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勇者がお手伝い  作者: こたつねこ
オフィスレディ、迷う
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オフィスレディ、選択に迷う Side B

「隊長! その娘には無茶ですよ!」

 

 ついつい大声が出てしまった。

 

 『火の星』とか『地の星』とか、今まで聞いていた御伽噺のようなものが、現実的になった。ましてや蛮族だと疑っていたトウカが『勇者』だと? あんな下着みたいな恥ずかしい格好して、戦士らしくない体つき、のほほんとした顔。

 そして、何より女性だぞ? 魔石洞窟みたいな魔獣の蔓延る危険な場所にトウカみたいな娘を連れて行くのは反対だ。それに力と言っても、雨を降らせたり、便器を作るような戦いに向いてないものばかりだ。

 

「あんな危険な場所にトウカを差し向けてどうする気ですか? それこそ中央へ連れて行って調べてもらった方がいいんじゃないですか?」

「アラン落ち着け、別に今すぐ連れて行けという訳じゃ無い。力を見るだけならこの砦でも出来るだろう? その確認によって、魔獣の駆除を手伝ってもらおうとしているのだ。タダ調べてもらうのと、功績を作ってから向かうのでは扱いが違う」

 

 ……トウカを連れて行って、『勇者』と分かっても、それからどうするという話しになるのか。こちらで功績を積んで『帰還』の願いを出すのと、『中央』で力を調べられて、トウカの勇者として利用される可能性を考えれば。

 

 俺は普段は守るべき女性を魔獣との戦いに連れ出すという事に神経質になっていたようだ。 あのトウカの戦いに向かない雰囲気に俺は守りたいと思ってしまっているのかもな。

 

「トウカは手伝うとは言ったが、魔獣と戦った事はあるのか? 魔獣の駆除なんて出来るのか?」

「いや、魔獣なんて見たことも無い。魔石があると魔獣が生まれると聞いたが、魔獣とはどんな物なのだろうか?」


 ……ん? 何かトウカの口調が柔らかくなったような? まあいい、魔獣を見たことも無いだと? うーん、やはり『地の星』? という所から来たから、魔獣の存在さえ知らなかったのか。この先が不安だ。



  ●〇●〇●〇●〇



 まずは魔獣を見てもらう事にする。──その前に、トウカの服装だ。いつまでも貫頭衣というわけにもいかないだろう。男物ですまないが、上下の軍服と腰紐、それと革の長靴を渡す。

 すると、ぐるぐる回りだして部屋を見渡している。何をしているんだ? こっちを見てため息を吐いたと思ったら、貫頭衣の上に軍服を被って……ああ! 申し訳無い! 慌てて部屋から皆を連れ出す。


 ──皆、女性の扱いには慣れていないんだ、許してくれ。

 

 隊長は頭を掻きながら自分の部屋に戻り、ブルーノとカールも後は頼んだと俺に押し付けて、どこかに行ってしまった。くそぅ、連れて来た責任は感じるけど、俺にも出来無い事があるんだぞ!

 

 少し待っていたら、トウカが出て来た。ほっとしたのも束の間。何故か下穿きを穿いていない。

 

「なっ! 下はどうした! 何で穿いていないんだ!?」


 トウカの話では下穿きが長すぎて引き摺ってしまう事。いや、それでも上着も短いような……、膝上に拳一個半分ぐらい高いぞ?

 

「腿に当たって気になる。たくし上げて腰紐で縛ったのだ」


 なるほど……そうじゃない! 革の長靴も膝上まで来ているし、肌が見える部分は最初よりも少ないはずなのに、何故かその……破廉恥に見える。少し動いただけで下着が見えてしまいそうで気になる。 いや、見たい訳じゃないぞ!

 

 顔が熱い。きっと他の者から見れば顔が真っ赤になっているだろう。トウカはその事に気付かないでいてくれたが、何故か自分の格好が気になるのか、くるくると回っている。やめろ! 裾が広がって大変な事になっているじゃないか!

