オフィスレディ、行動に迷う
アランさんから貰ったリネンのズボンを穿かなかったら怒られた。
どちらもぶかぶかだし、歩きづらいから穿かなくていいいかな? と思って上だけワイシャツ代わりに着た。革の靴は膝上まであるし、つま先も隙間があるから、後で端切れでも貰って調整したい。
上着も裾が長くて膝が隠れるぐらいだったので、織り込んで腰紐で縛って裾上げした。長いままだと足に絡み付いて邪魔だし。アランさんの反応を見ると、肌が見えること事態がダメらしい。ちえっ、いいじゃないそれくらい。
それからアランさんに頼むから下穿きを着用してくれとお願いされた。裁縫道具を渡すから自分で調整してくれと。そ、そこまで言うのならしょうがないかな?
アランさんの後に付いていくと、色々な物がごちゃごちゃと置いてある部屋に連れてこられた。壁に掛かっていたベルトみたいな物を渡され、それを腰に着けろと指示される。
私が腰紐を取ろうとすると、手を抑えられ、無言で腰紐の上に巻けという風に示された。二重でベルト? 何か変だね? でも腰の側面に付いているホルダーで何に使う物か分かった。武器を下げるみたい。
次にアランさんが森で見た大型ナイフを鞘付のままで渡してくる。これは左側に着けるみたい。そして、アランさんが左手の逆手持ちで抜くのを見せてくれた。なるほど、でも右手じゃないと使いにくいんじゃないの?
私にもやってみろと言うので同じように左手逆手持ちで抜く。おお、何だかシャキーンって感じで、かっこよく抜けたよ? 楽しくて二三回続けてたらアランさんが、じーって黙って見てたので、恥ずかしくなって止める。
その後、アランさんは最初に見たピストルみたいな物を二つ持って外へ歩き出した。慌てて付いて行くと、丸太で出来た的がある訓練場かな? そこへ向かった。
アランさんが言うにはそのピストルは『長針弓』と言う物で、特殊な長い針を飛ばす武器らしい。見せてもらった針は十センチを超えて、見た目よりも結構重い金属で出来ていた。
特殊な金属を魔法で加工してあり、魔獣の皮膚を貫けるくらいに硬くて重い。その針の後ろに付いている石にも火と水の魔法加工されていて、引金を引くとその石の魔法が急速に開放されて、その反動で針を飛ばすらしい。
……アランさんの説明を笑顔で聞いていたけど、私にはその話の半分も理解出来なかった。
アランさんは目の前でその長針弓に針をセットして、引金に付いてた部品を取り去り、的に向けて撃った。蒸気が抜けるような鋭い音がしたと思った時には、もう的に針が刺さっていた。
「おー! すごいですね!」
私にもやってみろと言うので、先程のアランさんの行動を思い出しながら、長針弓に針をセットしてみる。この針は特殊な物だから、出来れば回収したいらしい。先に的に刺さった針も後で抜くそうだ。
私も準備出来たので、的に向かって片手で撃ってみた。もっと反動があるのかと思ってたけれど、そんなにはブレなかったと思う。でも、針は的に当たらず、遥か後ろに飛んでいったようだった。
思わず申し訳なくなり、アランさんの顔を見たけど、無くなるのは当たり前だから、気にしなくていいと言ってくれた。アランさん優しい!
●〇●〇●〇●〇
その後、アランさんから革のベストをもらって着てみた。今から森に行って、試しに魔獣を狩ってみるそうだ。緊張するけど、アランさんの話しを聞くと、どうもネズミやウサギの魔獣を狩るらしい。それなら大丈夫だよね?
慣れない内は、魔獣が出て来たら、左手でナイフを抜いておいてと言われた。このナイフでも攻撃できるけど、普通は防御に使う物らしい。了解しました! とばかりに左腰に差してあるナイフをぽんぽん叩いて頷いた。
森の中を歩くのも滅多にない。私としては森をこんな長い時間を歩く事は、ここに来るまで無かったと思う。動物だって、ウサギどころかネズミやリスも人に飼育されているもの以外見たことないだろう。
イメージとしては、ふわふわ、もこもこの、真っ白いウサギや大福みたいなハムスターになっている。それが人を襲うなんて想像出来ない。私にそんな可愛らしい動物を撃つことなんて出来ないかも知れない。
はぁー、私、役に立てるのかな~?
