EPISODE2:始まりの言葉
最高神シュヴィエラは天地創世を為した神をも総統する頂点の存在。
そのシュヴィエラが下す制裁や課題には拒否権が無く、ただ神の赴くままに従うしかないのだと言う。
ユウナに出されたのは『一年以内に答えを導き出す』こと。
それがどういう意味を指し示すのかは依然として不明だ。
「一年のリミットがあるのなら、ゆっくり考えていけばいいでしょう」
エミルはユウナの顔色を窺い、そう励ましてくれる。
優雅で澄んだ瞳に、ユウナの曇り顔が映った。
「プリンセス」
エミルはおずおずと呼んだ。慰めてくれるのか、と思えば、そうでもなかった。
「申し訳ありません、ここにいるとまずいので、移動しましょう」
「え……?」
「さっきも説明した通り、プリンセスの身体は第二世界にとっては喉から手が出るほど欲しいモノ。やがてプリンセスの存在もこちらの世界に知られ、不老不死や幸福を願う輩がところ構わずやってくるでしょう。だからこんな見通しのいい草原にいては逆にまずいのです」
すると、エミルは草原の向こうの方を見渡す。
ユウナは「えっ」と声を上げて言った。
「それってつまり……私の命が危ないってこと……?」
話の流れからするとそうだ。少なくとも、大きく履き違えていることはないはずである。
そう考えるとユウナは、急におどおどして、襲い掛かってくる恐怖に怯えた。プリンセスだのなんだの言っても、彼女はまだ高校生で、そして女の子。そんな薄情な現実を突きつけられて、怖くないなんて変だ。
しかし、エミルの煌びやかな横目で見られると、何故か彼女はきょとんとしてしまった。
「命の危険性は少ないでしょう。不老不死と幸福を両方得たいものは血を飲み貴方を傍に置く。幸福だけを得たいものはそのまま傍に置く。不老不死だけを得たいものは血を飲んで後は捨てる。ただ、幸福を得たいものの中には、貴方を奴隷にしたり、妻にしたり、自分のモノにしたりしたい輩もいると思いますが」
「あのぉそれ、あたしに良いこと一つもないですよね……?」
思ったことをストレートに伝える。奴隷にしろ妻にしろ傍に置くにしろ、ユウナの抗う意思が無視されているような気がした。
それより、エミルはどう考えているのだろうか? これが誘拐ではないと言うことは判ったが、彼もまたそういう輩の一人ではないのか。いくら御丁寧に説明してくれると言っても、彼自身第二世界の住人。ならば、ユウナの身体を狙っているとしても可笑しくない。
「さあ、相手次第でしょうか。……それより、急いで隠れましょう。話はその後でもできます」
エミルは適当に解答し、ユウナの手を引いて森に隠れようとした。だが、ユウナはその場に立ち止まり、思い切った質問をした。
「あの……」
「なんでしょうか?」
「貴方も……貴方も、あたしの身体を狙っているのですか?」
男の子にこんな質問をするのは何か卑しい気もするが、ちゃんと聞いておきたかった。
夢でないのなら、これからどうなるのかもわからない。本当に信頼できる人がいるなら、信頼したい。
すると、エミルは優しく微笑み、ユウナの眼をしっかり見つめてこう答えた。
「僕は、プリンセスの味方です。それ以外の何者でもありません」
「……」
エミルの瞳は確かなものだった。きっと、信じていいのだろう。
「よろしくね……エミル」
そして、ユウナも心から微笑み返した。
よろしくね……その一言だけで、このときの彼らには、十分な言葉だった。
だんだん物語が進んできましたが
ユウナを待ち受けているモノは想像以上にヤバかったり!?いろんな意味で……。