。絶対この人よりマシな技名にしよう。どうせ、長く使うんだ。きっとこの人に技名まで任せてしまったら、とんでも無い事になる。
「・・・つー訳や。とりあえず、こっからは今のを踏まえた上で・・・。」
「どういう訳ですか、一体・・・、って、え・・・?」
一呼吸分の溜め息を終えた僕が目にしたものは、それまでの光景と全く異なるものだった。先程まで小人サイズだった筈の彼は、僕と同じくらいの背丈まで大きくなっていた。そっとこちらを睨みながら、ゆっくりと構え始める。短く震わせた唇は、武者部類の類いだろうか。
「実戦方式で・・・、組み手と行こか・・・?」
その時の彼の目はガラスのように尖っており、蒼く澄んだ泉に一雫の波紋が浮かび上がるような・・・。まるで心臓の管を今にも握り締めようかとする決意の現れの一つと捉えようか。彼はそんな目で、じっと僕を見ていた。




