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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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ロジック依ちゃん

 SAN値ぴんち。

 冷蔵庫を開けたら、目に飛び込んできたのはまずガラスのボウルだった。知っての通り、ゼリーを入れてたボウルね。中に入っていたゼリーは、丸くて、白くて、汁が赤くて、……最悪だ。

 ただでさえ最悪なのに、ボウルの中身は――人間の部品は、開けた拍子にバランスを崩してこっちへこぼれてきて、私はほとんど転ぶようにしてキッチンを端まで逃げた。

 逃げても、臭いは追ってくる。あの、鉄臭く潮の香りにも似た滑りのある臭気!

「う……え、げっ……けふっ」

 びちゃびちゃと床に胃の内容物が飛び散る。黄色い液体の中に混じるものはほとんど消化されていない。噛み砕かれているけれど、ところどころにディテールが残っている。

 指とか、爪とか、頭皮とか、歯とか。それは明らかに人間のパーツだったわ。しかも骨ごと、そりゃ消化できないわけよ。おかげで何なのか分かったの。

 床の上は眼球やら吐いたものやらでウルトラスーパーカオス。歩くだけでヒットポイントがすり減りそう。何が驚きってまだ冗談を言える自分がいるってことが一番驚きね。

 あはー……ね、これ、どういう状況?どうして我が家の冷蔵庫には眼球をはじめとして、明らかに食べ物じゃないものが詰まってるわけ?これ、醤油さしに入ってんの。どう見てもヘドロね?これ、お刺身にかけるのかしら。あはははは。

 ちょっと待て。狂うな。SAN値減り倒してるだろうが、まだ踏ん張ってくれ私の精神。とりあえずこの生々しい現場を去ろうな?うん。それからシャワーを浴びよう。落ち着いてからものを考えよう?

 そして時間は私が新しい服を着て、リビングとして使っている和室に正座したところまで飛ぶ。時を消し飛ばし、結果だけが残ったのよ。ふふっ。

 私のお腹と冷蔵庫には人間のパーツ含む食べ物じゃない何かが詰まってたわけだけど、何があったのかしら。出頭も証拠隠滅もまだ時間をくれるはず。紙に書き込みながらゆっくり考えていくわよ。

 可能性1。私は無自覚なシリアルキラーで、そのうえ殺した死体をバラバラにして食べる変態さんだった。

 可能性2。悪質なドッキリ。いっそ発狂させる気だったかもしんない。

 いや、どっちもねーから。まず1。無自覚な殺人鬼?創作の世界ではよく聞くわね。でも現実に無理があるんじゃなくて?

 殺した死体をバラバラにして食べるまではわかる、わかるけど、醤油さしのヘドロは何だ。あれ死体じゃないでしょ。どぶの底とかそういうとこから出るやつでしょ。

 あと2も。悪質なドッキリってこれ、私に仕掛けるためだけに一体どれだけの犠牲を払ったの?ないわーありえないわーロッククライミングの人が登るのは大きな岩ー。

 どっちもないに決まってんじゃん。紙をくしゃくしゃっとしてポイする。前にもこんなことがあったような気がするわ。

 二枚目の紙を前に、大きく深呼吸した。じゃあ、今わかっていることを書いていきましょう。

 私は衣川依。書いてから、考える。本当にそうだろうか?いや、こんなことで引っかかっていても仕方ない。書け。なんでもいい、書け。

 迷いながらも刻むように黒鉛を紙に突き立てる。神社。叔母さん。依代。神輿。今年の祭りは特別。芯が折れた。汗ばむ手でカチカチとクリックする。芯が出た。

 一泊。由香。ハバネロ対応。友達のふり。お母さん。恐怖。私の声。声――の一文字が紙ごと歪んでたわんだ。

「えっ?」

 驚いて紙を凝視する。声の字は滲んでなどいない。

――そりゃ涙が出てないもんな。

 芯も折れたはずだが、単にクリックしすぎて長くなっているだけで、折れていなかった。手は?別に汗ばんでないわね。この暑いのに意外だわ。

 ここに書かれたことは多かれ少なかれ私の心を揺さぶることたちだったと思うのだけど、ほとんど心動いていないみたい。書く時だってそんなに切迫感はなかった。

 正しくは、切迫感自体はあったけど、初めて書いた時よりはマシだったのね。おっとメモメモ。『初めて書いたとき。少なくとも、これは二回目』と。正しくはn回目?ううん、二回目だわ。この先を、衣川依という名の女子高生の末路を、私は知ってる。知ってるはずだ。

 で……当然だけど、ここまでこうして整理する機会に恵まれなかったわけ。うん。じゃあその末路ってやつを思い出せないもんかしら。きっとこの中にヒントがあるはず。

 まずは由香とハバネロの因果関係が気になるわね。由香は親友なんて安っぽい言葉を使いたくはないけど、そう呼んでも一切祖語の生じない一番の友達よ。

 その隣にハバネロ対応って……何したの私。彼氏でも寝取った?チャラいのはチャラいけど、由香に彼氏なんていないわ。逆に男に引かれるんでしょうね。私にも魅力はないし。

 次に友達のふり、か。思い当たる節がないなあ。極力嘘をつかないように付き合ってきたつもりよ。それをこんな風に言われるなんて心外だわ。わけがあるんでしょうけど、私はそこまで人間ができてないのよねえ。

 あら、どうして由香が私にそう言ったって前提で考えているのかしら?私が由香にそう言った可能性もなくはないんでしょ?……いいえ、これは私の中に残った一つの手がかりだと思ったほうがいいわね。じゃあ由香がそう責めた?

 なぜ?

 某老人ほどじゃないけどね。

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