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勇者がお手伝い  作者: こたつねこ
オフィスレディ、迷う
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オフィスレディ、質問に迷う Side B

 例え蛮族と言えど、女性を牢に入れておくのは心苦しいが、隊長が帰るまでだから、直ぐ帰ると思うから我慢して欲しい。


 特に暴れるような事も無く、手枷をしたまま大人しく地下の牢に入ったトウカ。牢の不潔さや、臭い匂いにちょっとだけ戸惑っていたようだが、トウカは少しだけ悩んだ後、薄汚れた地面に座った。

 

 後のことは牢番に任せ、俺たちは休憩室に戻り隊長の帰りを待つ。

 

「なぁ、話し方は変だけど、やっぱり蛮族と違うよな? 身のこなしを見ても戦う者の動きじゃない」

「うーん、顔つきも子供っぽいし、体つきは……まあ、いいとして、あの雰囲気がなぁ。お偉いさんの御息女と言った方がまだ分かりやすいぞ」

「何かの理由が有って、森の中? に連れて来られたって感じか? さっぱり分からんな」


 こちらには敵意をまったく見せない。反抗的どころか、拍子抜けするほど大人しく言うことを聞く。雰囲気が未開の者じゃない。やっぱりいいとこのお嬢さんって線が強いか。

 

「そういえば忘れてたが、『大爪』はどうなったんだ? 殺れたのか?」

「あ? ああ、それは問題無く狩れた。……ああ、その時に、変な物を見たんだった」

「あの娘じゃなくて? 何だよ」

「トウカを見つける直前に、空の一点から雨が降っているのを見た。それを見て驚いていたら……いや、何でもない。雨が降った後に今度は黒い壁が出た」

「雨が降って? 壁が出た? 何を言ってるのか良く分からんな。それがどういう原因で出たのか知らんのか?」

「雨だって一瞬だけだったし、壁だってほんの少しの間に立っていたと思ったら、気付いたら消えていたんだ。原因を探すヒマも無かったよ」


 あの時、俺は雨を降らせる者の正体を考えたんだった。記憶を探しても、雨や壁を立ち上げるみたいな事を起こせるヤツなんて知らない。それを探そうとしたら、トウカが軍用剣を持っていた……。

 

「そうだ、俺はあの時、雨を降らせたヤツが魔獣なんじゃないかと思って、それを探し始めたらトウカを見つけたんだった。そのトウカに気を取られて、雨とか壁の事を忘れていたんだった」

「は? 雨なんて降らせる魔獣なんて聞いた事無いぞ。壁も魔獣が出したなんて言うんじゃないだろうな?」

「そもそも魔獣が雨とか壁とか使う意味なんてあるのか?」

「いや、無いだろうな。だとしたら何者が──まさか、トウカが!?」


 ええい、まだ隊長は戻らないが、トウカに聞かなくてはならない事が出来た。三人揃って地下に向かう。その時、足元から少しの揺れと地響きが聞こえて来た。

 

 俺たちは顔を見合わせ、慌てて走り出した。



  ●〇●〇●〇●〇



「おい! 何があった?」


 いきなりの事に、慌てている牢番を捕まえて、何があったか聞いてみる。

 

「はいっ! 牢に入れた蛮族の女が『厠は無いのか? この壷でするのか?』って聞いてきたので、そうだと答えたんです。そしたらその後に急に牢の中に壁が出来て……」

「まさか、壁の向こうで脱獄しようとしているんじゃないだろうな?」


 急いでトウカの牢の前に行くと、確かに森の中で見た黒い壁が立っている。何だこれは? 牢番と俺たち三人でただ見ていると、また地響きを立てながら壁が地面に沈んでいくように無くなった。

 壁が無くなった牢の中には、妙にすっきりした顔のトウカが居た。他には何も変化は無いようだが……何があったんだ?


