第三十一話 オールナイト⑤(ご利用ありがとうございました)
一夜が明けイベント二日目の昼。ハデスの店内はイベント期間だというのに席が空きはじめている。
昨日の開店から打っていた人は明け方に力尽きた人が半数で後の半分も今の時間はほとんど残っていない。店内に掲げられたモニターを見ると出玉のトップは「35,000枚」回転数のトップは「22,000回転」となっており、追いつけなさそうな人は諦めて新年の式典を見に行ったり、酒を飲みに行ったりと退店してしまっていた。
そのため、今ハデスで打っているのは普段王都エルランジに住んでいて打ちに来ている常連客はほとんど居なく、他の街から式典を見た後寄ってみたという初心者の人が大半をしめていた。
初めて見る魔導遊技機に他の街から来た人たちは戸惑いながらも楽しんでいる。
そんな光景を俺にもあんな頃があったなぁ、どうしてこんな苦行に身をやつしているのかと、遠い目をしながらも手はレバーを叩き、ボタンを押し、目は開店するリールを追いかけながら回胴式魔導遊技機を打っている岡崎清龍は心の中で思う。
現在清龍はモニターに表示された「35,000枚」という大量の出玉を叩きだし、飯を食わず、最低限しか便所にも行かず「22,000回転」という出玉部門と回転数部門のトップに君臨している。
二位との出玉の差は7,000枚以上あり、結構余裕がある。さらに出玉部門の二位の人は帰り支度を始めている為、かなり差枚には余裕がある。それならばもう切り上げて帰って寝たいところなのだが……そうもいかない。それを許してくれない人物がつらそうな顔をしながらも隣で打ち続けている為だ。隣に座っているサムは今にも倒れそうな顔をしているが目の輝きはまだ失われてはいない。むしろ疲れているはずなのに目押しの正確さは上がってきているような感じもする。出玉は20,000枚も差がある清龍とサムだが回転数だけは500も差が無い。つまり清龍がここで辞めると一時間も経たない間にサムに抜かされてしまうのだ。
恐らくハデスのオーナーは出玉部門だけトップをとったぐらいじゃ満足してくれないだろうと清龍は考えている。オーナーから圧力をかけられている身としては負ける事だけは出来ないのだ。
「そろそろ限界じゃないのかサム? お前はもう頑張ったよ、そろそろ家に帰ってゆっくり休むといい。換金すれば金貨3枚にはなるだろ、給料の二か月分ぐらいあるんだしもう十分だろう」
「……いや、確かにお金に関しては十分かもしれない。だけど俺は龍にこの機種で勝ちたいんだ。プロであり、この機種を極めるきっかけになった龍に……そのためならまだまだ打てるさ」
そういうとサムはより早く、より正確にハリケーンを打ち始める。
清龍としては自分が休みたいから現状を把握させサムを帰らせようとしたのだが返って火をつけてしまったようだ。失敗したな……と思いながらも清龍は覚悟を決める。
「俺もやすやすと負けてやるつもりはないさ、俺はこの勝負に勝って出玉と回転数部門の頂点に立ち――オーナーに休みを要求するんだ……」
「え? トップ取ってそんなんでいいのかよお前……」
「もうずっと休んでないんだよ俺は! 俺……この戦いが終わったら……アリスに仕事投げて休暇取るんだ……」
「龍……それ死亡フラグだぞ」
「冗談はともかく後十時間だ――腹はくくった! 打ち切ってやる」
こうして清龍とサムは残り十時間、長かった二日間のラストスパートに入ることになる。
「なぁ、魔王知ってるか? 三大欲求――食欲、性欲、睡眠欲とあるけどこの中で一番我慢できないのは睡眠欲だ。俺は今自分の身を以て体験している」
「安心しろ勇者、余もだ。まさか魔王である余がこのぐらいで疲労から睡眠を欲しがるとはまだまだだな」
「しっかし、出玉はともかく回転数部門トップの奴何者だよ。疲れがないのか? それとも機械種族の者なのか?」
「いや、勇者。トップは清龍だ、さっきアクドから聞いた情報が正確であればだが……」
「化物かあの人――やっぱプロだと回胴式魔導遊技機をやるに対して職業補正でもかかるのかね」
「さすがにそんな話は余も聞いたことがないな。恐らく清龍自身の強さ――いや、火事場の馬鹿力なのかもしれないな……」
