第三十七話 『ダイア』グランドオープン【中編】
「いらっしゃいませ~!!」
数多の店員による元気な挨拶が『ダイア』のホールに響き渡る。グランドオープンの為『ダイア』の元顧問であるギルクにより召集されタルスラ伯爵に雇われた人員だ。
王都に出来た魔導遊技機専門店。皆そこで働けるのを誇るような顔をしている。
ホールに挨拶が響き渡る中で続々と人が客として入場していく。『ハデス』の副店長である北泉瑞穂をはじめ、店員のウィル、転生者であるイルド、店員に連れて行かれたはずの女神リノ、取材する為に来店した魔導遊技機ギルドのSランクプロ岡崎清龍、ケンやサムまで来店していた。
『ダイア』のラインナップは回胴式魔導遊技機が中心だ。その中でもタルスラ伯爵が出した要望通りに半分が初心者から上級者まで楽しめ、光れば大当たりというシンプルな台『デル☆スラ』だ。
次に多いのが『最終戦争』という一撃台だ。こちらも初心者から上級者まで楽しめるが浮き沈みの差が激しいギャンブル性の高い台になっている。
その他の台は数台ずつしか入れておらず回胴式魔導遊技機コーナーの片隅に置かれている。コアなファンがたくさんいる『魔導少女サヤ』、中級者から上級者向けで中身を知ると楽しい台である『ダンジョンマスター』、そして目押しスキルが必須の台『ハリケーン』等だ。
96番で入場したイルドは店内の配置を見渡しながら目当ての台を探していく、キョロキョロと視線を彷徨わせながら向かったのは『ダンジョンマスター』のコーナーだ。『ハデス』には20台置いてある『ダンジョンマスター』だが『ダイア』には10台しか置いていない。
既に8台は確保されており、並びで2台が空き台になっていた。10台しかない機種を96番で取れるとは運が良いと思いながら席に着く。
そして周りの機種を見渡す。『魔導少女サヤ』、『ハリケーン』等の台がこの島には配置されていた。各数台ずつしか置かれていない所を見るとここはいわゆるバラエティコーナーの様だ。
『魔導少女サヤ』には『ハデス』の瑞穂副店長が上機嫌で座っており、『ハリケーン』には当然の如く岡崎清龍が台を確保していた。
200番、300番……と確保の券がどんどん置かれており、バラエティコーナーも席が埋まっていく。そして380番で最後の『魔導少女サヤ』が埋まると、走ってきたケンが埋まっている『魔導少女サヤ』を見てその場に崩れ落ちる。
その後、ケンは後から追いかけて来たサムに引きずられながら一番台数のある『デル☆スラ』の方へと消えて行った。
600番、700番……と人が入ってくるがここでイルドは違和感を覚える。
10台しかない『ダンジョンマスター』、それは『ハデス』でも人気の機種の一つだ。それが自分の隣だけ不自然に座られないのだ。
何人かは近づいてくるが台の目の前に来ると首をかしげながら帰っていく。
怪しい……。
違和感が不審に変わったころにそれはおこった。
「あ~、空いてるなんてラッキーね!!これも日頃の行いが良いからかしら」
ギギギと擬音が付きそうな感じで空台の方へイルドは首を動かすと、そこには店員に連れて行かれたはずの駄女神リノが居た。
堂々と777番と書かれた台の確保券を置き笑顔で銀貨を1枚メダルへ交換している。
「おい、駄女神。お前なんかやったろ!!」
思わずツッコミを入れてしまったイルドに対してリノは視線が宙を泳ぐ。
「ナニモヤッテナイワヨ」
「嘘付け!! なんだその棒読みは!! 明らかに777番まで座られずに残ってるとかおかしいだろ!!」
「いや~運が良いわよね。きっと並んでるときに使った運を上げる魔法のおかげね!!」
絶対に運が良くなる魔法のせいじゃないだろうと思いながらも、本当の事は言いそうにないなと悟ったイルドは自分も銀貨をメダルと交換する。
「お前絶対碌な死に方しないぞ」
イルドがそう呟いた所で『魔導少女サヤ』のコーナーから絶叫が聞こえる。
「瑞穂副店長お願いだから台を譲ってくれぇ!!」
「嫌よ!! 絶対に嫌!!」
整列の時と同じようにウィルが瑞穂の足元で縋りつく光景がそこにはあった。
イルドはその光景を無視し、視線を自分の台に向ける。
もう何も気にしないで自分の台を楽しもう、そう心に決めた男がそこには居た。
そしてグランドオープンのカウントダウンの声が聞こえ、遊技が開始されたのだった。
昼からグランドオープン、遊技が開始されて現在は15時を回ったところだ。3時間……高設定がかなりの台数回されていれば徐々にドル箱を使い、メダルをカチ盛りにして出玉を誇示する人が出てもおかしく無いころだ。
店内には相変わらずグランドオープンのためか盛大な音楽がかかっているし、ここのオーナーと思われるタルスラ伯爵の挨拶やその他の店内放送も定期的に聞こえてくる。
だが、実際の台はどうだ。
結構な数の銀貨をメダルに交換し、『ダンジョンマスター』を回していたイルドは手を止め周りを見渡す。
横一列に10台並んだ『ダンジョンマスター』……箱を使っている人が一人も居なかった。
続いてバラエティコーナー全体を見渡す。『ハリケーン』を打っている岡崎清龍が少しドル箱を使っているぐらいで、他に出玉を確保している人は見当たらない。
しかも出ている『ハリケーン』は特殊な台だ。上級の目押しスキル保持者がしっかり打てば少しずつでも出玉が増えていく。つまり設定が1だろうが勝てる台なのだ。
イルドの隣ではリノが止まらない現金投資に少し涙ぐんでいた。
「おかしいよぉ……グランドオープンって一番お客さんに還元するイベントじゃなかったの……もしかしてあっちの世界の常識は当て嵌まらないの……」
涙ぐみ、ぶつぶつ呟きながら台を打つその姿はまさに中毒者だ。
まさか……。
不安になったイルドは立ち上がり、他の機種を見に行くことにした『最終戦争』を無視して通り過ぎ、一番入っていて一番設定が推測しやすい『デル☆スラ』のコーナーに向かう。『最終戦争』を無視したのは特別な役を引くと設定に関係なく勝ててしまう為だ。
そして辿り着いた『デル☆スラ』のコーナーはスライムの絶叫より、客の呻き声の方が多く聞こえる。
大当たりの表示は『ハデス』の平均の2/3ほどしかついていない。
たまたまビックに偏った人のみがドル箱を使っているような状況だ。
これを見たときイルドは悟ってしまった。
「これ、回収イベントだわ……」
徐々に増えているブックマークが嬉しい作者です。
6号機の規定が決まったようですが、一撃性が緩和されずさらに締め付けられたのは業界的に厳しそうな気がします。
ただ、理論上AT純増8枚近くまで通せるかもしれないので2,400枚を連発出来る台とか出れば面白そうですね。




