オフィスレディ、行動に迷う Side B
トウカの勇者の片鱗を見た昨日、それでもまだ優秀な一般兵と変わらないような気がする。それはトウカが魔法を戦闘に使ってないからだと思う。今では武器の加工技術が発展した為に、魔法を戦闘に使う事が無くなったと言ってもだ。
英雄たちの時代には火山を隆起させたとか、雷を雨のように落としたとか、色々信じられない伝承が残っているが、その力は相手がそれだけ数が多く、強大であったからだと思う。今では精々がクマの魔獣ぐらいなものだ。
魔法は武器の一部に加工として組み込まれ、魔法を使いこなせるかそうで無いかの優劣はほとんど関係無くなっている。強力な魔法使いが居ない代わりに弱兵でも凶悪な魔獣と戦えるようになったのだ。
魔獣以上の怪物は英雄たちによって全て倒され、その英雄たちの力が必要が無くなった代わりに、いつからか魔獣が現れた。偉い学者の話では英雄たちの使用した魔法の残滓が山や地下の深い所に残留・変質して、その影響で魔獣が生まれると言う話だ。
やっかいな遺産を残してくれたものだと思った。それでもまあ、豊かな大地に住めるのだから、それぐらいの苦労は俺たち子孫がしてもいいだろう。今では武器加工の技術と魔法技術の融合で、ある程度の者なら魔獣と戦えるのだから。
それでも厄介な場所というものはあるもので、今ではその厄介な洞窟がある高い山が三つ、この国の西側にある『パテラ山』、中央から南の『タルシス山』、そして隊長がトウカに頼んだのがこの砦の西側に聳え立つ『アルバ山』である。
それぞれに魔石が多いとされている魔石洞窟があり、そこには魔獣が多く住み着いている。前は魔法道具の加工するために魔石を掘り出していたらしいが、いつからか魔獣が現れ、その洞窟に居座ってしまったらしい。
その理由を学者たちが調べて発表した。魔獣を解剖した時に、その体内に魔石の反応が見つかったらしい。普通の獣が食べ物を体内に取り込む最中で、魔石まで一緒に取り込み、子供がまだ胎児の時に魔石により変質したのではないかと言われている。
つまり、魔石が多い場所だと、その近くに居る獣から魔獣が生まれやすいと言う事だ。そして魔獣は魔石が多い場所を好み、そこに居る魔獣からまた魔獣が生まれる。悪夢のような話しである。
洞窟を魔獣諸共埋めてしまえと言う過激な意見も出ていたが、それでも学者の話では、埋めた魔獣が生き残った場合、生き残った魔獣同士で共食いして、強力な魔獣が現れる恐れがある。そのために洞窟から魔獣を排斥しないで埋めるという案は中止になった。
俺たち軍人は、普段の村や町の周りにいる魔獣の討伐や、魔石洞窟に潜り、そこに居る魔獣の数を減らすようにしている。それでも数が多すぎて洞窟の魔獣を全滅にまでなってない。以前からの悩みであった。
ウチの隊長はトウカの勇者としての見極めと、その力の確認として、洞窟に送る事を選んだのだ。俺は最初、それは無茶だろうと思っていたが、昨日のトウカの働き具合を見て、その認識を改めていた。もしかしたら、活躍出来るのではないかと。
●〇●〇●〇●〇
朝食の時間、俺は上級士官用の食堂で食べる。昔と違って部下が何百人と居る訳ではないけれど。トウカは一応は重要参考人として身柄をこの砦で預かり、この俺が監視役として面倒を見ることになっている。
そのトウカが食堂に現れた時、俺たちはまた動揺することになった。
「トウカ、その格好はなんだ!? 昨日とほとんど変わらないじゃないか!」
昨日は昨日で、布の面積が狭い下着を着けただけで、下穿きを穿かずにこっちが恥ずかしくなる格好でいたのだが、今日はまた上着の裾を上げていた。下穿きは穿いてはいるが、太腿が出ていて裾が短い、いや、ほとんど無い。
上着の裾を膝まで下げていた昨日も目のやり場に困ったのに、今日はもう丸出しである。とても他の兵たちには見せられない。ただでさえ女性との接触が無い期間が長いと言うのに!