「──お前、今、何をしてたんだ?」

 

 カールが脅かさないよう気を付けているのが分かった。確かにトウカは臆病に見えないことも無いか。カールの質問にトウカは恥ずかしそうにしながら、壷を指差した。……ん? え。

 

「……厠が無いから、壷でするのが嫌で、見られないように壁を作ったと?」


 トウカは首を傾げながら、壷を持ち、中身を見せようとする。おい……、そんな物を見たがる変態なんていないぞ……おおっ!? 中身が無い! 中身はどこに行った? いや、そうじゃない。どうやって消したか、だ。

 

「トウカ、何をしたか、もう一度、壁無しで見せてくれるか?」


 俺の質問にトウカと他の者がじとーっと冷たい目で俺を見てくる。

 

「あ!? ち、違う! 行為は見せなくていいから!」


 くそぉー、恥をかいてしまった。ついでに俺が変態じゃないかと思われてしまったようだ。自分の顔が熱い。他の者から見れば真っ赤になっているのが分かるだろう。出来るだけ顔を向けないようにトウカの行動を見守る。


 トウカは立ったまま、むにゃむにゃと口の中で何やら言ってたと思ったら、いきなり地面から焼き物で出来た、円筒形の壷? みたいなのが湧き出た。湧き出たとしか表現出来ない。驚く俺たちを尻目にトウカはもう一つ、半円の器を作った。

 そして、牢の中から、俺に向かって手招きする。俺たちは顔を見合わせ、危険が無いと判断し、牢の中に俺だけが入った。

 

 トウカが指差す円筒形の壷の上から見ると、穴が開いていた。壷じゃなくて、その下の地面にだ。見てるとトウカは一旦、その壷の上に座り、少しして立ち上がると、もう一つの器に……水を張っただと!?

 器の上から水が流れ落ちたことに俺が驚いていると、トウカは水で手を洗い、その水を壷に流し込んで、また、むにゃむにゃ言って地面を元に戻した……。

 

「見たままを考えれば、トウカは壁を立てて便器を作り、使用して手を洗い、その水で便器の中の物を洗い流したと」

「えーと、頭が追いつかないんだが、トウカは魔法が使えて、綺麗好き?」

「魔法を便器に使う? ハハハ、そんな馬鹿な……」


 俺たちが話してると、トウカは普通に牢の外に出ていて、牢番を含めた俺たち四人が唖然としているのを、不思議そうに見てた。牢に入れるのは意味が無いんじゃないか? というか、無駄なんじゃないのか?

 

「もしかして、この娘は『勇者』ではないのか?」


 聞き覚えがある声の方を見ると、いつの間にか隊長が立っていた。俺たちが気付かぬうちに帰ってきて地下に降り、今までの様子を見てたようだ。

 

「『勇者』ですか? そんな存在なんて、遥か昔の伝説だと思っていましたが?」

「今の魔法を見てると、大して苦労もせずに使用していただろう? もしかして、と思っただけだ。だか、案外間違っていない気がするがね」


 『勇者』と言う言葉に、俺たちは首を傾げる。……何故かトウカまで何それ? 見たいな顔をしてる。お前の話なんだけどなぁ。

 まあ、隊長も帰ってきたし、牢は意味が無さそうなんで、牢番を仕事に戻し、俺たち五人で砦の会議室に向かった。五人も入れる取調べ出来るような部屋なんて、そこしか無かったのだ。

 

 会議室のテーブルの端の方の椅子にトウカを座らせ、反対側に隊長が腰掛ける。それ以外の俺たち三人は隊長の後ろに立ったまま話しを聞く。

 

「この娘の名前と、どこから来たのか聞いたか?」

「はい、名前はトウカ・サツキ、ニホンムと言う国のチッパのシロサッキから来たらしいです。まあ、適当に言ってるだけか、本当かどうかも分かりませんがね」

「ふむ、トウカ、君はもしかして、『火の星』から来たんじゃないかね?」


 隊長の言葉に俺たちは驚愕した。俺たちの中では、いや、この国の者にとっては『火の星』と言ったら、死者の世界や地獄の事である。大昔の言い伝えから『火の星』は煉獄の地だ、生者は行ってはならないとされている。

 その『火の星』から来ただと? 隊長は一体、何を言っているんだ?

 

「火の星? ヒノホシ、ヒノホシ……火星の事だろうか?」

「……カセイか、君は、そこから来たのかね?」

「いや、我が来たのは、地の星、じゃなく『地球』である」

「チキュウー、『地の星』か」


 『地の星』だと? いきなりな話しだが、それは『火の星』に関係しているのだろうか? それにしても隊長は何を知っている? 突然、地獄の話しになったり、別の星になったり、俺の理解が追いつかない。

 

「予想と少し違ったが、もしかすると、南にある国で『勇者召還』が行われたかも知れない」





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