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83/203

82めがねと小説とツインテールと。

 モニター画面に映る文字。


『ネット小説第〇回大賞 一次選考通過作品』


 祈る。


「どうか通過してますようにどうか通過してますようにどうか通過してますように

どうか通過してますようにどうか通過してますようにどうか通過してますように

どうか通過してますようにどうか通過してますようにどうか通過してますように

どうか通過してますようにどうか通過してますようにどうか通過してますように」


 そう。

この日は凛が応募していた小説の一次選考が発表される日である。


 目を閉じて、両手を合わせ、何度も願いを口にする。


 一次選考を通過した作品のリスト。

応募されたその数は9000を超えている。

応募数に対して、通過した数は900と少し。

一次を抜けられる確率は10分の1である。


『この日のために10万文字書き上げた……!

この日のためにイーちゃんに感想をもってブラッシュアップした……!

この日のためにみーちゃんにアドバイスを受けて、誤字脱字直した……!!』



 これまでの努力を振り返る。

睡眠時間を削って執筆にあてた。

思いついたネタをつねにスマホにメモしていた。

10万という文字数をかき上げた。

何度も読み返して、おかしなところがないか、整合性を確認した。

イヴと美里に読んでもらって、さらに作品を磨き上げた。


 深呼吸して、マウスを握る。


「落ちてたら……」


 よぎる不安。


 すぐに切り替えて次の作品を書けばいいとは思う。

でも、きっとショックでしばらく引きずる予感しかしない。


 少しずつ、カーソルを下へ下へと下げていく。

文字を検索すれば一発で自分の作品があるかどうかは分かる。

しかし、それをすれば一撃で合否判定が分かってしまう。


(焦るな……焦るな凛ちゃん! この日のために頑張ってきたでしょう!!!)


 その気合の入れようは、凛に勝負下着をつけさせるほどである。

大した意味はないけれど、願掛け。受かるための凛なりの願掛け。


 

 ゆっくりと――……


 ゆっくりと――……


 リストを眺めていく。


 凛のペンネームは『後園あとぞのりん』である。

本名の前園を少しいじった名前だ。

リストの中にある作品の群れには作者名も記載されている。


 並んでいる作品たち。異世界もの、ざまぁ系、悪役令嬢系。

凛が執筆したものも異世界転生系だが、百合をメインにした恋愛ストーリーである。


 王道を踏襲したつもりである。

踏襲しつつ、美里に言われたアドバイス『自分の性癖』を存分にちりばめた作品である。


 まだ一次。されど一次。



 カリ……カリ……



 マウスホイールをいじる。


(頼む……! 頼む……!!!)



 リストの全てを目にする。

何度もリストを目にする。

何度も、何度も。


「……」


 マウスホイールが止まる。


「……」


 思わずほろり涙が落ちる。


「……」


 立ち上がって、ティッシュで鼻を噛む。

 涙をぬぐってもう一度リストを見る。


「……」


 スマホを取り出して、イヴと美里にラインを打つ。


『ご報告がございます』

『この度一次選考の結果が発表されました』



 ぐすん。



◇ ◇ ◇



 イヴは昼にうちに来いと凛にラインを送っていた。

時刻はまだ朝。しかし、六道家にはイヴと美里がすでに顔を合わせている。


「イヴ、おらもなんが手伝うが?」


「いいよ。じーちゃんは引っ込んでて」


「んだが。じゃ、じーちゃん酒さ飲んでていいが?」


「いいけど、あんまり騒ぐなよ」


「わがっだわがっだ」


「ぁぁ、こ、こんあカンジで……ぃぃヵな?」


 椅子に乗っていた美里が問う。

見上げたイヴはうんと頷くと腕組をして微笑んでいる。


「そんだ、イヴおめば書道道具さもっでっが?」


「たぶん倉庫にあるよ」


「んだら、じさまが一筆かいでやっがらよ」


「じーちゃん出来んの?」


「まがせろ」


 倉庫から書道道具一式をもってくると、酒をやりながら祖父は筆をとる。

若干ぷるぷると震えている手ではあるが、達筆ではある。


「おー、いいじゃんいいじゃん」


「ぉ、御爺様……お上手……です、ね」


「んだろう? 巌谷先生に教えでもらっだがんよ。うめぇだろ」


 そこに書かれている字は祝福の言葉である。

書きあがったその書も壁へと飾り付ける。

いつの間にか、リビングには祝福のムードが漂っている。


 そこから2時間ほど経過して、本日の主役が六道家のインターホンを鳴らした。


 インターホンの画面に映る少女を確認する。

いつもはコンタクトの姿は、今日は眼鏡をしている。

いつもは長いサラサラストレートヘアが、ツインテールに結われている。

いつものにゃんこパーカーが、少女を包み込んでいる。


(あれ……でてこねぇ……留守か?)