「これでも駄目ですか、しょうがないですね」
……? まあいい、トウカは昨日は下着が見えそうだから駄目なのかと、今日は下着じゃないから大丈夫だと思ったそうだ。それはそれで駄目であるが、そうじゃない。できれば足首まで隠して欲しいのだが。
トウカは昨日と同じようにたくし上げていた上着の裾を膝上まで下ろした。出来れば膝も隠せと言ったが、歩きにくいので許して欲しいと言われた。
くっ……しょうがない。建物の内部では膝下まで隠す事で話は纏まった。
緊張しながら朝食を食べ終わり、隊長の部屋に向かう。魔石洞窟での行動を話すためだ。隊長もトウカの姿を見て一瞬難しい顔になった後、無言で俺を見た。面倒事は俺に任す。という目だ。
「トウカの働きは期待できそうか?」
「はい、まだぎこちない所はありますが、昨日見た限りではもう少ししたら慣れると思います。ある部分だけなら熟練した兵士のようです」
「……それほどか、ならアラン隊長、カール隊長と共に、それぞれ一個小隊を率いてアルバ山の魔石洞窟へ行き、一日の威力偵察を命ずる。トウカを洞窟に慣れさせて来い」
「はっ! 承知しました!」
「トウカ、アランに付いて行き、洞窟がどんな所か見てくるといい」
「は、はい」
「うん? 言葉使いが変わったね、どうしたんだい?」
「え? そうですか? 隊長さんの方が変わったのかと思ってましたけど」
「……うーん、それも勇者の力なのかもしれないね」
「そうなんですか……」
なるほど、何か急に変わったと思ったらそういう事か。もしかしてトウカの言葉はこちらとでは違っていて、昨日までは何となくの意味で通じてたのかもなぁ。
●〇●〇●〇●〇
それから、俺の小隊十名とカールの隊十名をそれぞれ四つの馬車に振り分け、必要物資を積んで出発する。その時に皆にトウカが勇者の可能性があると説明すると、兵たちはあの格好で勇者!? なんて破廉恥な勇者なんだと呟いていた。
本人の前でそんな事を言うのは止めろ。トウカが顔を真っ赤にして恥ずかしがっているじゃないか。俺だって破廉恥だと心の中では思ってはいるのに黙っているんだから。
トウカが居るので行きに一日、洞窟視察に一日、帰りに一日の計三日での行動である。洞窟でのトウカの戦力としての見極めもあるが、軍人としての行動を慣れさせる目的もあって、それは将来勇者としての働きを期待しているからでもある。
念のためにトウカは馬車の中でも端の、俺の隣に座らせていた。見た目だけならまだ子供だからな。いや、性格も子供っぽいか? 隊員たちの目がほほえましいものを見るように優しい。お前ら、気持ち悪いぞ?
「馬車と言うから、もっと揺れるものだと思ってました」
そうなのか? まあ、昔は車軸はそのまま木や鉄製で、地面から受ける衝撃もそのままだったらしいが、現在では軸受けに板ばねを挟んだり、回転軸受けも発展しているから揺れは吸収してるからな。
目的地まであともう少しの場所で早めに野営する事にする。このまま無理に山の麓まで行ってまで疲れを残さなくていいだろう。疲れと言ってもただ馬車に揺られていただけだが。その夕食時に炊事係が作る食事をトウカはじっと見てた。
何か問題があるのだろうか? トウカは炊事係に一言二言、色々と質問してたみたいだ。係りの者に聞いて見るとパンの材料や焼き方、スープの材料、香辛料の種類を聞いてたらしい。
ふっ……。格好はともかく、ああ見えてもやはりトウカは女の子なんだなと、俺はちょっとだけ安心した。出会いが出会いだけに俺の中では破廉恥な格好の蛮族としての印象が強かったのだ。
トウカは食事時に他の隊員から、パンや燻製肉を分けてもらってたり、果物をもらったりして喜んでた。果物、いつ持ち込んでたんだよ。みんなの保護欲が目覚め始めているんじゃないだろうな?
翌朝、早めに食事を取り、日がまだ高くなる前に山の魔石洞窟がある場所へたどり着くように出発した。
トウカはまた食事を作るところをじーっと見てた。




