第三十五話 神託と整理券
朝――小鳥が囀り、カーテン越しに朝日が差し込む爽やかな朝だ。
そんな朝、王都のとある屋敷の中に転生者であるイルド=ビルメイクはぐっすりとベッドで眠っていた。
時刻は午前六時をまわり、もう一時間も経つとメイドのココナが起こしに来る。そして魔導学園に通い、マリカや中吉達と他愛もない話で盛り上がる。そんなイルドの一日が始まろうとして――。
『――え!? そっちの仕事は下級の天使にでも任せなさいよ!! 私はこれから忙しいの!! 創造神に怒られるのでは? それを上手く誤魔化すのが助手の仕事でしょ!! ――ってこれもう起動してない? 今喋っていたの全部入っちゃったみたいなんですけど!!』
変な話声がイルドの頭の中に響く。その声によって若干目覚めたイルドはどこかの駄女神に似た声が聞こえたなと思いつつも、夢だなと勝手に解釈し目を閉じる。二度寝は最高だ、転生する前など二度寝はおろか三度寝、四度寝と惰眠を貪るのが大好きだった。十五分間隔で目覚ましを掛け心地の良い惰眠を良く貪ったものだ。
そんなことを思いながら夢の世界に踏み入ろうとするとまた脳内に声が響き始めた。
『コホン……――イルドよ、転生者であり女神の使途であるイルドよ――。さぁ聞くのです、そして手に入れるのです。手に入れる秘宝は『ダイア』の整理券――ダイアといっても宝石の引換券ではなく二店舗目の魔導遊技機専門店である『ダイア』のグランドオープン整理券。手に入れる枚数は二枚、もちろん私とあなたの分――ちゃんと前日から並んで十番以内を取るのです』
――は? 朝から神託みたいに俗なお願いを、しかも女神からされるというとんでもない事が起きて目を覚ます。
布団を跳ね除け周りを見渡すが駄女神である銀髪の女――リノの姿は見当たらない。どうやら神界から話しかけてきているようだ。
「おい駄女神!! お前に言いたいことはたくさんある……まず一つ、なんで『ダイア』がグランドオープンすることを知っているのか、最近広告が出されたばかりだぞ」
『神界にも折込広告ははいるんです!!』
顔は見えないがドヤ顔で言ってそうだ。それにしても折込広告は誰が届けるのかが若干気になるところだが話を続ける。
「納得は出来ないし、誰が折込広告を入れているのかが気になるが……言いたいこと二つ目、なんで俺に言うんだよ!! 転生者は他にも何人もいるだろう!!」
そう、転生者はこの王都に何十人も――下手したら百人近くも居るのだ。『ハデス』の常連の転生者ですらイルドでも十人近く知り合いがいる。
『勿論他の転生者にも言ったわよ、でも私がこんなこと言うとか信じてもらえなくて……』
「あー……」
転生者にとって女神リノは加護を付けこの世界に転生させてくれた信仰に値する方になっているらしい。確かに黙っていれば美人だし、事務的なやり取りしかしていなければ残念な回胴遊技機中毒の駄女神とは気付かないだろう。
「まぁ、大体分かった。最後に三つ目、なんで十番以内じゃなきゃダメなんだよ」
『私の打ちたい台が十台しか入らないみたいなの!! グランドオープンでそれを打ち倒したいの!!』
まだ何が何台入るかの情報は出ていなかったはずだが、女神だから何でもありなのだろうか……若干イルドは頭痛を感じる。
「とりあえず把握した。まぁ十番以内は約束できないけど整理券は俺も欲しかったし並んでくるよ。ところで前に貰った加護スキルの事なんだけど……」
そう、イルドは女神リノより加護である1/8192を引けるスキル『神降臨』を貰っていた。そして『最終戦争』で使ってみたが発動しなく、解析を見たら特殊役『神話』の確率は1/16384だったという残念な結果が出ている。
「これ、確率変えられないかな……」
『無理よ、勝手に加護スキルの能力をポンポン変えたら創造神に私が怒られるもの……あ、でも十番以内の整理券を持ってきてくれれば考えなくは――』
「ぜひ、十番以内の整理券を手に入れて参ります!!」
即答だ。
『神話』揃いのあの瞬間を何度でも体感出来る、その為ならなんだってやる覚悟があるのだ。
『じゃあお願いね。私はこれからゾロ目の日なんで、島に並ばなきゃならないから!!』
――プツンと音がして会話が途絶える。
なんて女神だ、人に整理券の事を押し付けて自分は今からイベントに並ぶとか……なんてうらやましい。
「はぁ……なんか朝から疲れた」
こうしていつもと違うイルドの一日が始まるのだった――。
そして一方女神リノは……。
「え!? なんで私の前で抽選打ち切りなの!! ねぇなんで!!」
二千人を超える列の中目の前で抽選を打ち切られていたのだった。




