第三十八話 『ダイア』グランドオープン【後編】
回収イベント――それはどこの店でもやっているイベントだ。ライター○○来店や○○取材日等々、誰もが期待をして並び、整理券の順番に一喜一憂し、目当ての台に座れた人も出玉の無さに絶望する……。そんなイベントである。一部優良なお店もあるが……。
グランドオープン、それは一店舗で一回しか無い特別なイベント。そこで地元の人を優遇して整理券を配り、還元し、長く居つかせてじわじわと回収する。最初に出す店ですとアピールし、警戒心を無くすのだ。
イルドはそれをあたりまえだと思っていた。少なくとも今日までは。
転生前も何度かグランドオープンに通っていたがこんな回収イベントを見たことなかったのだ。まぁ、地方によっては初めから回収イベントのグランドオープンなんてざらにあるのだが……。
そして回収イベントだと確信したイルドが今何をやっているかと言うと……。
「う“うぅ……」
「あ“ぁ”ぁぁぁぁ……」
ゾンビの様な呻き声をあげながらリノの隣で『ダンジョンマスター』を続行していた。
イルドもリノも涙を流しながら口を半開きにし、呻くような声をあげながら銀貨を追加投資していく。
そう、イルドが選んだ道、それは……未練打ちと呼ばれるものである。
イルドも回収イベントだと心の中では……頭の中では……99%思っている。
だが、それでも残りの1%が捨てきれない。
偶々……そう、凄い低い確率で――全台高設定なのに座っている全員のヒキが弱く出ていないという可能性。それが心の中に引っ掛かり銀貨を追加投資させている。
イルドもこれが普通のイベントなら諦めて帰っただろう。
だが、出てなくてもこれはグランドオープン。転生前の世界、そのセオリーに合わせるならこれ以上に出すイベントが無いのだ。
つまり、明日以降は今日よりも出玉が無くなるだろう。
まぁ、見渡してもほとんどの人がメダルを持っていない状況なのでこれ以上と言うのは想像できないが……。
追加投資するために財布に手を伸ばす。
だが、無常にも財布の中には一枚の銀貨も残っていない。
「はぁ……」
イルドはため息をつくと深呼吸をして気持ちを切り替える。
「帰るぞ」
隣で財布の中身をひっくり返して銀貨が無いか漁っている駄女神に声を掛ける。涙と鼻水を垂れ流しながら空の財布を漁っている姿はどこからどう見ても女神には見えない。
「嫌よ!! せっかく並んだのに!! 粘れば……そう粘ればこの子は出るのよ!!」
台に縋りつきながら叫ぶ駄女神の首根っこを掴みイルドは引きずっていく。
「やだやだやだ!! まだ打つの!! イルドの鬼畜!! 悪魔!!」
「うるさいうるさい!! 第一、財布の中身空じゃねーか」
そしてイルドはこのままここに居たら絶対周りの人に金貸してくれと言いそうな駄女神を引きずって『ダイア』を後にする。
「はぁ……6座れると思ったのにな……」
帰り際イルドのついたため息は店内のBGMにかき消されたのであった。
結局『ダイア』の店内はお祭り騒ぎな雰囲気には一切ならず、終始お通夜ムードが漂っていた。
時間が経つにつれ、お通夜ムードから阿鼻叫喚の地獄に代わり、店内には一日楽しめると思ってきた客の打ちひしがれた姿があった。
アイテムを換金する道具屋では婆さんが一人、『ダイア』からアイテムを換金に来る客が大量に来ると思い身構えていたが終始暇なものだった。
閉店後――『ダイア』の事務所内ではタルスラ伯爵が部下に金を数えさせていた。
「ひい、ふう、みい……素晴らしい!! 素晴らしい売上だ!! ブホ、ブホホホホ笑いが止まらん」
床、机が大量の金貨と銀貨で埋まり煌めいている。
「ハデスに合わせてカジノよりレートを安く設定したが……これだけ客が来るとすぐ回収できそうだな」
散らばった金の山を見てタルスラ伯爵はニヤリと微笑む。
「伯爵、明日の設定はどうされますか?」
クビにしたコンサルタントのギルクに代わり部下の一人がタルスラ伯爵に尋ねる。
「1だ!! 明日も、明後日も、その次の日もずーーーっと1だ!!」
もはやタルスラ伯爵の瞳には目先の金しか映っていない。
そしてタルスラ伯爵は考える――こんなにも儲けられる魔導遊技機、一店舗だけじゃなく二店舗、三店舗……いや大陸中に作ればどれほどの利益を生むのか……。
タルスラ伯爵の瞳は怪しく輝いていた。
後日――王都以外にも魔導遊技機店が建設され大陸中に広まっていくことになる。