「トウカ! アナタの横に『耳長穴穿』がイマス!」
「きゃあ!?」
バシュッ!
「キュイ!?」
あ、撃っちゃった。
「……軍用剣を抜かなかった事には困りマスガ、良く反射的に撃てマシタネ?」
「あの、はい、すいません」
魔獣と言っても、ウサギなんだから、可愛いモノなんだろう。などと言う甘い考えは、一匹目で打ち砕かれた。灰色の毛皮、笹みたいな形の鋭角な耳、体の割りに大きくて筋肉質の後ろ脚、爪のある前脚、そして牙を覗かせる口元。
おおお……、何て凶悪な姿をしているんでしょう。五十センチ以上あるよ。それにしても動物、いえ魔獣だったとしても生き物を撃ったのに、罪悪感が薄い。この長針弓で撃ったから手の感触が無いのも大きいかな?
魔獣ってこんなのばかりなの? これがウサギなら、他の魔獣はどうなるの? キツネとかオオカミとか、他にはクマ…。
「あの、アランさん、クマの魔獣もいるんですか?」
「ああ、トウカは見なかったのデスネ、アナタに会う前にワタシが倒したのがクマの魔獣が『大爪』デス。大丈夫、もうこの近くにはイマセン」
「そうなんですか、やっぱり危険なんですよね?」
「ソウデスネ、対応するのは軍人じゃないと無理デスネ」
やっぱり居るんだ。怖いなぁ……。
この倒した魔獣はどうするんですか? と聞いて見ると、昔は毛皮だけを採っていたらしい。今では他の動物の餌になるから、そのままにしておくそうだ。何でも魔力が抜けて、他の獣が食べても別に魔獣になるわけでは無いらしい。
一応、手を合わせて拝んでおいたよ。ナムナム。
その後はキツネの魔獣一匹と、シカの魔獣が一匹出ただけだった。どちらもアランさんが倒してしまった。私は最初に言われた通り、ナイフを抜いて備えていただけで終わった。
本当ならもう一匹は私に任せる予定だったけど、シカだと危ないからアランさんが倒したらしい。ご迷惑をかけます。
●〇●〇●〇●〇
結局、三匹の魔獣を狩って終わりにした。順番は逆になったけど、私も一匹倒せたので良しとするらしい。最後にアランさんは近くに転がっていた石を拾い、私にナイフを構えておいて、と言われたのでその通りにする。
「驚かないように、軍用剣を石のくる方向へ大体でいいデスカラ、構えおいてクダサイ」
「はい? 分かりました」
軽く投げて来るのかな~? と思ってたら、ほぼ全力で投げてきたよ!?
バンッ!
思わず目を瞑っちゃったけど、暑いプラスチックの板に何かが当たるような音がしたと思ったら、足元に投げた石が転がっていた。
「強い力で攻撃されると、風の防御膜が一瞬だけ出て、使用者を守りマス」
「な、なるほど、びっくりしました」
「それでも防ぎきれない攻撃もあるので過信しないでクダサイ」
「分かりました」
ほぇー、このナイフだけで大丈夫かな? と思っていたけど、すごい力があるんだね。ちょっと安心しました。
その後は砦に戻り、私専用の部屋を用意してもらった。あ、ついでに桶でも借りて体を拭きたいな。お風呂やシャワーなんて無いよね? 牢に入ってた時より、少しはマシな食事をもらって一人で食べる。ちょっと寂しい。
その後はサイズこそぶかぶかだけど、リネン製の肌着を三枚、顔拭き用のタオル代わりに三枚いただいた。それから下穿き調整のために裁縫道具を借りて、一時間ばかり針仕事した。眠気の為か何故かショートパンツを製作してから就寝した。