第三十九話 中吉と魔導遊技機
王都エルランジのカジノ区画、今最も王都内で賑わっているそこで1人の男が1人の獣人に尾行されていた。
尾行されている男はイルド=ビルメイク、王都の魔導学園に通う転生者で『ハデス』の常連である。
転生した当初こそはハーレムを作ると意気込んでいたイルドであったが、王都エルランジに到着したあたりから風向きが変わってきている。
それは王都エルランジでたまたま見つけてしまったこの世界では基本使われていない言葉『新装開店・新台導入』を目にしてしまったからだ。
中世風の異世界、それも田舎の方に転生し、娯楽はせいぜいチェスやリバーシ等のボードゲームしかなかったところでの魔導遊技機との出会い。転生する前は依存症レベルでパチンコ店に通っていたイルドにとって何よりも甘美な誘惑だった。
それ以来この世界の魔導遊技機にどっぷり嵌り、ハーレムを作ることは頭の中から半分以上抜け落ちている。『ハデス』でイベントがあれば学園をサボってでも向かい、『ダイア』では明らかに回収イベントなのに財布が空になるまで打ち倒すという嵌り具合だ。
最近では女神であるリノと一緒に行動していることが多い、もはや悪友である。
そんなイルドを尾行している獣人は学園で同じクラスで鼠の獣人でもある中吉だ。
尾行をしたことが無いのか、もしくは下手なのか分からないが通りがかる人が立ち止まって目で追ってしまうほど不自然な動きでイルドを尾行している。
また、見た目がマスコットにしか見えない為か凄くシュールな光景だ。もはや着ぐるみが尾行しているようにしか見えない。
「あやしいちゅ~」
むしろお前の方が怪しいと言えるような声を呟きながら尾行を続ける中吉。そんな中吉がイルドを尾行するのには訳があった。
数カ月前、イルドの魔法が凄い秘密は隠れて修行をしているからだと言い、同じクラスのマリカがイルドの事を探ったことがあった。その時マリカが何を見知ったのかは中吉には分からなかったがその日を境にマリカの魔法技術が上がってきているのだ。
もちろん友人の魔法技術があがることは良い事だ。
だが変化はそれだけにとどまらなかった。
その日からマリカは魔法技術が向上するのに比例して変な挙動をすることが増えたのだ。
講義中は虚ろな目をしてぼーっとしているし、さらに右手は何かを掴み捻るような動きをしている。実習でスライムの討伐が出れば討伐せずにじっと見つめ何かを期待するような顔をしながらニヤニヤと微笑んでいる――正直言って不気味だ。
同じクラスの友人の中にはそんなマリカの事を何かに操られているのではないかという人もいるし、悪魔と取引をしたのではないかという人もいた。
時々ではあるがそれはイルドにも当てはまるため、十中八九イルドが関わっていると中吉は予想したのだ。その為の尾行である。
尾行すること十数分イルドは大きな建物の中に入って行った。
「ここがイルドの秘密があるのかちゅ~?」
目の前にある煌びやかで大きな建物を見上げながら中吉は呟く。建物には魔導遊技機専門店『ハデス』と書かれていた。
大きな建物に圧倒され少しの間見上げていたが尾行している事を思い出すと慌ててイルドを追って入口から建物の中へ入る。
建物の中には人が溢れ混雑していた。老若男女、種族まで問わず様々な人が行き交っている。
辺りをキョロキョロと見渡すがイルドの姿は何処にも見えない。
「見失ったちゅ~……」
がっかりした声を出しながら中吉は建物の中をウロウロする。建物の中は四角の台が規則正しく並んでその前には必ず椅子がある、そこに座っている様々な人が喜怒哀楽をあらわにしながら思い思いに何かをやっている様であった。
イルドを探していた中吉であったが興味を引かれ空いている台に近づく。台の横には張り紙があり丁寧にやり方が書いてあった。
「ふむふむ、これは回胴式魔導遊技機というものなのかちゅ~……」
どこからか探偵みたいな帽子を被りキセルを加えながらやり方の説明を読み終えると中吉はおもむろに財布から銀貨を取り出す。
「イルドも見つからないしとりあえずやってみるちゅ~」
銀貨をメダルに交換すると隣の人を見真似してメダルを台に投入していく。ちなみに隣の席はスーツを来た出っ歯で細目のウサギの獣人が遊戯していた。
「3枚入れて~レバーを叩くちゅ~」
レバーを叩くとリズムの良い音が鳴りリールが回りだす。回っているリールを3つのボタンを操作することによって1つずつゆっくりと7を狙って止めていく。1つ、2つ目までは77と横に綺麗に揃ったが3つ目のリールに7を狙って揃えようとすると1つずれて止まった。
「壊れてるちゅ~」
揃わなかったので店員を呼ぶと見慣れた人が歩いてくる。
「あれ? 中吉君じゃないか」
向かってきた店員は『ハデス』でアルバイトをしている同じクラスのエレックだった。
「エレック、この台壊れてるちゅ~」
中吉が詳しく説明するとエレックは納得したように頷き、なんで揃わないかを教える。
「つまり当たらないと7が揃わないちゅ~?」
「そうだね、当たればランプが光ったりギミックが動いたりするからその後なら揃うよ」
「わかったちゅ~!!」
その後、中吉はギミックに吃驚したり、当たらなくていじけて見たりしながらも結局閉店まで居たのであった。
閉店後メダルを特殊景品に交換し、それを道具屋で売却した後中吉は気分よく王都のメインストリートを歩いていた。
「おもしろかったちゅ~、今度また行くちゅ~。あれ? でも何か忘れて……ま、いっかちゅ~」
こうしてイルドの事を忘れたまま一日が終わり、『ハデス』に新しい客が一人増えるのであった。
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