 インターホンを鳴らしたのに反応がない。

来いと言われたから来たというのに、中からは反応がない。


 ガチャリ……。


「お待ちしでおりました。前園様」


「え、あ、だ、誰?」


 現れたのはタキシード姿の腰の曲がった老人である。

ツルッツルの磨きあがったハゲ頭。何故かサングラスをかけた目元。

老人は扉を開けると頭をさげて凛を出迎えている。


「中でイヴど美香さんがおまつしております」


(み、みか……? 美里さんのことか……?

そういえば、イヴんちにお爺ちゃんきてるんだっけか……)


 恐る恐る玄関へと入る。

昼間だというのに、何故か薄暗い室内。

雨戸が全て閉められているせいか、外の光が一切ない。


(なんだ……なにが始まるんだ?)


 タキシード姿が凛を誘導する。

エスコートされるままにリビングへと入るが、そこにも一切の光がない。

暗黒が、その場を支配している。


「ぇ、何、イーちゃんたちは?」


「ゴホン、んだば、前園様、こちらのスイッチを押してください」


 渡されたのは室内のライトのスイッチである。

何故わざわざこのような演出をするのか分からず、凛は戸惑いながらスイッチを押す。



 ポチ。



「凛一次通過おめでとー!!!!!」


「ぉ、ぉめでとう……ごじゃます……」



 パァンと二発のクラッカーがなる。


 ライトで照らされた空間――そこには祝福のデコレーションで飾られた空間が姿を現した。


「うおおおお!!!♡♡♡」



 ガーランドで飾られた壁。浮かぶピンクの煌びやかな風船。

壁に張られた『前園凛様 一次通過おでめとうございます』の書。


 クラッカーを鳴らしたイヴと美里が凛を抱きしめる。


「凛ー! お前一次通ったんだな!!!!」


「お、おめでと……凛しゃん」


「え、え、ってか、なんで知ってるの? てかなにこれ? ふぁー!♡♡♡」


「実は結果発表見ちまってよ。凛の名前があったからサプライズしようと思ってさ!」


「にゃー!!! あたしの口から言おうと思ったのに!!! でも、うれちぃぃ♡♡♡」


「り、六道しゃんに言われてさ……さ、サプライズの準備……してたんだ。お、驚かせてごめん……へへ」


「にゃーん♡♡ うれちいよ♡♡ イーちゃんもみーちゃんもだいしゅき!!!!」


 抱きしめ合う三人を写真に納める祖父。


 笑った三つの顔がテーブル席に腰掛けると、祖父はお祝いのケーキを冷蔵庫から取り出した。

 4つのグラスが並べられ、ポンと景気のいい音をあげるとシャンメリーが注がれる。


「よし、じゃー皆グラス持ってよ。凛から一言もらおうか」


「じゃーコホン」


 立ち上がった凛がグラスを掲げる。


「えーこのたび、あたくし前園凛は……ペンネーム後園りんはやっと! なんとか! 一次選考を通過しましたー!!!!

イエーイ!!!!!!!!!!!

まだまだクソ雑魚アマチュア作家ですが、これからも頑張りましゅので、皆さまどうじょお願いいたしましゅ♡♡」


「おめでとう凛ー!!!」


「リ、凛しゃん……おめれとう……」


「未来の作家様だどー! おでめどうー!!!」


「まだ一次通っただけだけどねー!!♡♡」


 思いがけないサプライズ。

笑顔の向こうで、凛は少しだけ目が潤んでしまう。

まだ一次、されど一次。

少しは夢に近づけたのではないかと思う。


 そして、今はこうやってその夢を応援してくれる友がいる。

夢を祝福してくれる友がいる。

これほどに最高でかけがえのないものがあるだろうかと、凛は胸がきゅんきゅんして止まらない。


「たぶん二次は落ちると思うけど!!!! これからも頑張るから!!! また感想とアドバイスおなしゃす♡♡♡」


 カチンと音を立てて交わされるグラス。

シャンメリーはちょっと甘くて、ちょっと涙でしょっぱい味がしていた。



ポイントを!!!!お願いします!!!!!


あと一言でもいいので!!!!


感想が!!!!


ほちいです!!!


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