オフィスレディ、選択に迷う
隊長さんの名前はレナードさん。銀髪、灰色の瞳のちょっと素敵なおじさまだった。
レナードさんは私に火星から来たのか? とか不思議な事を聞いてきた。地球と答えたけど、レナードさんは火星の事は知っているのかな? と言うか、ここは地球じゃないのか、どこだろうね?
「ああ、なるほど言ってマセンデシタネ、この国の名は『箱庭の国』、そしてここはクロニウスの砦。星と言う意味はワカリマスガ、この星の名前は知りマセン」
ほあー、どうやら私はいつの間にか知らない星の、知らない国に来てたみたい。そして『勇者召喚』ですか? 何故かレナードさんの『召喚』という言葉のニュアンスが違っている気がするけど。
うーん、そんな気はしてたんだけど、やっぱりここは夢の中じゃないのかな?
私が現実か夢かの判断を決めかねている間、アランさん達とレナードさんは色々話し込んでいた。話の内容からどうもアランさん達は火星の事も勇者の事も、今まで良く知らなかったみたい。隊長であるレナードさんに詰め寄って聞いていた。
「隊長は何を知っているのデスカ?」
「今まで我等は『火の星』の事など、おとぎ話程度でしか思ってマセンデシタ」
「それは勇者の事も同じデス。南の国って一体、何デスカ? 南には『海の結界』が有って、今まで船で行き来出来た者など居ないデショウ?」
頭の中で、火星? 勇者? 南の国? って言葉がぐるぐると回っている。さっぱり想像出来ないけど、勇者召喚? とやらで私は呼び寄せられたって事でいいのかな? 漫画とかアニメでしか、そんな話は聞いた事が無かったよ。
何の為に呼ばれたの? 何をすればいいの? 私は元の場所に帰れるの? 色々悩んでも考えが纏まらない。さっきまで夢の中だと思い込んでいたからのんきでいたけれど、これが現実だなんてことになったらと不安になってきた。
「まあ待ってクダサイ、この娘が勇者と確認出来た訳じゃ無いデス。今言った話も『中央』に残されている先祖達の記録から、そんな事があったらしいとしかワカリマセン」
「……」
「それにこの娘はドウモ、記録にある勇者とは違う星から来たらしいデス。詳しい事は『中央』で調べてみないとワカリマセン」
四人で色々話をしてたレナードさんが私の方を向いて、じっと見つめてくる。混乱してた私は、その灰色の深い瞳に見つめられて何とか落ち着いた。私が落ち着きを取り戻したと知ったレナードさんが聞いてくる。
「トウカはこの地に来る前に、どこか知らない場所の建物の中にイマシタカ?」
「え? いえ、気が付いたらこの近くの森の中でした」
「記録にある『召還』とは違うようデスネ……」
理解が難しかったけれど、レナードさんの話では、どうやら南にある国で勇者の召喚が行われたらしい。何が目的かは分からない。記録によれば、本来なら呼ばれたその場所に現れるらしい。え、じゃあなんで私は森の中に?
「トウカは、空に浮かぶ丸い物を知ってイマスカ?」
「丸い物ですか? えーと、月の事ですか?」
「ツキ……、アナタ方はツキと呼ぶのデスカ、ワタシタチは『見守りの女神』と呼んでイマス」
「空のお月様が女神様なんですか?」
「ソウデス、大昔に勇者をこの星に呼び寄せたと言い伝えに残ってマス。しかし、それは大昔の戦いのための事。今は『召還』する理由が無い。だとしたら南の国しか考えられマセン。それで女神がアナタをこの地に送ったのかもシレマセンネ」
「女神様が私をこの近くの森の中に……」
勇者召喚で呼ばれた私を、その南の国ではなく、この地方へ送るなんて事が出来るのは恐らく女神様だろうという話だった。わざわざ別の場所に送るのだから、何かの理由があるのかな。
しかし、その国の呼ぶタイミング悪すぎだよね。水着に着替えて、外に出たら森の中だもん。もうちょっと早かったら……そんな想像にぶるりと体が震える。
「アナタはこれからどうシマスカ? しばらくはこの砦に居てもらわないとイケマセンガ、先程見た感じでは、どうやら強い力を持っているヨウデスネ」
「出来れば元の場所に帰りたいのですが……無理でしょうか?」
私の言葉に考え込むレナードさん。南の国で呼ばれたんだから、その国へ行かないとダメなのかな? でも、南の海には結界? があって南には行けないとか言ってたし。
「トウカ、『召還』されたアナタには、もしかすると勇者の力があるかもシレマセン。もし、我らの手伝いをしてイタダケルノナラ、『中央』へ行ってアナタが元の星へ帰れるかどうか調べるお手伝いをシマショウ」
「私は元の場所へ帰れるんですか!?」
「まだワカリマセン、でも『中央』へ行って、その方法を調べるという事を約束シマショウ」
……確かに帰りたい。この人達は信用出来るのか、まだ良く分からないんだけど、今は手伝うという選択しかないかも。それでも、もう少し話を聞いてみないとね。
「その『中央』と言うのは何ですか?」
「この国の情報や記録を管理している場所デス。この国が出来た時に作られたと聞かされてイマス。遥か昔に居た勇者の記録も残されているらしいデス」
「そこに行けば、帰る方法が分かるのでしょうか?」
「優秀な学者や魔術の長けている者が集まる場所デス。何かしらの手掛かりが見つかる可能性がアリマス」
「……今すぐ行って、調べてもらうことは出来ないのでしょうか?」
「何も功績が無い者が行っても、恐らく相手されないデショウ。この国の利益に貢献した者じゃないと利用が難しいのデス」
「なるほど、確かにそうでしょうね」
その召喚がこの国によって成された訳じゃないから、責任を取って私を元の世界に帰して欲しいと言えないだろう。
まず第一に帰る事を優先する、当然だよね。早く帰らないと会社に私の居場所が無くなっちゃう。第二にとりあえず生活出来るようにする事かな? 衣・食・住、これ大事! 後は……今は何も浮かばないや。まず初めに中央へ行ける事を目指そう。
「……分かりました。それでお手伝いと言うのは何をしたらいいのでしょう?」
「西に有る洞窟に入って、『魔石』の処理をするのを手伝って欲しいのデス」
「魔石ですか? どういった物なのでしょう?」
それからレナードさんの説明が始まった。大昔に怪物がいたらしい。それも一匹や二匹じゃなく沢山。大地を覆うくらい、それこそ何万と数え切れないほど居たと
言い伝えでは残っているらしい。
そして、地上の生き物が滅亡する寸前まで追い詰められた時に、女神様が勇者を呼んだらしい。その百人にも満たない数で、怪物たちを倒したことから『英雄』の方々と言われていると。
その戦いの時に、勇者が使った魔法があまりにも強力だった為に、歪んだ強い魔力が残ってしまった。その強い魔力が結晶したものが『魔石』である。それだけだと人間には影響は無いが、獣の体内で蓄積すると『魔獣』が生まれる。
「魔石は勇者が使った魔法の跡の、この国では特に三つの大きい山に多く埋没されてイマス。そこには昔から掘り進んだ、他の洞窟と区別するために『魔石洞窟』と言われている洞窟がアルノデス」
え? 私は洞窟に潜ってその魔石とやらを掘る仕事をするの? そんな事を考えているとレナードさんはニッコリ笑って、
「トウカには魔石洞窟に潜って、そこに居る魔獣の駆除をお願いシタイデス」
あ、何だか無茶な事を笑顔で言われたんですけど。




