お茶と一緒にグチをどうぞ
「あやつはきっとぬめりを取ったらめちゃくちゃ旨いはずじゃ。そうに決まっておる」
依宅の土間で触手をフル活用して全身から水滴を落としながら壮二が歯ぎしりした。
「なにゆえ、己の氏子もまともにまとめられぬのか。まあ良いそれは問うまい……としても、氏子に裏切者がおるのは明白なのじゃから罰の一つや二つ……ああ、こうしている間も平和にぐーすか夢を見よってからに!」
依!のみもの!今日の壮二は何だか色々あったらしい。濡れているのは雨だったのに弓削が傘を忘れたからだ。多分、壮二バージョンで家のドアを叩いたら魚兄さんに居留守を使われて入れなかったのだろう。
もちろん触手を使えば鍵など増えても開けられるのだが、人目を気にするとそうはいかない。こんな雨の日に人目があるのかって?ここにはあるのよ。
何を隠そう、雨の日は私の隣のお姉さんが表で長い黒髪を振り乱してきゃらきゃら高笑いしながら踊ってるのだ。
ほら、今も雨に混ざって聞こえてくるあの声。楽しそうよね。たまに近くの駐在さんや家族もしくは親族がやってきて保護して、精神病院に通ったり戻ったり。忙しいお姉さんである。
そういう人もいるよね。人間に乗り移って行動しちゃう神様がいるくらいなんだから。
「のみものって何がいいのよ。うち、ドクダミ茶しかないわよ」
「おっ好物じゃ。それで頼む」
気を遣って熱いお茶が出せたらよかったのだが、朝火から降ろしたやかんの中にあるだけがドクダミ茶のすべてだからどうしようもなかった。
ちなみにこれは長屋の裏の湿った路地に自生している。包丁で刈り取って洗って干して湯につけるとおいしいお茶ができるスグレモノ。
さらにお茶にした後の茶殻をお風呂に入れると入浴剤代わりにもなる。ほんのり冷感があって、のぼせにくいから大好き。夏場は大活躍しそうだ。
叔母さんの仕送りが不定期だからお茶や入浴剤みたいな贅沢品は中々買いづらい。しかし欲しい。生活の知恵だ。
さて、閑話休題。
よく知らないが、魚兄さんはどこぞの神の氏子、つまり眷属か何からしい。
どこぞって、魚兄さんがインスマウスにしか見えない時点で、ニュージーランド沖に沈んでいるあのお方だとしか思えないけど、決めつけは駄目だ。結論は急ぐな。
それで、裏切っている?
そっちは私にもわからないわね。壮二がドクダミ茶を一杯飲み干したところで聞いてみた。
「あやつの氏子は人間を仲間に引き込むという形で増える。魚にしてのう。じゃからあの魚は、かつて捨てた家族をこういう形で連れてくることを思い付いた……と儂は予測した」
それが違うと。むしろ弟をそっち系に関わらせたくないみたいだと。
「おぬし物分かりが良いのう。まさにそれじゃ」
愛い奴め、と目を細めてこっちを見る。
そうやってちょくちょく褒めるから私も頑張って考えちゃうんだぞおじいちゃん。あとあなたは知らないだろうけど、弓削のときに魚兄さんに私と関わるなってよく言われてるんだ。
なんて言わない。弓削はいないと思わせる方が便利だからね。
「斜め上なら想定ではないにせよ期待くらいはしようが、斜め下は期待もせんしのう……盲点だったわけじゃ」
「月に代わってお仕置きしたりとかしないの?」
「それをすると協定違反じゃ。儂といえど奴ら全員に集中砲火されればちとキツイ。妻の助力も期待できんどころか最悪あれが一番の脅威に」
別れろよ!
「……へえ」
心の底から思ったが私は何も言わなかった。別れろよなんてことは一言も。なのに壮二は決まり悪そうに眉を寄せて視線を落とした。言われるだろうことも想定していたのだろう。じゃあ何で言ったんだ。私が聞いたからか。




