第三十四話 『ダイア』グランドオープンへ向けて
その日王都に激震が走る――。
『ハデス』に続く魔導遊技機専門店がカジノ区画に出来るという話が魔導遊技機ギルドより発表されたのだ。
多くの者はグランドオープンの日を今か今かと楽しみに待ちわびていた。
あらかた工事が終わった『ダイア』の店内を二人の男が歩く。
先を歩くのは『ダイア』のオーナーになったタルスラ=レイモア伯爵、もう一人後ろからタルスラ伯爵について歩くのは王都屈指のコンサルタントであるギルクという男だ。
このギルクという男はコンサルタントとしては有能だが黒い噂が多く、あまり表には出てこない。
そんな男だが、今回タルスラ伯爵は財力に物を言わせツテをたどり『ダイア』の顧問として連れてきたのだった。
既に配置された魔導遊技機をギルクはゆっくりと見渡し、ほぅと息を吐き出す。
「――素晴らしい」
コーティングされていても分かる者には分かる魔導遊技機から出るオリハルコンの輝き――希少な金属を使ってやることが娯楽という無駄さ――だが、それが良いという風にギルクは一言だけ呟いた。
その呟きが聞こえたのかタルスラ伯爵が歩みを止めギルクに振り返る。
「ブホホ! 素晴らしいだろう、金を掛けなくてはさらなる金は手に入らん! 一台一台に莫大な金がかかったが『ハデス』の客を引き抜いて直ぐに取り返してやるわ! その儲けを考えると笑いが……ブホホ!ブホホホホ!」
既に儲けた気でいる豚の――タルスラ伯爵の様子を見てギルクは一度目を閉じ冷静に考える。
確かに金にはなりそうだ、王都唯一だった『ハデス』に対抗する二店舗目であり、魔導遊技機は今や大陸全土で有名になりつつある。カジノ区画に店舗を構え、立地も良い。外観も内装も『ハデス』より煌びやかなぐらいだ。人を雇いグランドオープンの広告もばら撒いている。失敗する要素はないだろう。
考えをまとめたギルクは目を開くとタルスラ伯爵に尋ねた。
「――それで伯爵。もう店舗も人員も揃っているし、広告だって万全だ。グランドオープンするのに際し、最後に決めることがあるのだが…」
「ん? 他に決めることなど無いだろう」
「いや、一番重要な部分が決まっていない。回胴式魔導遊技機には設定というものがある。出玉に重要な部分だ。これをどうするかで客が儲けるか店が儲けるかがほとんど決まるといっても過言ではない。1から6、そしてEXと7段階の設定があるのがほとんどだ。1が一番店側が勝てて――」
「――全台1だ」
「は? 今なんて言いました?」
聞き間違いかと思いギルクは問う。設定は本当に重要な部分だ、1だとほとんど客側が勝つことが無いし、逆に6ならほとんど客側が勝つ。EXなんて入れた日には店が勝つことは無いだろう。あの『ハデス』ですらEXは特別なイベントでしか入れないほどだ。
だが、今回はグランドオープンという店舗で一度しかないイベント。つまりそれ以上に出すことは無いという客への宣言にも等しい。例え赤字になろうとも最初に客にある程度還元すればその客は味をしめて常連となる。
そうすれば徐々に設定を下げ、客から回収し最終的には店が儲かる。客が少し離れてきたところでグランドリニューアルとでも名前を付けてイベントを行い、少しでもまた還元してやればいいのだ。
これを繰り返すことで客から無限に毟り取れる素晴らしいシステムとなる。
それを今こいつ――いや、タルスラ伯爵は全台1を使うと言った様な気がする。どうやら耳がおかしくなったようだ。
「だから全台1と言ったのだ!! 当たり前だろう、余がこんなに金を掛けたのだぞ!! 少しでも早く取り返さなくてどうするのだ!! どうせ設定なんて中を見なければ確認できんのだ!! 客が出なかったら『今日は運がありませんでしたね』とでも言っておけ!」
どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。
設定は中を見なければ確認出来ない、それは確かだ。ギルクも回胴式魔導遊技機で時々遊ぶことがあるのでそれは分かる。
ただ、確認は出来ないが推測は出来るのだ。
特に今は魔導遊技機ギルドのSランク――岡崎清龍が初心者にも回胴式魔導遊技機を分かりやすく教える番組等を放送している。全台が1とは気付かれなくても大半が1を使われていると気付くことは出来るだろう。
「伯爵それは余りにも露骨すぎはしませんか? 第一最初に客が――」
「うるさい!! 余を誰だと思っている!! 下賤な庶民に渡す金など無いわ!!」
「いや、しかし――」
「愚痴愚痴と言いおって――それならお前はもういらぬ!! この金を持って早々に去るがいい!!」
投げつけられた皮袋が鈍い音を立てて床に落ちる。
ギルクはそれを拾うとタルスラ伯爵に会釈し、『ダイア』から立ち去るのだった。
『ダイア』を出た後ギルクは投げつけられた皮袋の中身を覗き見る。
その中には大量の銅貨が詰まっていた。
ギルクは『ダイア』を振り返ると苛立ちながら吐き捨てる様に言う。
「潰れちまえこんな店!!」
こうして『ダイア』のグランドオープンが幕を開けるのだった。
作者は今年2回グランドオープンに行きました。
え? 結果? うん、『ダイア』だったわ。