 俺はトウカにお願いして、上着の裾を長靴の所まで下げてもらった。後で自分で下穿きも調整してもらわなければ。正直、他の者が居なくて良かった。残っていたら、この場は大騒ぎになっていたことだろう。

 

 ふう、大変な目にあった。これならまだ蛮族と思っていた方が楽だったかも知れない。その後、トウカを皆の所へ連れて行った。案の定、トウカが歩くと、近くにいる隊員がぎょっとした表情でトウカを凝視している。

 隊長たちに見せても似たような反応だった。うーむ、肌が見えなければ大丈夫と思っていたが、もう少し裾を下げてもらうべきかも。



  ●〇●〇●〇●〇



 隊長に武器はどうするのかと尋ねると、隊長の責任で所持を許可した。そして、近くでいいから魔獣を見せろと俺一人にトウカの面倒を押し付けた。くそぅ、分かっていたが、そうなるのか。

 

 トウカを武器庫に連れて行き、まず特殊剣帯を渡して付けさせる。これは『軍用片手半剣』はもちろん、『長針弓』を装備するための物だ。トウカが腰紐を取ろうとしたので、黙ってその上から剣帯を付けさせた。

 そして次に軍用剣を左に差してやり、俺が逆手で抜く見本を見せてやる。それをトウカにも真似させると、お? 妙に使いこなせている。軍用剣は使い方が特殊だから、普通なら初見で左手で使うのは難しいはずなんだが……。

 

 まあいい、次は長針弓だ。俺が二丁持って、訓練場の射的場まで一緒に向かう。

トウカには良く見ているように言いつけ、弓の後部装填口を開けて特殊針を四本込める。そうしたら装填口を閉じて、鉤爪になっている金具で閉める。

 的に向かい、引金を動かないようにしてある固定器を外して、一射する。

 

 バシュッ!!

 

 丸太を切っただけの、それでも太さと同じだけの厚さがある的に当たり、特殊針が三分の二くらいまで突き刺さった。あれを抜くのは大変だが、後で回収しなければならない。

 

「おお! 凄いな」 

 

 トウカは初めて見たようで、感嘆の声を上げていた。トウカにもう一丁の長針弓を渡し、装填から始めさせてみる。最初は不慣れな手つきでやっていたのだが、次第に熟練したような手さばきを見せ始める。

 

 ……これが勇者の力なのか。先程の軍用剣もそうだが、触るだけで理解してる?

 

 もしかすると俺より早いかもしれない。そんな速度で射撃までこなした。さすがに初めて撃ったからか、針はあさっての方向に飛んでしまった。トウカは泣きそうな顔でこっちを見てる。心配しなくても大丈夫、針は消耗品だから。

 

 そのまま森へ向かうつもりだったが、トウカの素人らしい行動に心配になり、装備の予備から革の胴衣を、それも一番小さいヤツを着せてみる。うーん、まあ、今回はこれでいいかな。

 

「今から森へ行って魔獣を狩る。トウカは俺の行動を良く見ているように」

「分かった」


 それから森に入り、『穴穿』か『耳長穴穿』を探し歩く。小さいから騙され易いが、噛みつかれると肉を喰いちぎられる。人の住む近くにはあまり居ない事だけが救いだろうか。トウカにはネズミやウサギに見えるかも知れないな。

 いや、その前にトウカにはネズミやウサギの知識はあるのか?

 

「知っている。小さくて、ふわふわしてて、可愛い小動物だな?」


 ……うーん、不安だ。

 

 今から狩る魔獣もそうだが、ネズミもウサギも可愛いものではない。いいか? 間違っても自分から触りに行こうなんてするなよ? 絶対だぞ? と強めに注意しておいた。頷いてはいるが、俺が気を付けておかないといけないだろう。

 

「あと、その軍用剣は戦闘中に左手で持つのが基本だ。魔獣が現れたらトウカは軍用剣を抜いて構えている事。ある程度の攻撃なら受け流せる」


 トウカは了解したとばかりに、腰の剣をぽんぽんと叩いて頷いている。その姿を見てると、やっぱり不安になるんだよなぁ。

 

 

 

  

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