「プロは一般人には負けられないってことか」
「まぁ……そういうことにしておこう」
魔王は時々城に清龍を呼びつけて回胴式魔導遊技機を一緒に打っている。その時結構清龍から愚痴を聞かされることがあるので今回ハデスのオーナーから半分脅されている様な状況ということは知っていた。
時刻は夕方を回り、出玉は魔王が『25,000枚』、勇者が『24,000枚』と僅差である。勇者と魔王といえど三十時間以上も同じ態勢で遊戯しているのは疲れたのかたびたび席を立ちストレッチをしていた。僅差とはいえ1,000枚も出玉を離されている勇者は疲労と眠気とは別に少し悔しげな表情をしていた。そんな中、急に魔王が勇者に話しかける。
「なぁ、勇者よ。今回の勝負はここで終わりにしないか?」
「はぁ? なんでだよ、お前のが有利じゃないか」
急に魔王が提案してきた内容に勇者は難色をしめす。
「そもそも今回はイベントであって余と勇者の直接対決ではないしな。元はあの神官と錬金術師との四人の対決という話だったしな」
「いや……あの人は本気で神官じゃなく女神なんだけどな……まぁいいや確かに四人で始めた対決だったが二人とも帰ってしまったしな」
「神官は店員に回収されたとも言うが……それに――」
「ん?」
「近いうちにまた勝負出来るだろうさ……清龍の情報が正確なら……な」
そう言いつつ下皿にあるメダルを全部箱に詰めると店員を呼び出す魔王。
「おい魔王、本当に帰るのか? 恐らくこのままやってたら勝ったのはお前だぞ」
「そうかもしれないがな……まぁプロとはいえただの人間にトップを取られては勇者との戦いに勝っても勝ったとは言えんよ」
店員が来ると魔王は指でバツの字を作り店員に辞めると合図をすると大量に積んであった出玉と共に去っていった。残された勇者はモヤモヤしたやりきれない思いを抱きつつも自分も帰るために用意を始めるのだった。
閉店五分前――。
ハデスの店内に二日間のイベントのご来店とご利用ありがとうございましたとのアナウンスが流れる中、ハリケーンの島には人だかりが出来ていた。
疲労しながらも正確に目押ししていく清龍とサムを他の街から来た人は信じられない様な顔をして見ている。
そして間もなくして店員が来て終了の合図がされた。
結果――出玉部門、回転数部門とトップになったのはこの世界唯一のプロである岡崎清龍。店内に設置されたモニターには出玉『50,000枚』回転数『31,000回転』と表示されていた。
トップを取った清龍は台に突っ伏し、隣では悔しそうな、それでいて何かやり遂げた表情でサムが清龍を見ていた。サムの出玉は『30,000枚』と後半追い上げたが遠く及ばなかった。回転数は『30,800回転』と清龍を追い詰め、堂々の二着入賞を果たしていた。
「完敗だった、流石に龍にはまだ勝てないな」
「いや、俺もかなり追い詰められたよ。今度やったらどっちの部門でも負けるかもな」
突っ伏していた清龍だったがサムの声に身体を起こし答えると右手を差し出す。それにサムも右手を差し出し握手で答える。
「さて、じゃあ終わったことだし飲みに行くか! 今日はこれだけ出たしケンとウィルも誘ってちょっと高い店行こうぜ」
「あぁ、そうするか! 今日ぐらい贅沢なことしてもいいだろう。アリスも呼んでいいか?」
「もちろんオッケーだ! やっぱ男ばっかりじゃむさくるしいからな」
こうして二日間に渡ったハデスのイベントは幕を閉じたのだった。
『ご利用ありがとうございました! またのご来店をお待ちしています!』
「――って誰だお前!」
最後の客が退店し、店員一同が入口であいさつする中に混ざってそれは居た。四天王の一人豚の亜人ブーモだ。
彼は二日目ようやく空きだした台に座ろうとしたが、目押しを頼んでいた老人達が次から次へとブーモに用を言いつけて座れずそのまま店員みたいなことをしていた。そして結局は最後まで完遂し、店員と並んで客に挨拶までしていたのだった。
こうして二日間打てなかったブーモだが、後日手伝ってくれた事をオーナーから感謝され娘に会うことが出来るのであった。
区切りまで一気に書ききったっ
本来なら一月中にはここまで書こうとしてたのに気が付いたらもう二月の終わり……
来週マ○ハロ5打ちたいなぁ




