ロジック依ちゃん 2
前回の続きです。頑張りますよ、主人公。
――彼女の中の私が、私じゃなくなった、とか?
ぴったりはまった。はまりすぎて気持ち悪いくらいだ。じゃあそれはいつから?由香に最後に会ったのは?最後に声を聞いたのは?
どっちも随分前だわ。記憶がおぼろげになるくらい前のこと。一人暮らしを始めるより前のこと。……どうして、私は一人暮らしをしているの?高校が隣町だから?でもそんなに遠くないわ。せいぜい電車一本で二駅よ。別に親元を離れる理由なんかなくない?
あと弓削の存在ね。ここにはないから、このあと出会ったんでしょう。どこで?それは思い出せる。長屋の前よ。なぜ私は泣いているの?
それは、親にも友達にも縁を切られたからよね?
高校生活にはいい思い出がない。先生にも生徒にもいないものとして扱われる。そういう小説があったわね。あの状態に近いのね。なぜ?そんな風習はあの高校にはなかったはずよ。
腹が立つけどその理由も私の変質で収まりそうね。弓削も無視されている側だったみたいだけど、あいつはそれが人徳なのか、私と同じく変質しているのかわからないところがある。
でも、そうね、人徳のせいだとしても初日は構われて当然のはずよ。記憶にある限りは構われてもないわね。これをすべて人徳に帰結させるのは無理があるんじゃなくて?私と同じく変質したと考えるのが常道ね。
でも弓削のお兄さんは弓削を追っかけてきたのよね?それもはるばるアメリカから。おかしな話だわ。ていうかずるいわ。
方や見捨てられ、方や肉親がついてきてくれるんだから。敬一さんは弟の変質を何とも思っていないんでしょうね。今にして思うとうらやましい限りだわ。
これ、当時はうらやましく思わなかったってことでもあるのね。思わなかった理由が意地とは考えにくい。私にそこまで根性はないわ。別の理由があるはず。
例えば本当はお兄さんじゃない、とか?なるほど……って何で弓削も気づいてないのに私が気付くのよ。あいつもはやブラコンの領域よ。気づいたら発狂ものでしょ。
気づくといえば今朝、初めて敬一さんがイケメンなところに気付いたっていうのも気になるわね。あのイケメンをイケメン以外の何かとして認識してたとか我ながら怖いわ。眼球をゼリーとして認識してた時点で何を今更だけど怖いわ。
ほんと怖いわ。
怖い怖い言ってたらだんだん怖くなくなってきたわね。今度からSAN値減ったら狂うわー狂うわーって言ってみようかしら。ちょっと回復するかも。
とりあえず、私の認識がずれていた期間が少なくとも三か月以上あるのね。その三か月間、こうして思い出す限りいい思い出一つもないように思うけど、でも楽しかったと思っている。
楽しかった理由が、認識がズレていたせいとは思えない。そもそも本格的なズレを発見したのは冷蔵庫を開けてからでしょ。
しかも私の中にはズレバージョンの記憶がまあまあ残っている。そこではズレたまま。
でも、思い返しても楽しい要素はあまりないわ。せいぜいプールと夏祭りだけど一緒に行ったのが弓削だしプールに至ってはあいつ泳げもしなかった。
日々の小さな幸せを一つ一つ拾えるほど私は希望を持ってもなければ急がなさすぎでもないッ。たとえ頭の中にお花畑があったとしても、それじゃタンスの中のふりふりは説明がつかない。どうしてあれを手に入れたのか全く分からないわ。
やはり、記憶が欠けている。誰かもう一人、いたはず。なぜ忘れているんだろう?それはまだわからない。じゃあ、いつわからなくなった?それはわかる。今朝だ。
今朝、いつもと違ったところは?
「痣……ね」
しかも、円形の。絶対おかしいでしょ。痣は依然として左胸にある。場所も意味深だわ。いやいっそのことこれが元凶でも何の不自然もないでしょ。小説とかだとこういうまじないもあるし。
これさえ何とかすれば勝って三部が終わるわね。解除方が分からないという一点を除いてほんとに素晴らしいわ、依。
さて、どうするかな。円という形に意味があるなら、切ってやればいい気もするけど、肌に跡として残しているのが憎いわ。自然回復を待つしかないじゃない。
待つにしても今朝の痣が薄くなりもせずあるっていうのも変な話。治るっていうのはちょっとなさそう。切る方法を考えたほうがいいでしょう。




